第31話 閉ざされた世界

 止まない喧騒。蠢く絶望感。

 目に飛び込む全てが、恐怖の出来事が事実だと告げる。

 完全に閉め切られた建物。そこに閉じ込められたのは3000人もの一般人。彼ら彼女らはすべて『人質』だ。無論、オレもその一員なのだが。

 窓際で外の様子を見ていたオレは、ふと近くの席にいた2人組の女性客の声が聞こえた。

「ね、ねぇ、やばくない……?」

「は、早く逃げようよ!」

 服装からすると、恐らく社員らしい2人はそう言って立ち上がる。

 それに気付いたオレは、咄嗟に口を開く。

「やめろ!無闇に逃げるな!」

 突然の大声に一瞬で静まり返る店内。2人も固まっている。

「さっき放送にあっただろ、『怪しい行動を見つけたら、即座に爆破する』って。犯人が何を『怪しい行動』と判断するのか想像が付かない今、勝手な行動は控えた方が良い。そもそも、敵がどこで見てるか全く分からない」

 オレがそう言うと、女性2人は抵抗せず席に座る。

「5時ちょうどに響いた轟音と、同時に発生した振動は、恐らくどこかで実際に爆発を起こしたんだろう……。どうやら、放送にあった『爆弾』と『ビルに監禁した』というのは本当だろうな」

 店にいる客たちに残酷な現実を伝えると、隣で美咲がスマホの画面を示してくる。

「部長、ここ見て……」

 そう言って美咲が指差すところは、画面の左上、インターネットとの接続を示すアイコン。

 いつもならそこには扇型のマークがあるはずだか、今はそこに『圏外』と書かれている。

「……サイバー制御室とやらが占拠されたのか。まさか、ビル内のインターネット環境まで管理する場所なのか?」

 とにかく、これも犯人の仕業と見ていいだろう。外界と完全に隔離されたわけだ。

 オレは改めて店全体に向き直ると、客たちに向けて言葉を投げる。

「というわけで、オレたちは完全に人質として支配されたみたいだ。だから、何度も言うが無闇に行動して自分の首を絞めることはしないでくれ」

 すると、さっき座った2人組の女性社員の中の1人がこちらをみて、

「あなた、一体何者なの……?ただの高校生じゃないの……?」

 不安そうな表情と声で尋ねてきた。

 こんなイレギュラーな状況でも、今のオレは相当な異物だろう。そんな疑問が浮かんでも無理はない。

 あまり目立ちたく無かったが、とりあえずこいつらの不安を取り除くために身分を明かすしかない。


「俺は白澤 平一。色沢高校探偵部部長だ」




 ※※※




「……いた」


 胸元に「度会」と書いてある名札を付けた女は、平一の自己紹介を聞いて小さく呟いた。

 近くに他の店員がいることを危惧して、ゆっくりと厨房の隅に移動し、ポケットからを取り出す。

「リーダー、こちら5階バーネット・カフェです。例の探偵部を視認しました。どうしますか?」

 すぐには返事が来ず、10秒ほど置いて受信のノイズが鳴る。

『……分かった。手筈通り、部員を社長室に連れてこい。くれぐれもすぐ怪我はさせるなよ』

 予想通りの返事を受け、女は「了解」と送ると通信を切断した。

 そして彼女は腰のポーチに手を添える。

 そこではが黒光りしていた。



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