第14話 俺、残念無念

「なるほど……」


 女神は今やっと納得したという風で頷いた。

 そして、続けて言った。


「でも、残念なことに、魔王は男です」

「ですよねー」


 そりゃ、そうだ。


 魔王が女だったらそもそも最初の職業選択の時点で、『魔紐士ジ・ゴロ』以外の選択肢は無い。

 というか、俺が女神なら他の職業は説明せずに強制的に『魔紐士ジ・ゴロ』にさせるね、絶対!


「女性限定か……」

「そうですよ、女性のみに作用するチートです。男には効きませんよ……はっ!もしかして……!」


 女神がなんだか、俺に対し、とても理解したような顔をした。

 うんうん、と頷いている。

 俺の肩をポンポン叩いてもきた。


 何だよ?


「ごめんなさい。誤解してました。あなた、本当は男が好きだったんですね……それを考えずに、私は……なんてことを……」


 お、おい、そんな輝いた目を――するんじゃない!

 俺は我慢できずに叫ぶ。


「ちがうわああああああああああああああああああ!」

「そうだぞ、女神、悪い冗談だ」

「全く……俺達を何だと思っているんだ」

「やっぱりそう見えるのか?……俺が悪いのか?」

「いけすかねえな、っつたく、狙い撃つぞ」

「チャリチャリ~」

「俺女神のこと、好きなんだけどな……」

「Zzzz」


 おおう、こういうときの俺たちの心は一つだな。

 この一体感。


 前のおっぱいのときは、あれはリハーサルだったんだな、きっと。

 女神に告白してるやつと、寝てるやつがいる気もするが、まあ、気のせいだろ。

 なんというか満足する俺。


 ……だが、この一体感に水をさす奴がいたんだ。


「ふん、心を操るって言うから、ちょっと心配してたが、心配するほどでもなかったな、最強の俺さんよ」


 魔剣の俺が、やや斜めった姿勢のまま、俺を見下すかのような視線で言いやがった。


 しかし、さっきは有頂天になって求めていた、「最強」という言葉が、こんなに嬉しくなくなるなんて……思ってもみなかったな。


 なんていうんだろう。

 そうだな。


「ちょっと私の話聞いてるの?」

「ごめん……お前が可愛いから……見とれちまってたんだ」

「もう……バカ」


「ちょっと私の話聞いてるの? 鎌倉幕府ができたの何年?」

「116年! いい胸(いいむ・ねん)つくろう鎌倉幕府!」

「あんた、バカ?」


 きっとこの違いだ。


 その言葉に、愛情を感じるか、感じないかだな。

 魔剣の俺の言葉には、俺への、その同じ俺としての親しみのようなものまで、まるで感じなかったんだ。


「やめろ、魔剣の俺、布、いや、サイキ……いや、ええっと……そうだ、紐!の俺をおとしめたところで、魔王が倒せるわけではないだろう?」


 こういう時は、やはり魔法の俺だな。

 常に冷静沈着で俺たちの内部分裂をそれとなく制してくれる。

 そこにシビレルゥ、アコガレルゥ、と言いたくなってしまう程だ。


 ……


 その賢いやつが、おそらくかなり配慮した物言いができるやつが、こんなに言いよどむ俺の現状って、どーよ?


 しかも、なんか、結論としては、布から紐か?


 2次元が1次元になってるじゃねえかよ!

 どう考えても原料に戻ってるぞ?


 ランク上がってないだろ?

 下がってるだろ?


 だから、そんなに気合い入れて叫ばないでくれよ……魔法の俺~。

 

「魔法の俺。流石のお前も、いつもの、チート同士がぶつかると世界が崩壊する理論では攻めてこないんだな、今回は」

「おい、魔剣……」

「そうだよな。どう考えても他の7人に比べて戦力になりそうもないからな、この紐のやつは」


 悔しい……


 悔しい……


 悔しい……が、だけど、俺もそう思ってしまわざるを得ない。


 魔王が男ということは、魔物にもオスメスはありそうだから、メスの魔物には無敵だろう、きっと。女神がレジストできないレベルらしいからな。


 だが、それだけでは、残りの少なくとも半数はいるであろう、オスの魔物には勝てない。というか能力的に無力だろう。


 そもそも、男女雇用機会均等なんたらが魔物の世界にあるとは思えないので、俺の能力が全く役にたたなくなる、敵は基本全部オスです、という線も捨てきれない。紐だけにな、一次元つながりだ……あはは、言ってて悲しくなるぜ。


 こんな風に悩む俺に、まだ何かを言い続けようと、口を開きかける魔剣の俺、俺はこの時下を向きかけたんだが、そんな俺に意外なところから助け船があったんだ。


「もう魔王を倒す作戦会議ですか?でも、その前にすることがあると思うんですけど……」


 女神?

 突然何を言い出す?


「何を突然言い出すんだ? 女神」


 魔剣も同じく疑問に思ったらしい。

 ったく感性は全く同じなのに、何で俺と俺はわかりあえないんだろうな……。

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