馬車に揺られて人に酔う



王都までの道すがらミストリアで商売を営むオルソン一家に心配され、馬車に同乗させて頂いている。

僕達が乗せてもらった馬車も運搬用なのか、まだ少しスペースに余裕がある。

が頑張ってお礼を伝えて、隅っこの方に座らせてもらおう。


ちょこんと大人しく座り、もう少しだけ顔を上げると僕を下から覗き込む二人の好奇心の塊。


目が合った。


オルソン一家の息子さんと娘さんだ。悲鳴をギリギリ堪えたことを褒めてほしい。

この子達は、僕の精神安定剤として抱きしめていたヴァルさんとチビうささんに興味津々の様子。

すごく触りたそう…。


ふとヴァルさんが僕の腕をポンポンと叩き、口パクと念話で伝えてきた。


(吾輩達がこの子供らの相手をしてやろう。だから、安心するのである。)


2匹が僕にウィンクしてくる。

ヴァ、ヴァルしゃん…。こ、ここで泣いたら駄目だ、今度気が済むまで目一杯撫で撫でするからね。

僕はわなわな震えながら解き放つ。


そして、僕の仲間は突撃して行った。

小さな子供達の容赦ない触れ合いが襲いかかる。

チビうささんは頭をわしゃわしゃされて、ヴァルさんは頬をうにうにされまくっている。


「ヴァル、ヴァルヴァヴァル!ヴァヴァール。(ふん、この程度の撫で術など吾輩に聞くかぁ!決して屈しないのである。)」






ミストリアの王都に徒歩よりも早く到着。


「ヴ…ヴァ、ル(あ…あ、あ)」


無邪気な好奇心は手加減を知らない。

押し寄せた激しい波に、ヴァルさんはだらしなくヨダレを垂らし時折身体をビクンビクンとさせている。

チビうささんは全く平気そうでした。


抱き上げるともう一度ビクンとさせるヴァルさんとチビうささんを頭に乗せて馬車を降りる。

ここからは検問があるので別々だ。

結果的には、合間合間で話し掛けられて心を平常に出来なかったけどありがとうございました。


家族円満な一家とお別れして王都に入る。

検問は何処の国でも同じ。冒険者カードを提示するだけ。

門兵さんにギョッと4度見された、こんな子供が高クラスの冒険者ってそう簡単に飲み込めるものじゃないよね。



ちょっと嘘ついてないか調べられたけど無事通過。



人、人、人人。

僕達の視界いっぱいに映る多くの群衆。

少し間が空くと駄目だね、もう吐き気と目眩が止まらない。



もう宿屋を探そう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る