嵐の前の平穏



昨日は神様のお陰でベッドが汗でびしょびしょになっていた。

乾かそうと毛布を持ち上げたところで、宿屋のおばさんが宿泊を延長するか聞いてきた。

この世界に来て初めて数分ぐらい見つめ合ったと思う。

「大丈夫、あたしがやっとくよ。」


おばさんは生温かい目でまるで労わるように優しい口調になった。


その後の記憶はない。


いつの間にか武器屋の前まで来ていた。


そ、そうだ。短剣のメンテナンスをしてもらおうと思ってたんだ、そうなんだ。


武器屋の中に入る。

そして、ベルが鳴ると前と同様に店主さんがのそのそとやってきた。


「‥‥‥らっしゃい。」


店主さんは多くは語らないスタイル。

かっこいい。

僕もいつかあんな風にどっしりと構えられるだろうか。


「あ、あの短剣の調整をお願いしたいんですが‥」


最近は、盗賊や魔物でだいぶ短剣を酷使した気がする。


「‥‥貸してみろ。」


店主さんが差し出した手に短剣を乗せる。

色んな角度から傾けて確認してくれている。

「‥‥特に目立った傷もない。お前がちゃんとコイツを扱えてる証拠だ。」


て、店主さぁん‥。


「‥‥ほれ、軽く手入れをしておいた。これからも大切に使ってやってくれ。またこい」


僕に短剣を渡すと、もう用はないだろとでも言うように奥に戻っていく。


一礼して武器屋を出る。


まだ宿屋に戻るには、心の傷は癒えてないので落ち着く意味でもコークスの森で魔物と戯れてくることにする。


倒しても倒しても次々と止め処なく出てくる魔物達のお陰でかなり癒えてきた。

よく考えたら、おばさんも干す時にあれは汗だと分かってくれるはず。



もう少し狩ったら帰ろう。


街でもこう平穏でいられる日が続くとは思わなかったなぁ。

今日も平和だ。


一気に溜まった魔物達の山は、明日ギルドで売却しよう。



よし、帰ろう帰ろう。

おっと、前方に馬車が走ってるから避けながら門を通ろう。



宿屋に帰ると、おばさんは何事も無かったように接してくれる。



明日もこんな日が続くように祈りながら眠りに落ちる。


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