第2話 俺、女神に説教する

 それまでの沈黙から一転、女神を相手にした俺の説教はなおも続いていた。


 女神は俺の目の前で正座したまま、神妙な顔をして下を向き、じっと俺の話をきいている。


「いいか、カップラーメンてのはな、食べる時間が命なんだよ」

「はい……」

「俺はな、お湯入れて3分、ってフタに書いてあるラーメンの4分めはもうダメなんだよ。そろそろ太くなりはじめるだろ? あの食感がもう耐えられねえんだよ」

「はい……」

「ちゃんと聞いてんのか? 3分でできあがるやつはな、お湯入れて3分までにかけこめなきゃもうダメなんだよ、わかる?」

「はい……」

「むしろ俺は最近いつも2分でスープの元入れてんだよ。麺のパリパリした食感がたまんねえ。これは試したことあるヤツになら絶対わかってもらえるはずだっ!」

「はい……」

「2分のパラダイスに満足して、1分はまだ試してないがな。そろそろ現状に満足しないで、次のステージにいってみるべきかもしれない」

「はい……」


 言っててなんだが、自分でも、いつのまにかカップラーメン談義になってきた気もする。

 しかし、それよりも俺には、この時、気になってならないことがあった。本当に俺の話聞いてんのかな、コイツ。聞いてるんだよな?


「『はい……』、しか言えないのかよ、お前。お前はそんな俺のラーメンスピリッツを踏みにじったんだぞ! 俺に、何よりもラーメンさんに、申し訳ないと思わないのか」

「はい……」

「貴様っ!」


 俺は右手で女神のアゴを持って、くいっと自分のほうに向けた。

 そして、ヤツが手に何かを持っているのに気がついた。


 あ……。


 いつのまに取り出したのか、その両手のひらで作られたスペースの上に、小さな可愛い人形が存在していた。デフォルメされた体型ではあるが、髪の長さといい服装といい、どことなくコイツに似ている。

 それが「はい……」「はい……」と一定期間で繰り返し言っているのだ。


「お前なーっ! 誠意ってものはないのか、誠意ってものは?」


 憤る俺は女神の両肩に手をかけて揺さぶり、抗議する。


 しかし、女神は、その頭を激しく前後させられつつも全く表情を変えず、なおも抗議を続ける俺に対し、手に持つ人形をぐいっと両手で突き出してきた。


「ありますよ、『誠意』。この子です……」

「人形じゃねえか!」

「これが私の『誠意』の塊です」

「だから、人形……だろ?」

「私の『誠意』を取り出したものが、この子です」


 な、何をいってるんだ、コイツ。電波系なのか?

 俺はちょっとやばいものを感じ初めたので、いろいろあきらめてこう言う。


「もういいわ。しまえよ、それ」

「それでは……」


 彼女の手の上にあった人形が、蜃気楼の様な者に包まれ、形が曖昧になったかと思ったら、次の瞬間にはもう消えていた。


 ゲームのワンシーンのようだった。

 一瞬それに見とれてしまった俺は、我に返ると改めてヤツに言ったんだ。


「お前……ただの、おっぱいが大きい、メンヘラ女子じゃなくて、本当に、女神……なんだな」

「ようやくお話を聞いていただけそうですね……そうです、私はティアマト。異世界マギアムンドを守護する神です」


 コイツ、俺の台詞を華麗にスルーしてやがる。

 まあいいか。


「異世界マギアムンド?」

「あなたの世界とは異なる摂理ルールが支配する世界です」


 キラリ。

 俺の表情を外から見てる奴がもしいたら、この時俺の目が輝いたのがわかっただろう。


「異なる摂理ルールっていうと……魔法とか魔法とか魔法とか使えちゃう感じか?」

「そうですね」


 ガッツポーズ! ついに俺の時代きちゃったか。

 俺は自分が呪文を唱えて、魔物の大群に破壊の魔法が炸裂し、一気に消滅するさまをイメージして震えた。


「やっぱりあれか、魔力のかかってる武器とかで戦える感じか?」

「そうですね」


 いいねー、俺最強は間違いないな。

 俺は、ほとばしる炎の剣で、必殺技を叫びながら一撃で邪竜を切り裂くシーンを想像しニヤリとした。

 

「当然、精霊とか幻獣とか召喚できちゃったりするよな?」

「そうですね」


 くっくっくっ。実は重要なポイントなんだぞ、ここは。

 船とか飛行船とかだりぃし、面倒だからな。

 いつでも呼び出せる俺専用ペガサスとか最強!

 俺の心は、もう、翼の生えた愛馬スレイプニールに乗って大空を駆けていた。


 もうこれだけ聞けば十分だな。

 俺は迷わず女神にこう言ってやったね。


「いいぜ、お前の世界救ってやるよ」

「判断がお早いのですね。何をするのかを、確認されなくてよろしいのですか?」

「よろしいも何も、どうせ魔王を倒す、とかだろ」

「それは、そのとおりなのですが……」

「大丈夫だ、問題ない。魔法に、魔剣に、召喚獣、そんだけ貰えれば、もしレベル1開始でもレベルをさくさく上げて、最後はどうせ物理で殴っておわりだ。余裕っ」

「えっ? 今おっしゃったの全部ですか?」


 それまで、俺の言うことが納得いかないのか、首をかしげながら応対していた女神が、この時急に驚き顔になった。


「あん? 能力とかアイテムのことか? 当然だろ、世界を救うんだからさ」

「それはできません」

「は?」

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