二章 明夜にて、ひとり迷う
二章 「明夜にて、ひとり迷う」part1
――同日、ロスティア共和国マルヴァジア州、首都リヴ・テレステオ。
陽が落ち、当然だとばかりに訪れた深淵の夜空は――。
しかしながら巨大な欠け月と千差万別の輝きを放つ星々のおかげで、地上の闇はそれほど深くはない。灯りなどなくとも、数メートル先を歩く人物の顔が視認できる程に明るかった。
それは現在時刻、日付を跨ぐ中夜帯ですら変わらない。
この世界の夜というのはそういうものであった。
その明るい夜。薄闇が世界を包むなか、上天の星々よりもなおいっそう輝く地上の街がある。
世界フォラストリエに存在する巨大国家のひとつ、ロスティア共和国。その領土の中心に置かれ、政治経済の中枢を担うようになった国家最大都市――およそ600万の人口を有する、首都リヴ・テレステオこそが燦然と輝くその街であった。
首都ということは当然あらゆる技術が結集しており、やはり街をそうたらしめ彩る光源は、魔動空船と同じく
それはリヴ・テレステオ、ひいてはロスティア共和国自体が依然と発展途上であることと、技術進化の最中であることの証拠でもあった。
特に街並み、建築技術の様式はよくそれを表している。
例えば、政府が配置される街の中心は新しい建築技術によって生み出された
まさに技術が新旧一体化した街並みは、なんとも混沌としているが。言葉ほど嫌に暗い印象はなく、寧ろ人々は新しい時代の幕開けといった風にこれを肯定的に受け入れていた。
街の輝きというのは、そういった人々の希望によっても生み出されているのだ。
だからなのか、夜もだいぶ深まっているにしては街はまだ眠る気配もなく。
とりわけ幾つか点在する歓楽街は活力に溢れて騒がしい。
そのひとつのそのまた一画――服飾から飲食、劇場といった様々な施設が並ぶ道の前では洒落た格好の人々が大勢歩み。車道では魔動機による四駆車が溢れる歩行者を鬱陶しそうに道を走る。絢爛なる噴水広場に据えられたベンチでは男女が愛を語らい。ところ変わって建物の壁面に掛けられた大きなモニター前では、ファストフード片手に馬鹿げた放送内容を見て笑いあう若者達の姿があった。
彼ら人々の顔は軒並み明るく、どうやらこの街の外に魔獣が蔓延っていることなど忘れているようでもあった。
――というよりも、忘れているのだろう。
普段、魔獣と対峙することのない彼ら都市圏に住む一般人はそれを意識することが少ない。
精々が旅行目的で他都市へと移動する際、旅客用の魔動空船を利用するにあたって、その危険性をアナウンスされてやっと思い出す程度だ。
つまりそれだけ、この国の都市は魔獣という外敵からの安全が保障され、人々は安心を得ているということの裏付け。
そしてその安全が保たれているのはロスティア共和国軍と、なにより駆除屋達が血を流す努力の末成り立っているものだった。魔動機が生み出されてからもう150年の間、ずっと。
だが現在、一部の人間はその事実も意識することが少なくなりつつあるが……。
それは魔獣という存在を知らしめ、無駄に不安を煽らないようと報道の自主規制がひとつ手伝っていることでもある。
今日の飛竜狩りに関しても、直接被害が及ぶことのないリヴ・テレステオでは明日の朝刊の片隅にそれとなく載せられるだけで終わるだろう。
故に、あまり駆除屋達の活躍も都市圏の人々に届くことはなかった。
故に、税金泥棒とさえ思う者も……。
だからといって駆除屋達も、多くは金の為にやっていることであるから「街を守ってやってる」などと思うことはなく、恩着せがましく一般人に当たることもない。
色々と含んだ意味で気にすることはなかった。
そんな彼ら駆除屋達も――ここ首都を拠点とする個人の者から組織団体の駆除屋は非常に多いが――それぞれがそれぞれの仕事を終えて、一般人に混じって首都の夜を楽しんでいる。
勿論、首都を拠点とする駆除屋『アルバルーチェ』もそのひとつ。
そう。飛竜狩りを無事終えた彼らも今、歓楽街にてオズウェルの宣言通りその祝勝会を開いている真っ最中であった。
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