第11話 俺、――

「この職業は、ある意味最強かもしれません」

「何だと…」



 周りの俺が「マジかよ……」「おいおい魔戦士超えか?勘弁してくれ」「魔法が通じるかどうか、そこだな」などと動揺しはじめた。

 最後の魔法の俺のはちょっと違うか、まあいいや。


 俺の胸は当然高鳴る。


 最強!

 それは男にとって名乗りたい名詞ふたつなの1つではなかろうか。


 「やあ、俺が最強だよ」うん、いいな。

 この名のり、とってもイイ!


 それにここにいる他の俺全員も、これからは、俺のことを布じゃなくて、最強の俺って言うんだぞ。ヒャッフイイイイイ!


 ……俺がそんな妄想に耽っている間も、女神は淡々と説明を進めていった。



「あえて言うなら、人の心を操る能力、という感じでしょうか?」

「!」


 周りの俺が、「何だと!」「これは盲点だったな」「俺たち全員の心を操れるのか?」「なるほど、これは確かに最強だ」「勝てるわけないよ」と敗北宣言を始めている。


 いやー心地良いね。

 今まで布扱いだったから余計にね。


 操る、操っちゃうよ、もう。

 ふははは、お前ら全員俺の駒だ。キリキリ働けい!


 どこの世界でもそうなんだよ、剣も魔法もいらねえんだ。

 人を上手く使えるヤツが最強なんだよ。

 あーいいなこれ、世界救ったら俺語録として世に残そう。



「あなたは、街行くたびに、街の人々に囲まれるでしょう」

「おおっ」


 周りの俺は、さっきの心を操るという説明でもういろいろあきらめてしまったのか、静かなものだった。


 おっと、この俺、こと、最強の俺自身は最高に盛り上がってるからな。

 英雄だからなー、そりゃ街に出ればパレードが普通だよな。

 「最強! 最強! 最強!」つって、ライブみたいに最強コール間違いないからな。

 アイドルみたいなもんだ。


 ……ちょっと待てよ、一応確認しておくか?

 この女神のことだ。

 落とし穴があるといけないからな。



「もちろん女にモテモテなんだろうな?……女神サマ」

「そうですね、この職業はモテすぎて困るくらいでしょうね」



 これには他の俺も全員羨ましそうな顔をした。

 そりゃそうだよな、女にモテたくない俺なんていないだろう。

 何だか変な言い方ではあるが……。


 ちなみにさっき想像したパレードにおっさんが混じってきたんで念のために確認したんだ。おっぱいの無いヤツは俺以外必要ないからな。


 考えてみりゃ、心を操れるならそれでいいじゃねえか、ってやつもいるかもしれないが、そういうやつは人生見直ししたほうがいいと思うぜ。

 心を自分に強制的に向かせて楽しむなんて、おっぱいに失礼だ。


 この女神のおっぱいも相当なものだが、きっと世の中にはもっと素晴らしいおっぱいの持ち主がいるはずだ。


 モテモテということはそれを自然と我が物にし放題ということなんだぞ!


 大きさ、形……女の数だけ異なる個性のおっぱいが存在する。

 それを俺は独りじめだ。

 なんて素敵なことなんだ。


 いや正確にはかける2ではあるのだが、そこを語り始めると哲学的な話になってしまうから、ここではやめておこう。


 もちろん残念ながらその中には小さいのとかもあるかもしれない。

 だが、今の最強の俺ならばそれも愛でることが可能だと言っておこう!

 人はおっぱいの上におっぱいをつくらず、おっぱいの下におっぱいを作らず。

 おおっこれも良いな!

 語録に追加だな。



「あの……ではそろそろ職業を明かしてもよいでしょうか?」

「当たり前だよ……しっかし、他の職業は最初に職業名言ってたのに、俺のやつは前置きがずいぶん長いな」


 この時俺の中に暗雲のようなものが少し垂れ込めてきていた。

 言ってしまってはいるが、女神のやつのこの言い方の違いはちょっと、というかかなり不自然だ。


「この職業は、そのまま職業名をお伝えしますと、誤解されることが多いものですから、まずはその内容をお伝えし、少しでも勘違いされることを防ごうと考えたのです」

「お前にしては気をつかってるな……あ、いえ女神サマ。そ、そうだ、職業名はあれですかね、魔催眠術士とかですかね。いやー長いな~魔召喚士の俺に勝っちゃうよ、まったく……」

「いえ、そんな名前ではありませんよ」

「はい? じゃあ……魔洗脳士とか? 魔催眠術士じゃ長過ぎですもんね~確かに」

「いいえ、それも違います」

「うーん、もう思いつかないな……もう、ズバリ言っちゃって!」

「『魔紐士ジ・ゴロ』です」


 その時、俺の精神は砕け散った。

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