序章 「古き記憶、始まりの前譚」幕間



 頭の中で知らない誰かの言葉が木霊する。

『貴様が憎む人間が逃げたぞ』と木霊する。

『追いかけて喰らえ』と木霊する。

 言葉に従い身体が動く。抵抗はできない。慣れない肉体が勝手に動く。

 力の代わりに自由は奪われた。だが意思はある。

『違う。あれはオレが殺したい人間ではない』と意を示す。

 頭の中で言葉が木霊する。

『だが憎むべき人間だ』

『あの人の子は既に貴様の同胞の命を幾つも奪い殺している』

『同じ憎むべき人間だ』

『違う。少なくともオレの仲間を殺したのはあの人間の子ではない。この町も関係ない』と、尚も意を示す。

『……』暫く木霊がやんだ。今なら自由に動けるかと慣れない身体を動かしてみた。が、やはり動きが鈍くなるだけで身体は意思に反して勝手に動いた。

 頭の中で言葉がまた木霊する。

『また出来損ないか』と告げられた。

 木霊は続く。

『貴様では人を、母の理に導くことはできない』

『然し貴様に与えた力は必要だ』

『悪いな我が子よ。貴様のその不要な意思、奪わせてもらうぞ』

 どういう意味か分からなかった。ただ、なに勝手なことを言っているんだと思った。

『嫌だ』と抵抗した。

 無駄だった。

 自分の意志がそうではないなにかに蝕まわれていくのを感じた。

『町を壊せ。人を喰い殺せ』といった言葉が永遠と頭の中で木霊した。


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