第32話 依頼人の影
窓の外には、相変わらず残骸が散らばっている。
流石にあれだけの騒動があったので、外にはパトカーの姿がかなり見える。
「問題は、犯人の狙いだな……」
こうなった以上、警察がビル内と連絡を取りたがるのは必至。そして、テロの実態が明らかになるのも時間の問題だろう。
中にいる人質は、携帯は没収されていないものの、外界と繋がらないのも事実。もはや現状で警察がビル内の様子を知る方法は限られている。
「……はぁ」
何も見えないこの事件に思わず溜息が漏れてしまう。
美咲は席に座らせたので、この店で立っている客はオレだけだ。
———だからこそ、足音に気付いたのは割と早かった。
「……何してるんですか?」
店の奥から俺の方向へ歩いてきたのは、1人の女性店員だ。
それも、間違いなくさっき俺たちに接客をしてくれた店員だ。胸元には「
「僕の話を聞いていましたか?何の意図もなく動かない方が……」
「残念だけど、私には意図があって動いているの」
そう言って度会さんは腰のポーチをゆっくりと開く。やけに丁寧に手を突っ込むその仕草に、オレはただ胸に騒めきを覚えた。
そして、その懸念は的中した。
「勝手に動いたら、撃つわ。私の指示に従って」
鈍い金属音と共にこちらへ向けられた拳銃の銃口を見つめ、オレは息を呑んだ。
店の空気が張り詰めるのを、肌で、耳で、目で、鼻で、五感で、痺れるように感じられた。
視界の端では、テーブルにいた美咲が思わず立ち上がろうとして、すぐにおとなしく座るのを確認できた。
これだけ不利な状況で抗おうとするのは、あまりに短絡的だろう。
「……オレは、手を上げた方が良いのかな?」
「そうね、両手を開いてゆっくり頭の上にして」
言われるがままに、両手を開いた状態でそろりと持ち上げ、後頭部で重ね合わせる。
すると途端に、度会から警戒心が格段に薄れた。
よほど、下ろされていたオレの腕をかなり気にしていたらしい。
「オレたちはあんたをテログループの一員だと判断して良いんだよな?」
「ええ、もちろんよ。ずっとあなたのことを見ていたわ。テロの犯人としてね」
「その犯人さんは、異物であり敵であるオレのことを排除したいのかな?」
少し挑発するような口調で問うと、度会は鼻で笑うと、
「オレの身勝手があんたらの琴線に触れたのなら謝る。だが……」
「いいえ、その逆。私たちは君を待っていたの……探偵部さん?」
予想外の返事に、オレはただ目を丸くする。
動揺を隠せないオレに、度会は銃をブレることなく突きつけながら言葉を続けた。
「初めまして。私が———私たちが依頼人の綿貫 竜也です」
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