第23話 俺、召喚の俺の主張を聞く

「俺の場合、空を飛べる召喚獣で、少なくとも存在する7国は自由に移動できると思うんだけど、あってます?」


 そうだった、魔召喚士イーブ。こいつタクシー要員、いや、マイクロバス要員だ。

 自分の担当じゃ無かったから、すっかり忘れてたわ。

 道とか関係無いって良い!

 チートの最高に有効な活用だなっ。


 気のせいか、いつものやつからは想像できない前向きさというか、積極性が顔に出てるな。

 これが、優遇職の余裕の成せる技ってやつか?

 くそっ、羨ましいぞ!

 修正されてしまえっ!


「残念ながら、それは無理かと」

「ええっ、無理ってどういうこと?」


 頑張れ、イーブ、ここが勝負どころだぞ。

 お前のレゾンデートルが、かかってるんだからな!


 俺の、お前にのっかっての楽移動もかかっている。

 ついさっきは、修正されてしまえとか、心にも無いこと言ってすまんかった。本当だぞ。口が滑ったんだ。

 全部目の前のおっぱいのせいだ。おっぱいは滑りやすいからな。


 冷静に考えると、移動時モンスターに襲われないって、戦闘職じゃないこの紐の俺にとっちゃー結構重要なんだかんな。頼むぞ、おい。


 しかし、何で無理なんだ……訳分かんねえぞ、女神っ。


「まず、東西南北の四国の真ん中には山があるのですが、この山を超えることはできません」

「はい!?」

「超えることはできないんです」

「……何で、ですか?」


 イーブ! こ、こいつ、意外に上級者だな。

 キョロキョロ挙動不審にしてたのは、実は装って周りの様子見してたんか?

 これまでの他の俺の会話から確実に学んでやがる。


 女神が同じ内容を繰り返したら、その意図を即確認すべし。

 これ、女神攻略法な!


「真ん中の山は魔の山サクリモンテ。常に深い霧に包まれ、方位の感覚を狂わせる地形効果があります。意図した方角には進めません。中空までは恐らくこの影響を受けてしまうでしょう。」


 西に直接行けない理由がこれか。


 しかし、マジであるんか、おっぱい山。


 しかも、なんちゅー山だよ。頂上に参拝でおっぱいどころじゃねーな。

 あ、これ、さんぱいと、おっぱいをかけてるからな……。


 まあ、ある意味、あの女神のおっぱいに似たようなもんかもしれない。ここまでの職業解説に、命名式、どんだけアレに話の方向を狂わされたことか、ってな。

 

 あれ、でも、中空までってことは……。 


「それなら、さらに上空は?」

「上空は、マギアムンド特有の次元流が流れています。召喚獣であっても、巻き込まれれば異なる次元に流される危険性が高いと考えられます。お勧めはできません」


 イーブ、俺がお前なら、心がてそうだぜ、だけにな。


 中空はダメ、上空もダメ。大気圏……があるかはわからんが、上空ダメならそもそも行けないんだろうな。


「ちなみに、サウスオーシャンから、ブルーアイランドまでの海は嵐が多く、空でも危険かと」


 ふむ、まあ、ここは船で行きたいところだ、全く問題無い。

 問題無いが、イーブの顔色がどんどん曇ってるのは問題ありかもしれない……。


「ノーススノウからイエローストーンの間にはサクリモンテと同様の地形効果の山脈がありますので、やはり洞窟ルートでゆかれるのがよいでしょう。ウエストマウンテンからグリーンジャングルも同様です」

「……分かりました……」


 こうして七国間の空移動は夢に終わったのであった。


 トドメ刺されたな……安らかに眠れ、イーブ。ソウの隣辺りでな。


 お前は頑張ったぞ。


 大丈夫だ、お前は俺より絶対的に戦力だから、だから……俺まで悲しくなるのは、全く何でなんだろうな?


「では、マギアムンドの国とその状況についての説明はもうよろしいでしょうか?」

「そうだな、とりあえず、まず七つの国を魔王軍の魔の手から解放しなければならないこと、そして、聖王国クリスタルレインを捜索し、かの国を取り戻す必要があること、結果としてこの八つの国で八つの『鍵の欠片』を集めることで、魔王のいる闇世界に行くことが可能になること、ここまではわかった。他の俺は大丈夫か?」


 セイ先生、わかりやすいぞっ!

 他の俺も、頷いてる、頷いてる。


 斜に構えてたり、自分に悩んでたり、悪態ついたり、チャリチャリしてたり、寝てたり、絶望してたり、様々な体勢なのは、もういいよな?


 まー、イメージ的に、ボス戦クリアでエリア解放して進める系のRPGだよな。

 まてよ、クリア……か。セイ先生よろしく!


「俺からいいか? 女神」

「はい、どうぞ」

「各国の魔王軍を倒さないで、国から国に移動することは可能なのか?」

「はい、可能ですよ」


 何~~~エリア移動いけるんかい!

 なんというユルい世界だ、いやユルいのは魔王軍か?

 女神のユルさも大概だと思ってたが、そんなやつが創造した世界もやっぱり同じってことか。

 良くいえば作風……。

 どうせなら真ん中のおっぱい山とかもそんな感じにしておいてくれよ~。


「ただし、魔王軍の支配下を通っていくことになりますので、魔物との遭遇率は上がります」


 まあ、そうだろうな。

 みすみす見逃すなんて、上司の魔王に怒られるだろうし、ありえんわ。

 全力で妨害するわな。


 うーん、どうするのがいいのかな。


 あんまり飛ばして他の国に行っても意味ない気がするから、手近なとこから解放していくのが正解なんじゃねーかと俺は思うんだけどな。


 属性相関の関係で、相性の悪い敵とかなら、まあ、ありかもしれんが、俺以外の戦闘職な俺のチートがあれば、別に敵を選ばんでも勝てるだろうし、飛ばして進むことに全く意義が見いだせない。

 むしろ、触れた敵は、全て切って進む感じで、お願いしたい。

 あ、俺以外にな……うん……。


「ありがとう、女神。とくに他の俺から質問がないのであれば、後はおいおい確認することにするが、他の俺はどうだ?」


 シーン。


 この静寂は、授業における「この問題とけるやつー」みたいなのと違って、悪いことじゃないさ。

 おそらく、他の俺も、こういうことはセイに全部任せとけばいいって思ってるんだろうな。


 そういうことだ。


「ふむ、では、これからの俺達の戦いの進め方を考えるか」


 おー、ついに来たぜこの瞬間が!

 戦艦俺丸、宇宙船俺号の出航だぜ! 


 高ぶるな~。


 まーでも、お前ら忘れるんじゃ無いぞ。俺は唯一の非戦闘職だからな! 俺は他の俺についてく! というか他の俺の背後に控えとく!


 これだけは譲れねえ!


 頼むぜ、セイ先生っ。


「その前にすることがあるんじゃねえのか?」


 なぬ!何で貴様がここで登場するんだ、魔剣のテュニス!


 もう、他にすることなんて、トイレ行くくらいしかねーじゃんよ。

 ああ、そんなこと考えたらトイレ行きたくなってきたなーチクショウ!

 お前のせいだ、覚えとけよ~。

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