第5話 俺、女神にゼイタクを言う
「だから、それはできないと、先ほど申し上げたではありませんか」
女神は、全職業の能力・アイテムを所望した俺に対し、再度同じ内容を繰り返した。マギアムンドのバランスが崩れるからそれはできない、と。
「いいだろ、ちょっとだけだよ。すぐに魔王バラして終わりだからさ。それならバランスとかも大丈夫なんじゃないのか?」
「だめです!」
「ちょっとだけ、少しだけだって。やらせてくれよ」
「だめったら、だめです!!」
「お前もどうせ初めてじゃないんだろ、こういうの。すぐに気持ちよくしてやるからさ」
「だめったら、だめったら、だめです!!! なんか言い方も、それに目つきもいやらしいですよっ、あなた」
女神が身の危険を感じたのか、再び胸をガードする姿勢に入っている。
いかん!
おっぱいに触らんように注意しすぎたせいか、その触れない分、言葉に表れていたらしい。
まったく恐ろしいな、こいつのおっぱいは。
男に対して凄まじい魔法効果がありやがる。
魔王もこれで釣れば言うこと聞くんじゃねえのか、まったく。
「とにかくお前の世界を救うというのであれば、俺はその対価として、全ての職業の能力・アイテムを要求する」
「どうしてそんなにこだわるんですか?どの職業にも、それぞれこんなにチートなスキルをご用意しているじゃないですか」
「だめなんだよ」
「えっ……」
「俺は選ぶのが苦手なの!」
そうなのだ。
俺は選択という行為が苦手だ。
ズボンを左右どちらの足から履くか、という日常的な行為から、こうしたゲームでの職業選択まで、何かを決めると言うことが俺には上手くできない。
選択肢が多いほど困る。
昔やろうとした、とあるゲームなどは俺にはまさに拷問だった。
あれは自キャラを1体作成して、それで冒険するMMOだったな。
種族・職業・性別、ここまではまあ、目つぶって選ぶこともできなくはない。自分の意思で選択できなければ運にまかせるというのは一つの方法だからな。
もし不遇な職だったら転職すればいいし。
ああ、すまん。性別は女一択だ。これは自分の意思というよりは神の意志ってやつだな、うん。
しかし、その選択後の画面にて、俺は驚愕した。
まず、顔が選べてしまう。
しかもロリ系から美人のお姉様系。ワイルド系に深窓の令嬢風大人しめ系……うおおおお、どいつにすればいいんじゃ、これ?
さらに、髪の毛。
ロング、セミロング、ミディアム、ショートといった長さは当然、ボリューム感あったり、くるっと巻いてたり、三つ編みだったり、ツインテールだったりという髪型、そして髪の毛の色まで選べたんだ。おいおいおいおい。
しかたなく、そのとき部屋のテレビに映っていたアニメキャラに近いものをいずれも選んだ。
めぐりあわせってのは俺みたいな意思のない人間が物事を決めるときに重要だからな。
だが、その次が、たいへんだった。
なんと、キャラの身長、体型、胸の大きさが選べたんだ。
誰だよ、こんなの作ったの?
キャラに何やらせるつもりだよ。
エロゲーじゃないんだぞ? これ。
256段階で胸のサイズを決められます、だと?
1じゃ壁すぎるし、256じゃ化け物じゃねえかよ。
ABCDE……のサイズのテンプレくらい用意しとけ馬鹿者っ!
俺も自分の好みのサイズなんてわからねえよ!!
もう、どうなったかは、わかるよな。
そうだ、俺はこのゲームで冒険に出ることはできなかった……。
いかん、昔の嫌な思い出を思い出している場合じゃ無かった。
というわけで、胸を張ってこれだけは言える。
「俺は物事を決められない男だ!」
「……でしたら、私が決めて差し上げましょうか?」
「そういうのは……嫌なんだよ」
「えっ?」
「だってなんかよ……自分で決められないみたいじゃないか……」
「……決められない、って、さっき自分でおっしゃいませんでした?」
「俺、人に決められるのは嫌なのっ!」
「いちおう私女神ですけど……」
「うるせえ! また、おっぱい揉むぞ、ゴルアアアア!」
「魔戦士が向いてそうですね」
「だから勝手に決めるんじゃ無い、と何度言えば」
「こっちだって1つにしてください、と何度も言ってますよ……あ!」
そうこうしているうちに俺たちの周囲の空間が歪み始めた。
女神はそれに気づいて声をあげたのだ。
ラーメン食べながら召喚されたときに、見回したが、ここは上下左右どちらを見てもどこまでも空、のようなところだ。
そこに、俺と女神は浮いている。
いや、なんか普通に歩けるから、この表現でいいのかもわからないが。
とにかくそういう、特別な空間、だ。
しかし、ここはやはり時間限定で存在できる場所みたいだな。
俺は女神の何気ない「時間も無いですし」という言葉を聞き逃さなかった。
考えられるのは、対戦格闘でよくあるゲームの初期選択画面みたいなやつだな。時間がきたら強制選択なのだろう。だってどれか選んでもらわんと女神のやつは困るはずだからな。
ということは……ということはだな!
このまま全ての職業を選択したままゴネ続けていれば、そこにワンチャンありそうじゃないか? 俺はそこに賭けていた。
何と言われてもいい、選べない人間が全部選ぶというのは、1つの生存戦略だからな。
「早く……早く決めてくださいっ」
女神が焦った声で俺に訴えかけてくる。
くっ、おっぱいが近い。
負けるな俺。
「そういうわけにはいかんなっ」
「もー、女神に能力のゼイタクを言う子は八つ裂きですよ!」
「上等!」
俺がこの台詞を言ったか言わないか、くらいのタイミングだったかな。
周囲の空間が……崩壊した。
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