最強の生命体がどれだけ努力しても、勝てない存在はあるらしい。


泉の中で青く光る光石に照らされ、龍は自嘲気味にため息を吐く。暗い洞窟のわずかな光だけではもう近くも見渡せず、衰えた四肢の感覚を引き伸ばしながら、周囲に気を配る。


体の限界を感じながらも、龍は死に対して抵抗をしていた。最後の最後まで時間に対抗するために、巨大な身体を何者からも死守するために、最大限の気を配っていた。


死など、我が同胞達は恐れないと言う。そんなものは強がりだ。友も親も、死に際になっても強い笑みを浮かべていた。我ら最強の龍にとって死は唯一変えられない運命だという。それを受け入れるのは恐怖ではなく尊敬を持って向かい入れると言う。理解ができない、故に怖いのだろうに。決まり切っているからこそ、我らは恐怖せねばならぬというのに。


その時、強大な意思によって魂を引っ張られる感覚が全身に走る。対極に存在する2つの龍の力の源のバランスが崩され、全身が硬直していく。


もうすぐ死んでしまうのか。それを予期した瞬間、思い立つのは恐怖ではなく、過酷な運命を背負わせてしまった、我が子の顔だった。


何故、何故だ。何故今あの顔を思い出す。我が子を生み出し、育て、手放した記憶が早々と流れていき、疑問だけが頭の中に残っていく。


なんだこれは、死への恐怖を超えるものが、本当にあったというのか。


もしそうなら、私は知らない。この感情を私はもちあわせていない。いいや、持っているはずだ、私は、覚えていないのだ。


この感情の、名前はなんだ。


朦朧とし出す意識の中、張り巡らした四肢の感覚も消え始め、小さな足音にすらも気づかなくなるも、それでも意識だけは手放すまいと魂を握りしめる。


死への恐怖は既になく、ただ若い頃の探究心だけを頼りに生命をつなごうとする。疑問が自らの命の糧となり、硬直する身体を無視して、頭の回転に全てをつぎ込む。


視界にぼやけた他者が現れても、次第に暗闇に染っていっても。


その意識が消えるまで、龍はひたすらに考え続けた

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