第16話 俺、センス無いわ

「だから言っただろうがっ! 俺、人に決められるのは嫌なのっ!」


 当然の如く、俺は女神に反抗する。

 俺の名前をお前が決めるだと、そんなの神が許さないぞ!

 ……。

 ……こいつ女神だったわ、面倒くさいな。


 だが、この女神のヤツは、もっと面倒くさいヤツだったことを俺は忘れていたんだ。


「じゃあ、どうぞ、あなたが決めてください」

「クッ!」


 まーた機嫌悪くなった顔で、ぷいっと横向きやがった。


 そんな女神に対し、「ふくれっ面しても、可愛くないかんな! このおっぱいがっ!」と言いかけたものの、俺はそこで立ち止まる。


 脳裏に湧き上がる疑問。

 俺は、自分の名前を、自分で、決められるの、だろうか……?


 デビュー出来なかった例のMMOの256段階おっぱい選択問題に比べれば、一見容易いようには思える。


 ひらがな4文字とかだろ、きっと。このくらいはイケる……よな?


 4文字と256段階だろ、ほら、数の大きさだって全然違うぜ?


 えーっと、10倍で40か。100倍で400。

 ……。

 ……ほれみろ、10倍以上なんだぜ!

 いけるいける! 余裕余裕っ! 


「まだ決まらないんですか? では、紐さんどうぞ」

「!」


 俺が考え込んでる間に、いつの間にか女神のやつが、俺の目の前に来ていて、そして、おっぱいを震わせながら言いやがった……やがってる、やがってらっしゃいマス。マスよ?


「卑怯なり!」

「何が卑怯なんですか? 自分で名前決めるって、さっきおっしゃいませんでした?」


 あれ? 俺そんなこと言ったかな?

 チクショウ考え込んでたせいで、また会話ログが追えてねえ。

 こういう時に頼りになるのは……俺は周りを見回す。


 あれ……?


「ちょっ、なんでお前ら全員壁際よってんだよっ!」


 驚いたことに、俺が探していた切れ者、魔法の俺を含め全員がその状態だった。


 お前らなー、確かに俺は、教室で当てられたくないっ子No1ではあるぞ、うん。

 だけどな、全力で回避するのってさ、なんか、格好悪いぞ、俺……あれ?

 チクショウ、全部なんか返ってくるな……。



「すまん……紐の俺、だがお前にも分かるだろう。無理なものは無理なんだよ」


 魔法俺ぇえぇ!、信じてたのに、信じてたのにッ、もはや俺はお前の信者だったのにぃいいい。嘘だと言ってくれよ!!



「……自分ができないことを『できない』って言えるヤツは格好良いとは思わないか?」


 思わん! 全ッ然、思わん! つーかお前の剣、魔法切ったアレ以降全然役にたってねーかんな。魔剣俺っ!



「すまん、俺には全く思いつかないんだ。本当にすまない」


 何だかこっちが悪く思えてくる。

 うん、こういう生き方はありかもだぞ、魔槍の俺……。



「こっち見んなよ。撃つゾッ!」


 ……まあ、正直、一本筋とおってるやつだよな、魔弓の俺。

 まだ死にたくねーから見んといてやるッ……。



「……」


 何だかお前が武器をチャリチャリしてねーと、かえって心配だわ、魔殺士の俺。いや、まてよ、お前気配消して消えようとしてんな!

 あ、消えた……。便利だなー、それ。



「……えーっと、ミシェル、スレッガー、イアン……」


 そういうことはコソコソ言わないで、前に出て来て言っていいんだぞ、魔召喚士の俺。

 いや、まてよ、その名前はどれも……死亡確定フラグじゃねえか!

 前言撤回!



「Zzzz」


 こ、こいつ立ったまま寝てやがる、魔戦士の俺。

 ……どうやったんだ? 本能のなせる技か?


 武蔵坊弁慶だっけか、立ち往生。

 ならばこれは、眠り往生? 立ち眠りか?

 格好いいのか悪いのか、わからんな。



「あのー、私待ってるんですけど?」

「女神ッ?!」


 くうっ、現実に戻されたぜ。

 しかし、ここは男として決めるところか?

 ……

 やってやるぜっ!


 えーっと、ひらがな4文字だよな……。


 がらはど、てぃーだ、きーふぁ

 ……ダメだと言っただろうが!


 あべる、ばるどる、かるな

 ……俺は殺されるのは嫌だってばよ。


 みしぇる、すれっが、いあん

 ……もちろん自分からつっこむのもお断りだ!


 畜生! 結局、魔召喚の俺止まりってことか……俺は俺なんだな。

 何だか安らかな気持ちになってきたぜ。

 ああもう、どうでもいいや、ああ――


「ああああ」

「『ああああ』ですか?」

「……」

「どうしました? 『ああああ』でいいんですね? 答えてください」

「すみません。ごめんなさい。女神サマ。決めて……ください」

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