第10話 俺、女神に自分の職業を問う

「や、やめてくれっ。なんか俺がダメージうけるから。起きろよ、俺、おれえええええ。なんだよこの残酷すぎる女神のテーゼはよっ!」


 俺は女神との間に割って入り、必死で寝ている俺のほっぺをつねって伸ばす。

 流石に、これは効いたのか、それとも俺の叫びが届いたのか、魔戦士の俺は、目をうっすらとあけ、そして見開いた。そう、それは覚醒の時。


「いたたたた……」

「す、すまん、魔戦士の俺……なんか必死になってしまったんだ」


 頬を押さえる俺にひたすらあやまる俺。


 そうだ、女神のやつは? と見ると、俺が見た瞬間に、ぷいっと向こうの方を見やがった。


 しかし、やはり恐ろしいな……


 おっぱいの こうかは ばつぐんだ

 

「でかしたぞ、布の俺。お前は……ここにいる俺たち全員の心を救ったんだ」


 俺の肩をたたいて、魔法の俺が称えている。


 気のせいか、さきほどまでのわだかまりはどこ吹く風で、剣の俺と弓の俺は肩を寄せ合い、槍の俺と魔殺士の俺は武器の先を軽く交わして、いずれも喜んでいるようだ。召喚の俺などは拍手をしている。


 お前ら、いや、俺達よ、か、応援はいいから、そう思ったんなら止めるの手伝えってんだよ!


「というわけで、今度こそ全員そろったな」


 その魔法の俺の声に改めて俺は周囲を見回す。


 両手を組んで斜に構えている、二刀を佩いた魔剣の俺。


 伸縮自在の槍を今は小脇に抱えている、黒い鎧の魔槍の俺。


 意味ありげな視線を、まだ召喚の俺の方に向けている魔弓の俺。


 チャリチャリと手にもつ暗器をせわしなくぶつける魔殺の俺。


 魔弓と魔殺の方をチラチラ見ながら怯えているらしい魔召喚の俺。


 起きたばかりのせいか、あくびの絶えない魔戦の俺。


 あれ?

 まてよ……

 これって……。


「俺以外の俺で、説明受けた職業7つ全部じゃねえかよ!」

「ようやくお気づきになりましたか。遅すぎですよ、この布野郎」


 女神が攻撃的に、俺を見下すかのような目をして言ってきた。


 何か言いかえそうと思ったが、この状況ではおっぱい以外のことは思いつかず、また先ほどの記憶を蘇らせて俺全員を苦しめるわけにはいかないため、俺はただ沈黙した。沈黙するしかなかった。


 チクショウ、何のためのおっぱいだよっ!

 

「まあ、そう気を落とすな、布の俺。案外実は凄い職業なのかもしれん。何しろ、チート使われたら、他の俺たちが全員かかってもかなわない魔戦士の俺よりも説明が後に回された職業なんだからな」


 魔法の俺は冷静に俺を諭した。


 今は布かもしれない、だが明日は、ゴールドクロスかもしれないしシルバークロスかもしれない、もちろんブロンズクロスの可能性もあるが、それはそれで布から比べればランクアップじゃないか?とその目が語っているような気が、俺にはしたんだ。


「そ、そうだな。ナイスフォローだぜ、魔法の俺。よし、クソ女神、早く俺の職業について教えろ!」


 俺の言葉に、女神の口からこれから紡がれるストーリーの幕開けを感じたのか、全員の俺が唾をごくりと飲み込む。


「説明していいんですか?」

「いいさ」

「本当に、説明していいんですね?」

「あ、ああ……もちろんだ」

「本当に、本当に、いいんですね?」

「……」


 そう言われると、何だかとてもためらわれる。

 女神のやつが、ここまで俺に意思確認するっていうことは、まさかとてつもないやばい職業なんだろうか?


 例えば魔爆弾士。

 それを俺に伝えただけで俺が爆発してしまうとか?


 ふと見回すと、魔道士の俺がいつのまにか俺以外の俺をバリアー的なもので囲んでいる。

 流石頭いい俺だ、同じことを既に考えていたらしい。


 なんだかちょっと裏切られた気分ではあるが……。


 ちくしょう女神め、積極的に俺同士の分断でも図ってるのかよ?

 俺達を惑わせやがって。


 余計なことをするな!

 お前は俺の前でその大きくて旨そうなおっぱいをぷるんぷるんさせてればいいんだよ、まったく。


 あーでもそう言ったらこのクソ女神またひねくれそうだな。

 仕方ない。

 下手に出よう。


「頼む……教えてくれ。いや教えてください!女神サマ」

「……わかりました」


 その声に、いよいよか、と全員の俺の注意が女神のやつに向く。

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