第5話 登場、第六天魔王
蘭丸の遺体を背にして、大統領は轟々と燃え盛る本能寺を見つめ続ける。肌が焼け焦げそうな程の炎は未だ勢いをおとさず、さながら地獄のよう。
「儂は夢を見ておるのか」
先程の大統領と蘭丸の戦いを見ていた明智光秀が呟いた。その思いは光秀だけでなく彼の配下の兵士も同じであった。
大統領は振り仰ぐこと無く、背中で告げる。
「ドリームではないリアルだ。光秀よ去るがいい。ここから先、筋トレの足りない人間は不要だ」
「我々を愚弄するか!」
「まだわからんか……よく見ろ、あれだけの勢いの炎であるのに本能寺はまだ形を保っている」
「なに?」
大統領の言う通りだった。地獄の業火と表現しても差し支えないレベルの炎であるのに、未だ本能寺は柱も梁も燃え尽きてはいない。
「なんてことだ、信じられん」
「木造に見せかけて、その実耐火性のコンクリートや鉄を使用している。明らかに未来の技術だ。
なるほど、織田信長の正体がわかってきたぞ」
「正体だと?」
訝しむ光秀に対して、大統領は不敵に微笑みながら寝所の奥へ届くほどの大声で呼びかける。
「時間を超えるなど私以外では一人しかいない。いるのだろう? 出てこい……Dr.タイムマン!」
その瞬間、本能寺内で突然水が吹き出て炎をかき消していく。明らかにこれはスプリンクラーだ。
「流石は大統領、お久しぶりです」
声がした。嗄れた老人の声、微かに聞き覚えのある声だ。遅れてその声の主がスプリンクラーで濡れた床をピチャピチャと音をたてながら歩いてきた。
「一ヶ月ぶりか、少し見ない間に皺が増えて随分男前になったじゃないか」
「私にとっては三十年ぶりだ、何せこの時代には今から三十年前にとんできたのだからな。それとこの顔はただ老けただけだ」
「ほう、三十年前と言えば信長が家督を継いだ頃か。確か家督を継いだ前後で性格が変わったというが、なるほど入れ替わったのだな。よくバレなかったな」
「素晴らしき理解力だ。勿論何人かにはバレはした、だが主君を失ったなどという弱みを対外諸国に知られる訳にはいくまい? だから協力してもらったのさ、非協力でも薬漬けにしてしまえば簡単だったよ」
この時、明智光秀は配下に命じて矢をつがえさせていた。Dr.タイムマン……否、彼にとっては討つべき織田信長へと。
そして「てぇぇっ!!」の掛け声と共に一斉に矢を放った。
しかしそれらの矢はDr.タイムマンへ届くことはなかった。その手前で光の壁が現れて矢を防いだのだ。
「また妖術の類か!」
「今のは光学兵器か、この時代の人間にとっては魔法に見えるだろう。説明してもわかるまい。退け光秀」
「ぐっ、口惜しいがそうさせてもらう」
さすがに理解不能の状況に叩き込まれてはどうしようもない、明智光秀は慌ただしく軍を率いて本能寺から撤退していく。
それをDr.タイムマンは冷ややかな瞳で睨んでいた。
「ふん、この後猿めに敗れて農民に討たれるとも知らずに」
「それは貴様とて同じだろう、織田信長はここで死ぬことになっている」
「貴様を殺せるなら命など惜しくはない。大統領を殺すためだけに時間虫を飛ばして過去に来たのだから」
「ほう?」
「時間虫はタイムトラベルの道具だ。こいつから発信される波を受信することで過去へとべる。お前に敗れた時、咄嗟に時間虫をとばして楔としたおかげで私はやり直すことが出来た。牢屋の中で計画を練る一時は実に有意義であったぞ」
「筋肉製の牢屋は快適だったろう?」
「ああおかげでよく眠れたとも、牢屋ごと過去に持っていきたいぐらいだったさ」
「直ぐに戻してやるから安心したまえ」
前口上はここまでだ。二人は睨み合い、殺気を放ちながらお互いの出方を伺っている。
沈黙の果てに最初に動きだしたのはDr.タイムマンだった。
「この三十年私は貴様を倒すために準備をすすめてきた。貴様なら必ずやって来るとわかっていたからだ。史実通りに行動しながら裏ではある計画を進めていた」
Dr.タイムが言い終わった直後、本能寺どころか京都全体を揺らす程の地震が発生した。それは数秒で終わるようなものではなく、一分二分と揺れ続けている。
大統領も足腰に力をいれて踏ん張る事で揺れに耐えている。
三分経ったところで、本能寺周辺の地盤に亀裂がはいって地割れをおこした。そして本能寺は空へと浮かび上がったのだ。
大統領が真上を見ると本能寺はまだ上昇を続けていた。大体三百メートルぐらい上空でようやく停止した。
直後、本能寺の両側面からそれぞれ四本ずつの光の鞭が伸びてだらんと垂れ、底面からは機関砲が現れた。
背面は変形して滑空するためのウィングとブースターになっている。
「見よ! これが三十年かけて作り上げた対大統領用決戦兵器! 本能寺ドラゴンだっ!!」
「ドラゴンとな」
「強そうな名前だるぉ?」
「うむ!」
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