第9話 俺、さらに増えた
「ひどいぞっ!弓の俺。俺が召喚した獣を弓でバシバシ撃つなんて」
ピーピー泣いている。
頭には、サークレット。手には身長の半分くらいのまっすぐな棒状の杖を持ち、体にはローブを纏ってはいるが魔法の俺とは違って、こちらの俺は若草色の自然と調和した色である。
なるほど、その言葉から考えるに、召喚の俺か。
しかし、俺の割に心が弱そうだな、こいつ。
「すまんなぁ、召喚の俺。外で鳥や雑魚モンスターを撃つのにも飽きてしまってな。何しろ必ず命中するだろう。毎回テストで100点をとるってこんな感じなんだろうが、テストの内容が変わらないものだから緊張感も何も無い。それで、おあつらえ向きに、ちっとは骨のありそうなのがいるじゃないかと、な。どうせ減りはしないんだ、いいだろう?」
弓を左手に持ち、薄い茶色をベースとした動きやすそうな皮装備で身を固めている。考えるまでもないな、弓の俺だな。
しかし、言い方に変な冷たさを感じるな。俺、なのにな。
「こらこら、そこの俺達、争うんじゃ無い。特に弓の俺、さっき俺に軽く矢を捌かれたからといって他にあたるな」
「何を勘違いしてるんだ、魔剣の俺。あれは試し打ちに過ぎない。捌かれる前提で撃っている。まあ、お前が望むなら即死効果のほうで狙ってやってもいいんだぞ。その鎧の効果とどちらが上か気になってるんだよな。さっき雑魚モンスターで試してみたが、即死で死んだのか、矢の威力で死んだのか、わっかんねえんだよな、まったく」
こ、この弓の俺。俺のくせに残酷すぎないか……さっきの魔殺士の俺とは違う怖さがあるぞ。やっぱり、安全なところから殺戮を楽しめれば……俺も、こうなってしまうのだろうかな。
「やめておけ、剣の俺。弓の俺もそんなに挑発するな。俺たちはどいつの性能もチートだ。オンリーワンにしてナンバーワンだ。そんな奴ら同士が戦えば、おそらくその矛盾にこの世界は崩壊する。2人ともまだこの世界を楽しみたいだろう。違うか?」
「魔法の俺……ちっ、まあそう言われちゃ仕方ねえな」
「ふん。もういい、つきあってられんからな、まったく」
相変わらず発言が適切なやつだ、魔法の俺は、見事に2人と自分を含めた俺たちの立場をたて、2人の矛、というか剣と弓をひかせた。
「さて……これで8人全員そろったというわけだが」
言いかけた魔法の俺に、疑問を感じて俺は口を挟んだ。
「8人って、7人しかいなくないか?」
「ああ、布の服の俺はさっき目覚めたばかりで気づいていなかったのか、さっきからずっとそこで寝ているぞ」
魔法の俺の指さす先を、俺は見た。
いた、部屋の隅に、最後の一人の俺が。
それもただ単に寝転んでるだけじゃなくて、熟睡してやがる。
服装はというと、柔道着を、もう少し薄手で体にフィットしたようにした風情のものを着ている。動きやすそうだな。
上着は半袖。
そこから伸びている2つの手は筋肉隆々といった感じで、とても俺のものとは思えなかった。
こいつは……モンクか?
いや、ここまで出てきていないとなると、魔戦士の俺っぽいな。
ちょっと待ってくれよ、通常状態でも十分強そうなんだが、この俺がチート発揮したら、いったいどうなるんだよ……。
「一応ちょっと前までは起きてたんだがな……おーい、魔戦士の俺よ、起きるのだ」
魔法の俺が、指でぴっとデコピンのような動きをさせると、一陣の風が、魔戦士の俺を襲った。しかし、起こすに足るダメージすら無かったようで、ヤツはそのまま眠り続けている。
「Zzzz……」
「まさか魔戦士の俺、既にチート発動してるんではないよな……」
「恐ろしいことを言うな、布の俺。俺が手加減しただけだ。この寝ている俺のチートがもし発動したら、ここにいる全員束になってかかってもおそらく勝てん」
本当に賢くて冷静なんだな、こいつは。
「勝てん」という言葉はわかっていても、それが事実だったとしても、普通なかなか言えないぞ。
それを冷静に判断した上で言っている。
そして……俺、布にされてる。
だから賢いと認めるやつに素で言われるとかなりショックなんだぞ、おい。
「仕方がありませんね……ここは私の出番でしょう」
すくっ、とおっぱいが俺の近くで立ち上がった。
いや、おっぱいじゃない、女神のやつだ。
「お前……この部屋にいたのか」
「失礼ですね、あなた。ずっと、ここにいましたよ、私。そもそも、私が説明しようと口を開いたタイミングで、次から次へとあなたが戻ってきて、都度あなたがあっち~こっち~とふらふらされるので、説明発動キャンセルされ続けてふて寝してたんです! 唯一前回だけ私が出てきてないんですよ! 責任とってください」
「結局寝てんじゃねーかよ……」
「コホン。ではいきます。さ~良い子良い子。おっぱいでちゅよ~。やわらかいおっぱいでちゅよ~」
「お、おい、まて、なんだそれは……」
しかし、驚くことに、寝ている俺はその言葉に反応したらしい、ふらぁと、夢遊病者のように、不自然に起き上がると、両手を女神のおっぱいのほうに伸ばしはじめた。
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