第24話 疑惑のリスタート

 時刻は午後5時半を迎えようとしている。

 夕日が地平線に沈みつつ、空を茜色に染めているのが窓越しに見える。

 そんな幻想的な風景とは裏腹に、私と江さんは—


「「……はぁ」」


 ——暗然と、していた。





 ※※※




 白澤くんが教室を去ったあの後、三寧さんは警備員さん2人と何やら内緒話を始めると、何事も無かったかのように展示を再開した。

 恐らく三寧さんが2人に提案したのだろう。

『全てを伏せて、不自然さなく展示を再開しましょう!お互いのためにも……』

 と小声で呟いたのが聞こえた。

 まぁ、白澤くんが言ったことは事実だし、あれが最善の対応だったんだろうなぁ……。

 そしてこの事件は、一件落着を迎えた……


 ……と思っていた。


 その直後、美咲さんが白澤くんを走って追いかけるまでは。




 ※※※




「美咲さん……かなり険しい表情をしていましたね」

 隣の江さんの言葉は、悲しみよりは驚きを表していたと思う。

 確かに、自分の推理を最後の最後に正面から否定された以上、怒りを覚えることも頷ける。

 しかし、美咲さんの表情は憤怒よりも焦燥が見えていた気がした。

 ただ、いくら私が美咲さんの心を推理しようとしても分かるわけがない。

「それより……私が引っかかってるのは、白澤くんが言った推理なんだよね……」

 江さんが白澤くんのあの推理を納得しているとは思えない。

 あんなにもお粗末な推理をするのだろうか……。

「ただ、私たちには情報が無いので……」

 それは私も同じ……ん?いや?

「ちょっといい?私、事件の時に少し気になったことがあったんだけど……」


 そう、あれは確か停電直後……。




 ※※※




「部長!」


 私は廊下を走りながら、部長の背中に声を掛けた。

 すると徐々に歩く速度が遅くなり、すぐに足を止めた。おかげで楽に追いつき、私も距離を置いて立ち止まる。

「……文句があるなら聞く。返事はしないが」

「いや、文句は何も。ただ、1つどうしても知りたいことがあるの」

 相変わらず私の言葉に反応することなく、ただ表情を隠すばかり。

 そして私は、事件が起きた直後に部長が来た瞬間のことを思い出す。

「部長は最初、犯人を見つけ出すために警備員2人の口封じをしてた。その途中、部長は犯人のことを『こんなにも堂々と宝石を盗み出した”男”だ』と称した……覚えてる?」

 ここまで言ってもなお部長は微動だにしない。

「確証のない推理をしないのが部長よね。つまり、部長は犯人が男だと知っていることになる。その上で部長は書記をかばった……どうしてあの時既に、部長はあの男が犯人だと確信していたの?」

 そう、犯人は間違いなく書記だ。

 しかし、私の安直さと部長の策略により、その影は闇に葬られてしまった。

 ここまでの付き合いがあるからこそ、あの発言が雑な言い間違いではないと分かる。

 しかしそれ故に、あの発言をした理由が全く分からない。

「合点のいく説明をして欲しい」

 なるべく冷徹に、そして低い声で意思を伝える。

 目の前の部長に動く気配はまるで無い。

 しかし、私の発言から10秒程経ってから、ゆったりと声が聞こえた。


「始まりは例の予告状が探偵部に届いた日から、だったな……」



 ——悪魔のような計画とその執行が、告げられる。

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