第20話 俺、おっぱいに尋ねる

 『イッキ』……。


 まず、連想するのは、一気イッキ飲みのイッキ、だな。


 未成年だから、まだコーラがせいぜいな俺だが、あれだって勇者の所業だぜ。500ミリのペットボトルだってキツイもんな。むしろ、失敗したときの惨状を思えば、勇者にしかできない技だ。


 よし、勇者だな、勇者。

 勇者『イッキ』か……。


 あとは、この前、国語の授業で出てきたな……何だっけ?


 そうだ、「一気イッキ呵成カセイ」だ。


 意味はよく覚えてないが、一気に加勢してもらえそうな響きだよな。

 単体の戦力として期待できない紐の勇者な俺的には、他の俺に加勢してもらうのは重要なポイントだしな。


 恐ろしいな女神、ここまで考えてつけやがったのか、こいつ……?

 しかし、どこから来たんだ、『イッキ』?


「ちょっと聞きたくなったんだが、女神、『イッキ』という名前はどこから来てるんだよ?」

「あー、それはですねー。サイキョウの真ん中です。サ・イキ・ョウ、サ・イッキ・ョウで、『イッキ』」


 ……ですよねー!!


 こいつ、クルりんと回って、おっぱいをたゆんたゆん、とさせて、私のアイデア最高! って感じを目一杯出してやがる。


 うん、お前のその、信じてるやつを裏切らない姿勢は嫌いじゃ無いぞ。期待に応えてるって感じだよな。流石女神様だ。


 ……俺のお前への信仰心は全然足りないみたいだけどな。


「どうします? 『イッキ』で良いですか? ちなみに私もう他には思いつきません」


 ……いや、わかってたよ、わかってるよ、わかってるってばよ!

 畳みかけてくるんじゃない!


 まあ、俺も一緒だ。


 正直、ここでNG出して、また自分で考えろと言われたら、今回も冒険に出られないで終わっちまいそうなこと、この上ない。


 それは、とても避けたい。


 自分が戦力になるか怪しい、とかは関係ないからな!


 そういえば、と他の俺の方見ると、全員もう自分のターンが終わってるせいか、早く決めろよオーラを感じること半端ないな、こいつら。


 喉元過ぎれば何とやらか。

 俺はラストなんだぞ、コンチクショウ。

 野球なら9回裏の最終打者、リレーならアンカーだぞ。

 チームメイトとして、もっと応援せんかい!



 魔法の俺セイは、既に別の方向を向いて考え事してやがる。

 きっと今後の戦略考えてるんだろうけどな、こっちはまだ終わってない!

 先生、戻ってきてくれ!



 魔剣の俺テュニスは、さっきの台詞のとおりに、イライラしてやがるし。

 気がつけば、何だかんだでこいつの一言が切っ掛けで、俺の『イッキ』来たよな。

 だが、何故かお前に感謝を感じないぞ、俺はっ!



 魔槍の俺マジックは、じーっとこっちを見てくれてはいる。いる。何だか視線が怖いぞ! 言いたいことがあるなら言ってくれ!



 魔弓の俺レイは弓の空引き、魔殺士の俺キョウはチャリチャリ。

 こいつら、性格極道コンビ、落ち着きが無さ過ぎねえか? あんまり、ガン見すると、その武器がこっちに向かってきそうだから、このへんでやめとくけどな……。



 魔戦士の俺ソウは……いつもどおりだ。

 しかし、こいつよくこれだけ眠れるよな。とにかく眠る大会があれば、優勝は間違いなく、こいつだぞ。俺が保証する!



 魔召喚士の俺イーブは、……あれ? 珍しく黙って何か考え事してやがる。


 もしかして、実は、パーソナリティと名前がショックだったのか?

 ナイーブだけに。


 俺もこの酷すぎる待遇にケアされたい方だから、お前をなんとかしてはやれん! すまんが、気合いで、よろしく。



 ……他の俺を応援してる場合じゃなかったな。

 どうするかな……ここは……。


 一応お伺いたてておくか。


「おっぱい様、俺の名前は『イッキ』でいいですか?」


 俺は両手をすり合わせて、女神のおっぱいに祈り、問う。


 困ったときはおっぱいだ。

 何についてるかは関係ない!


 ヤケクソじゃないぞ。

 気が狂ったわけでも無い。


 本体はともかくこの神々しさ、目の離せなさ、こいつに従わされるのを運命だって言っちまってたが、甘っちょろかった。


 天命ってやつだ!


 周囲の他の俺が、アワアワしてるのなんて気にしねえ!

 俺の番によそ事してるお前らが悪いんだぞ!


「『いいでちゅよ~。誰が考えたの?この素敵な名前、でちゅよ~、運勢的にも恵まれていまちゅよ~特に女性運~。吉方位は東、ラッキーカラーは白でちゅよ~』」

「!」


 その台詞にあわせてな、おっぱいが、ぷるん、って頷いた気がしたんだ。

 声が女神なのは、女神の声を借りてるってことだ、気にするな。

 ってことは、もう決まりだな!


「『イッキ』で行きます!」

「『素直な子でちゅね~、最初からそう言えばいいんでちゅよ~』」

「ありがとうございます、おっぱい様」

「……人間のクズに、ヘンタイを追加しておきますね」

「はい?」

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