第7話 俺、分裂してた

 意味深な女神の言葉が、俺には気になってならなかった。


「どういうことだ? 俺は全職業の能力・アイテムゲットに成功したんじゃないのか?」

「残念ながら……そんなことになればマギアムンドは崩壊してしまいますから。申し訳ありませんが、そのあなたの野望は私の手で防がせていただきました」

「何……だと?ということは……俺は無能力者か!」


 カモン、ハッピースローライフ~。


 これで俺鍛冶屋とか道具屋とかで、名前をあげられるぜ!

 もうな、読者はいい加減、チートだの無敵だの、二回攻撃で全体攻撃だのには食傷気味なんだよ。そんな話は2つとはいらん!

 ああ……悔しくなんてないからな。涙は自分で拭くっ!


 しかし、ひとりでそんな感傷に浸っている俺の前で、女神は首を振ったのだった。


「残念ながら……と言って良いのかは分かりませんが、無能力者というのが、何の職業の能力も持っていないということであるのなら、あなたはけして無能力者ではありませんよ。」

「な、何だって」


 さよなら、スローライフ。

 いや、まてよ、ってことは……。


「なるほど、俺はあの職業のどれかには、なっているってことか!」


 頭の中がパアッと開けた気がした。

 覚えている、もちろん覚えているともさ。


 魔道士、魔剣士、魔槍士、魔弓士、魔殺士、魔戦士、魔召喚士だろ。

 テストはいつも一夜漬けなんだ、俺の記憶力を馬鹿にするなよコノヤロウ!


 俺にはどの職にするか決められなかったけど、冷静に考えれば、どの職業だってワンチャンどころかチートの極みだぜ。よしバッチこい!


「うーん、何といいますが、上手くいえませんが、それもちょっと違う気がします」

「えっ?違うのか、いったい何だっていうんだよ!」


 全職業ゲッツじゃない、かといって無職でもない、しかしどれかの職業についてるわけでもない……俺は頭が痛くなってきた。


「それはですね……」


 さすがに混乱する俺をどうにかしてやろうと思ったのか、女神が何か言いかけたそのとき……ガチャリと扉が開く音がした。

 当然、俺の目はそっちに向く。


「ようやくお目覚めか」


 1人の男が入ってきた。

 腰の左右に2本の剣を下げ、白く輝く鎧を着ている。

 短い黒い髪。気のせいか、どこかで見たことがあるような気が……そう、自宅の洗面所とかで。


「お前っ、俺か?」

「そうだ。よろしくな、俺」


 なんて言ったら良いんだろうな……いや、もうわけのわからなさに固まってしまって何も考えられなかった、が正解か。


「よろしく、って言われても、俺にはわけがわからないんだが、俺」

「なるほど、目覚めたばかりだったな、俺」

「……」

「……」

「すまない、俺俺サギっていう言葉が頭に湧きまくって仕方がなかったから、ちょっと頭を整理してたんだよ。鎧の俺」

「なるほど、俺も最初はそうだったよ。布の服の俺」


 言われて自分の着ている服を見る。

 あーなるほど、布の服だ。

 防御低そうだな……って、俺なんか駆け出し冒険者感満載の格好してるな。

 待てよ、俺の目の前にいるこいつは、もしかして。


「まさかお前、魔剣士の俺かっ!?」

「そのとおりだ……ええっと、俺……」


 言いよどんでやがる……まあわからんでもない。

 布の服だもんな。

 こっちの俺の職業、俺にもわかんねえよ!

 俺の職業っていったい何なんだろうな?と、疑問が脳裏に浮かびはしたが、俺は既に目の前のモノに心を奪われてしまっていた。


「この2つの剣がティソーナとコラーダか」

「ああ、そうだ」

「切れ味鋭そうだなぁ。どんなもんだ?」

「そうだな、さっきちょっと街の外に出てモンスターをリンクさせて遊んでみたが、一振りで50匹くらいは余裕で消えたな。まさに俺TUEEEってやつだ。この鎧のせいかダメージも全然食わなかった」

「光ってて格好いいな、これがスターヌメロかあ」


 見ていて何だか羨ましくなってきた俺は、女神に訴えた。


「おい、クソ女神。目の前のこの俺が魔剣士ってことは、こっちの俺は、魔槍士かなんかなんだろ、早く槍出してくれよ」


 女神は俺のその言葉に目を閉じて首を振った。

 何だ? その悲しげというか哀れみっぽい顔をやめろよ。

 まさか……。


「すまない。魔槍士は俺なんだよ、そこの俺」


 扉の方でまた、別の俺の声がした。

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