第42話 談笑と幕間

「あ、戻ってきたのか」

 社長室に入った俺と山田さんを見て、武装男—西村は机に座ったまま低い声を出した。どうやら肩のトランシーバーで連絡を取っていたらしい。

「どうだ名探偵?その女から話を聞いて犯人の目星はついたか?」

 その女、か。

 山田さんの言葉が正しいなら、こいつは間違いなく山田さんのことを知っている。

 しかし口調からすると明らかに隠す気なのか。

 そこに触れないようにしつつ、俺は気軽に返事する。

「まさか、情報が足らな過ぎる。やっぱり社長さんからも話を伺いたい」

 待ってましたとばかりに頬を吊り上げた西村は、ソファに座る社長に目線を向け、

「もちろん、俺もそうしてもらうつもりだったさ。コイツの方が有益だろうしな」

 あの後、山田さんから色々な話を聞いたが、特に必要な情報は出てこなかった。

 今回のテロに関しても、突発的だったこともあり、分からないことや不鮮明なことが多いらしい。

 また6年前の事件も彼女の関与は事後だったため、あまり有益そうな情報は無かった。

 そういう意味では、最初からの関与があるであろうこの人は、何かを掴んでいてもおかしくは無いというより、状況的には間違いなく何か知っている。

「わ、私は、どうすれば良いのかね?」

 社長が汗を拭きながら辿々しく尋ねる。

「ご安心下さい。ボクについてきて頂ければ結構ですので」

 オレは社長に軽く一声掛けると、社長は安心したように胸を撫で下ろした。何がそんなに不安だったのだろうか。

「さっさと済ませてこいよ」

 西村がおどけたように皮肉を漏らす。

「……任せとけ」

 そんな皮肉に、オレは冗談っぽく答える。

 まるで、対立関係をハッキリさせるかのように。




 ※※※




 オレは先程と同様のソファに腰を下ろすと、社長がドアの向こう側をすごく気にしてるのが視界に入った。

「どうかしました?」

 すると、社長は右手を口に添えて、オレに最低限届くほどの声量で、

「……なぁ、君はこのままあいつらの言いなりになったままで大丈夫なのか?役目を全うしたいのか知らないが、状況が状況だからな……これじゃ飛んで火に入る夏の虫だぞ?」

 少し強気になった眼つきでそう訴えてくる。

 オレとしてはこれ以外にすることが無いからやっているのだが、傍から見ればそうなるか。

「ご安心下さい。必ず生きて帰しますので」

 ——そもそも、オレたちはテロの人質なのだ。捜査しているとそのことを忘れそうになる。

 ふと、同じく人質状態である、5階にいる3人のことを思い出す。


「あいつら……何してるのかな」


 この言葉は、別に心配する気持ちからの言葉ではない。

 むしろ、あの美咲と江のことを心配できるほどオレは人間が出来ていない。


 きっと、あいつらなら——

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