第8話 俺、増えてた

 黒い鎧、その威圧感からか、同じ背丈のはずなのに、なんだか向こうのほうが大きく見える。

 その手には、身長よりもちょっとあるくらいの長さの槍。


「おお? また別の俺か。しかし黒い鎧はやっぱ格別だな。中二心をくすぐられすぎるっ! ダークヒーロー全開だなっ」

「お褒めに預かり光栄だ、ええっと……俺」


 また似たような反応。

 もういい。慣れたもんだ。


「槍のほうはどうなんだ?グングニルなんだろ、そいつ」

「ああ、さっき試しに投げてみたんだが……」

「何、もう試してんのか、積極的だな、槍の俺」

「とんでもないことになった……」

「はぁ?」

「目の前の山が一つ、ふっとんだ」

「……」


 目の前の槍の俺はメッチャ後悔した顔をして肩を落としている。

 俺は、槍の俺の肩をポンポンと叩いて慰めることしかできなかった。

 

「大丈夫だ、槍の俺。きっと誰も見てない。もし見ていた奴がいたらその槍でそいつを消してやりゃあ、いいさ」

「まったく物騒な冗談を言うのだな、布の服の俺は……むっ?」


 横からツッコミを入れかけた白い鎧の俺が顔色を変える。

 どこから湧いたのか、いつのまにか空間に炎の球が浮かんでいて……そして、俺の方に向かって飛んできた。


 キンッ

 カンッ


 剣と槍が交差し、俺の目の前で切り刻まれた炎はすっと消えた。


「ごあいさつだな、魔法の俺」

「魔剣に魔槍の俺よ、お前達が対応してしまったら、そこの俺の実力が計れないだろうが」


 いつのまにか、部屋の中に第3の俺がいた。いや4か?もういい加減わからなくなってきたな。

 とにかく、いかにもな深めの帽子に、灰色のローブ。

 そして、少しねじ曲がった形のワンドをその手に持ち、宙に浮いている。

 なるほど、確かに魔法の俺だ。


「それはすまなかった……魔法の俺」


 槍の俺がいかにもすまなそうに謝る。こいつ俺のくせにやけに腰低いな。真面目すぎるぞっ!


「ふん、魔法の俺よ、唯一お前が使える攻撃魔法を見せびらかしたいだけだろう」


 剣の俺がギロッと魔法の俺を睨む。

 こいつも俺の割にきどっているというか、強気というか。

 やっぱりいい剣に鎧なだけあるな……俺もきっと装備したら、こういう態度になるな、きっと。

 なんというか、そう、中二だ!


「まあ、その気持ちは正直無いとは言えないがな。だが、俺たちの中で唯一の謎である、その布の服の俺について能力を知りたいと考えているのは俺だけではないだろう?さっきから、ずっと後ろに立ってる俺もいるしな」

「何だって!」


 俺はさっと後ろを振り返った。


 いた、いたわ……すぐそこに。

 体に割と密着した黒い服を着て、短い刀を手に持っている、ちょっと不健康そうな顔色をした俺が。


「全く気がつかなかった……って刀!?」

「驚いたか俺?誰も反応しねえからよ、ああ、もう、このまま殺っちまうかなー、なんて考えはじめちまったところだったぜ」


 そう言って、ジュルリと刀の刃をなめた。

 こ、こいつ何か怖い。俺のくせに、怖い……。

 あ、そうか、こいつが魔殺士の俺か。


「魔法で関知できぬというのが厄介だな、魔殺士の俺のチートは。今はこの部屋の空間内に見えない小さな精霊を敷き詰めて、その反応でわかったが、こんな芸当は、こういう狭い空間でもないと無理だからな」


 俺のくせに賢いなー、この魔法のやつは。真面目に俺とは思えねえ。


「ふん、いつかお前も殺ってやるよ。魔法の俺」

「それはごめん被りたいな、魔殺士の俺」


 2人の俺の間に緊張感が走る。

 あーなんか置いてぼり食ってることこの上ないな、こっちの俺は。

 そんなことを考えていたら、また扉の方が騒がしくなった。

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