第10話 探偵部へ

 翌日の放課後。


 バイトは例の一件でしばらく休みになったので今日の予定は空白だ。

 そのため私はありとあらゆる2年生の教室を回り、白澤くんか青里さんを探す。

 しかし。

「どこにもいない……」

 昨日の3人のミステリアスな雰囲気から、こうなる気はしていたが。

 実際はやはり焦りや不安が生まれてくる。

 一応、1年生の教室も見て回ったが、当然緑橋さんも見つからない。

 こうなると次の手段は……。




 ※※※




 3回のノックの後、職員室のドアを開く。

 慣れない場所なので、自然と腰を低くして歩く。

 そして目的の人が座る席まで行く。

 すると、向こうが私の足音に気づいて振り返る。

「あら?珍しいね、赤崎さんが来るなんて。どうしたの?」

 クラス担任のいけ 明菜あきな先生がこころよく応えてくれたので、私も遠慮なく質問をぶつける。

「突然すいません。先生は『探偵部』の部室って、ご存知ですか?」

 すると先生は、あごに手を当てて思い出す素振そぶりをしながら、

「探偵部……?ごめんなさい、聞いたことないわね……」

 き、聞いたことない?そんなレベル?

 ただ、なんとなく勘付いていた。

 あの人達は、校内では影を薄くしているだろうと。

 諦めて地道に探すことにした私は、今井先生に礼を言って職員室を後に……。


「探偵部に用があるのか?」


 しようとして、声を掛けられた。

 その発声源は、池先生の正面の机にいた先生だ。

 私のクラスを担当してしない先生なので、名前が分からない。

 でも今の口振りからして、探偵部と繋がりがあるであろうこの先生が最後の希望だ。

「た、探偵部を知っているんですか?」

「ああ。俺は数学を担当している森田もりた 真治まさはる。探偵部顧問だ」

 ……どうやら私が見つけた希望は、唯一にして最大の希望だったらしい。

 ここで言わないと!

「私を探偵部に入れたほしいんです!」

 頭を下げながら、迷惑にならない程度の声で頼む。

 部長だという白澤くんは良いと言ってくれたし、きっと顧問の先生も許してくれるのだろう。

 そう考えて返事を待っていると、聞こえたのは苦虫を噛み潰したかのような声だった。

「いやーその……俺に入部の許可を出す権利は無いんだわ……」

 はい?

 頭をきながら苦笑いしている森田先生に、私はキョトンとした顔をしてしまった。

「え?いや、でも、さっき顧問の先生だって……」

「ルール上、部活として組織するために顧問が必要だったんだよね。当初は『別に部活じゃなくていい』って部長に言われたんだけど、部活にした方が便利だから、って言ったら『じゃ、アンタが顧問になって』ってお願いされちゃって……」

 懐かしむように語っているが、それって……

「つまり、肩書き上だけ『探偵部顧問』ってことですか?」

「まぁー、そゆことだねー」

 明後日の方向を見てこぼしてるけど、とても気が抜けている声だった。

 というか、特に不服に感じてはいなさそうだけど、危うく失礼な発言になっていたな。

 でも、あの部活はそんな雑でいいのか?

 警察と関わりがある部活でしょ?

「色々気になることもあるだろうし、部室行ってみる?」

 先生の急な提案に驚くのと同時、、私は最初の目的である『探偵部のメンバーを探すこと』を思い出す。

 白澤くん達に直接頼み込んだ方が良いと考え、先生の申し出に甘えることにした。

「行きたいです!お願いします!」

「分かった。ちょっと準備してくるから、職員室前で待っててくれ」




 ※※※




「ここが、部室ですか……」


 私の前にあるのは、図書室の隣の部屋。

 この部屋は確か、処分する予定の本や新しく置く本を一時的に保管するための場所だったはず。

 いつの間にか部室になっていたのか……。

「厳密に言えば、うちの部員が勝手に入ってるだけなんだけどね。部屋の整理自体は図書委員がやってるから、彼らは堂々と置いてある本を読んで問題ないと思って」

 いや勝手に入ってる時点で問題なんじゃ……。

 至極真っ当な疑問を出す前に、先生はドアに手を掛ける。

「お疲れ様〜」

 先生が労いの言葉と同時にドアを開くと、部屋には大量の本が積み上がっていた。私の頭より少し低いくらいなので、大体150センチ無いくらいだろう。

 そして、本の山の奥には読書中の探偵部がいた。

 先生の声に気づいた3人は、こちらを向くと私を視認して、


「「「本当に来たのか……」」」


 か、完璧に重なった!それは凄いけどその言葉ってどういう意味!?来ないと思ってたってこと!?

 色々言いたいことを音も立てずに飲み込み、言うべきことを口に出す。

「昨日も言ったけど……私を、探偵部に入れて欲しいの!」

 昨日と一言一句たがわず頼み込むが、反応が無い。頭も下げてるせいで表情も分からない。

 しばらくして顔を上げると、まず目に飛び込んできたのは白澤くんの顔だった。

 ……無味乾燥な劇を見るような彼と、ガッツリ目が合った。。

「昨日、良いって言っただろ?」

 ため息を1つ、本に目を通し始め読書を再開する。

 あ、あれで入部したことになったの?あんなヌルッと?

 あまりの事態に口は呼吸以外を忘れたように言葉が出せなくなってしまった。

 沈黙の空間が席巻せっけんするが、それを破ったのはやはり森田先生だった。

「と、とりあえず部員が1人増えたわけだし、良かったじゃないか!いやぁ、めでたいめでたい!」

 先生のフォローが痛い……。

 すると、白澤くんは何か考え込んだ様子を見せた直後、静かに立ち上がり、


「——それもそうだな。オレたちは君を歓迎する」


 そう言ってこちらへ歩いてきた。

 他の2人は白澤くんを見ているが、その顔に驚きや不安は見当たらない。

 その表情は……つまらなさそう?

 こんなにも呆気あっけなく手の平を返されると少し疑ってしまうが、先生のフォローが功を奏したのだろうか。

 まぁ、入部できることに越したことはないか。

 そう自分を納得させて、白澤くんから差し伸べられた右手を快く取る。


「ようこそ、探偵部へ」

「よろしくお願いします!」




 ※※※




 ……そんな希望に満ちた入部劇は、もう過去の話。


「ちなみにどんな要請だ?」

「はい、何でもストーカーに困ってるらしいんですけど」

「んなもん警察に頼めよ」

 投げやりなツッコミもそこそこに、部長は制服のネクタイを締める。


 あれから1ヶ月、大きな事件は1度だけあったものの、それ以外で活動の様子が見られない。

 ただ、折れることなく今日もこの部活に来ている以上、あの時見たような『3人の名探偵』が見れる日を信じている。

  たとえそれが、単なる好奇心だったとしても、いつまでも追い続けたい。


「もう10分経ったよ。行こう!」

 溌剌とした声を響かせながら、私たちは次なる事件へ歩き出した。





【第1章『会遇の毒殺』 終】

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