忠実なる下僕



小高い山のてっぺんで出会ったのは、ヴァルさんと同じドラゴンの岩竜さん。

真っ黒なヴァルさんと違い岩そのものというべきゴツゴツとした肌。佇む出で立ちは他の者を圧倒的に威圧する。


この竜さんが例のイザベラさん?

強張るヴァルさんを見ているとそう思えてくる。

僕は小さい声で耳打ちする。


「ヴァルさん、このドラゴンさんが噂のイザベラさん?」


「ち、違うのである。あれはグリースト、雄のドラゴンである。」


ぶんぶんと首を振り、別の人物だと言う。しかも、ヴァルさんと同じ雄。でも、どうしてそんなに警戒しているの?

僕が再度尋ねる前に岩竜さんが堅固な大口を開く。


「ふふふ、ようやく姿を現したかヴァルガルドよ。我が糸尊き女王イザベラ様が長らくお待ちです。今すぐ愛しきあの御方の下へ貴様をお連れしよう。」


まさか女王さんの支配下。

ヴァルさんと目が合うとコクリと頷く。


「あれは、い、イザベラを心酔する愛の僕。このような場所で待ち構えていようとは‥‥。あいつは厄介である。」


僕の頭に雫が落ちる。ヴァルさんの冷汗だ。

ゴクリと唾を飲み込み、気を引き締めて警戒する。


「孤独に生きる貴様がよもや人間などと行動を共にしているとは。イザベラ様のご寵愛を受けぬからそう落ちぶれるのです。今からでも遅くない、さあ来なさい。」


「い、嫌である!吾輩は吾輩の求む幸せのために生きる。あの女に拘束された人生など吾輩の望む幸せではない。吾輩の幸せは今この者達と共に歩む未来にあるのである!」


「はぁ全く、イザベラ様の愛を受ければ貴様の気も変わろう。いや、その前にそこの邪魔な人間達を消そうか。其奴らが貴様の呪縛となっているのでしょう?」


ヴァルさんは憤慨する。

僕の頭から久しぶりの終焉の黒炎竜完全版で降り立つ。


「呪縛ではない。大事な守るべき絆である!」


「なら、その絆とやらを断ち切るまでのこと。」



一体でも一国を滅ぼすことの出来る存在が睨み合うように相対する。

そして僕も、幸せと言ってくれた親友の隣に並ぶ。

一度ヴァルさんと視線を交わす。



それだけで僕達は大丈夫。

さあ、戦おうか!



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