第29話 降下

 腕時計は16時56分を示している。


 依頼人は17時に来ると言ったので、そろそろ来てもおかしくない。

「そういえば、依頼してきた綿貫さんは私たちのこと分かっているのかな?」

 赤崎がストローから口を離すと、ふとした疑問を出してきた。

 こいつが懸念しているのは、依頼人がオレたちのことを認知していないと、このカフェに来ても合流できないということだろう。

「特に確認はしてないが、オレたちに連絡してきたってことは、この探偵部が色沢高校の生徒だって知ってるはずだろ。このカフェに色沢高校の制服を着ているのはこの4人しかいないから、探すまでもなく分かるだろうな」

 最悪、制服を知らなくても、ここは職員用のカフェだ。学生であるオレたちは異物でしかない。

 入って一目ひとめで違和感を覚えるはず。

「まぁ、もしも5時を過ぎても声を掛けられないときは、店員に頼んで探してもらうさ」

 そう話を切ると、受付で貰ったこのビルのパンフレットに目を通す。


『株式会社ユキムラ』の本社であるこのビルは、つい1ヶ月前に開いたばかりの真新しい建物。

 社長の幸村ゆきむら 正和まさかずが以前にニュースで喜びを表明していたが、その中で「うちみたいな中小企業が……」と言っていた覚えがあるので、この会社の規模は知らないが、中小企業に含まれるみたいだ。

 玄関や受付にも書いてあったが、このビルは20階建てのかなり大掛かりな建物だ。

 上階には会議室や社長室があり、そのさらに上には『サイバー制御室』という空間もある。

 恐らく、インターネットなどビル内における電脳世界を支配している一室だろう。

「・・随分と大掛かりな中小企業だな」

 苦笑し、オレは紅茶で喉を潤した。




 ※※※




 同時刻。場所は変わって同ビルの屋上。


 轟音を撒き散らして、ヘリが降下を始めた。

 何度も練習した甲斐があってか、ズレることなく目的地に着陸する。

 プロペラが風を切る音が弱まるのを感じつつ、合図をしてドアを開けさせる。

 パイロットの後ろで座っていた2人が無駄のない動きで降りるのを確認し、隣で座っていた男も後を追う。

 今から3人体制でヘリにを設置する手筈てはずになっている。

 パイロットはプロペラが止まるのを確認し、なるべく静かにヘリから降りた。

 既に自分の仕事を終えた3人が待っており、4人で再集合すると1つ頷き、同時に階段へ向かう。

 先頭の男が肩から下げているが走る振動で金属音を奏でる。


 ここからは——計画を実行するのみ。


 強い意志を胸に携えながら、目の前の『サイバー制御室』と書かれたドアを蹴破る。


「動くな!!ここは俺たちが占拠する!!」

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