第34話 全く見えない—
テロの実行犯である女、そして白澤くん、たった2人の男女がいなくなっただけなのに、店の中は恐ろしいほど静かに感じられた。
私は、というよりこの店にいる全員は、この僅か10分もない間で、このテロが本物だと理解した。
目の前で見せつけられた、拳銃の黒い光沢が、現実を叩きつけた。
絶望の
それはきっと美咲さんと江ちゃんも同じはず……
「江も見る?私が撮った動画」
「勿論です。さっきこっそりと犯人を撮影してたやつですよね?」
なんて私の考えなんて根底から覆す2人に、私はただ目を丸くするしか無かった。
「ちょ、ちょっと、2人とも……?」
「ん?真希もこれ見る?一応探偵部だし」
「美咲さん、一応って言っちゃダメですよ」
軽く
この人たちは、こんな状況でも抗おうとするのか。
「2人は、何をする気なの……?」
「何、って……さっき部長が言っていたように、どこで見られているか分からない以上、私たちはここから動くわけにはいかない。逆を言えば、ここでコソコソと何かをする分には大丈夫ってこと。とりあえず、さっき犯人と部長の会話をビデオで盗撮してたから、それを見ようと思って」
「思って、って、白澤くんが犯人に連れて行かれたんだよ?よくもそんな冷静にいられるね・・しかも私たちを庇ってくれたのに……」
「だからこそ、私たちは部長の考えを棒に振るったらダメなの」
そう言って美咲さんは、スマホの画面を私に向ける。
そこには、犯人と白澤くんが向かい合って話しているところが映っていた。
美咲さんが再生ボタンを押すと、ハッキリと白澤くんの声が聞こえてくる。
『悔しいことに今の俺にはこの状況を一発逆転できる奥の手が全く見えない』
スッとスマホを下げると、美咲さんは私を見据えて、
「今、部長は『見えない』って言った。だけど、『無い』とは言ってないの。つまり……」
一拍置いて、彼女も白澤くんのようにニヤリと笑みを浮かべた。その笑顔はとても狂暴で、凶悪
——もし敵だったら、腰が抜けてしまうかもしれない、と思わせるほどだった。
「……つまり、探し出せば見つかる、ってわけ。部長はもう可能なことが限られているけど、私たちには沢山ある。彼に出来ないことを私たちがすべきでしょ?」
言い終わると、私に興味を無くしたかのように視線をスマホへ向け、操作を始める。最初から興味なんて無いだろうけど。
美咲さんの考えはかなり詭弁な気もするが、歯止めが効かない思考にいることは理解した。
念のため江ちゃんに目を向けてみると、何故か美咲さんを見て微笑んでいた。可愛い。
「江ちゃん、何が楽しいの……?」
「え?えっと、なんと言うか……部長みたい、って思っちゃって」
「え、ええ?どういうこと?」
「ふふ、真希さんには分かりませんよ」
美咲さんに聞こえないくらいの小声を耳元で呟いて、江ちゃんも視線をすぐにスマホへ向ける。
2人に言いたいことは色々とあるが、これ以上は余所事をしていると置いていかれる気がする。
「はぁ……もういいよ……」
重い頭をどうにか維持して、私もスマホの画面を注視した。
※※※
『14階です。14階より上階へ行かれる方につきましては、別フロアにございますエレベーターにお乗り換え下さい』
軽快なベルの音の直後、目の前の扉が左右に分かれていく。
すると背中を銃の先で少し押されたので、オレは一切の抵抗なくエレベーターから出る。
「どこに行けばいいんだ?エレベーターを乗り換えるのか?」
少し推測した上でのオレの問いに対し、度会は見えない位置に立ったまま、
「ええ。乗り換えたエレベーターで16階へ行きなさい」
オレは黙って一歩を進める。
一方で度会はオレとの距離を全く変えることなく付いてきながら、ゆっくりと声を出した。
「私たちの目的地は、16階の『社長室』よ」
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