第7話「爆弾のありか」
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ。
目覚ましが鳴る。
時間はリセットされたが、後味の悪さだけはそのまま残っていた。顔中は汗だらけだ。
そんな思いをして判明したのは、彼女の鞄には爆弾がない、ということである。となれば、爆弾は彼女自身が持っていることになる。
おそらく今回も彼女が起爆したような行動はなかったと思う。
悲しみと憎しみの混じったような彼女の表情が思い出されて、気分が重くなる。
だが今回も彼女のところへ行って、爆弾のありかを探さなくてはならない。
「やあ、おはよう。調子はどうだい?」
「まあ……」
「どうかした? 顔色がよくないぞ」
博士との毎度のやりとりも面倒だったので、やり過ごそうと思ったが、どうやら気分が顔も出ていたようだ。
「な、なんでもないです。ちょっと顔を洗ってきます……」
朝食を運んできてくれたクラーラも心配そうにこちらを見る。
トイレに駆け込み、洗面台の水を頭から浴びる。
冷たい水が脳をしゃきっとさせてくれる。
シャツまでずぶ濡れの姿は情けないものだが、気持ちは多少リセットできたように思う。
負けんなよ、自分。人を助けんだろ!
自分がこの作戦に参加したのは、テロリストの大量殺戮を救えるのは自分だけだ、と聞いたからである。
テロリストを殺す、というのは気になったが、それで大勢を救えるのなら、やむを得ないと思った。
テロリストがそのまま犯行に及べば、罪のない人々がたくさん死ぬことになる。それは彼らにとって、理不尽すぎる死だ。テロリストがよく分からない主張を成し遂げるために、死んだ理由も分からないまま死んでいってしまう。そんなのいいわけがない。
決心したのは三年前の武雄の死が強く影響している。彼もまた死ぬはずのないところで死んでしまったのだ。飲酒運転に巻き込まれて死亡なんて救いがなさすぎる。いったい彼が何をしたというのだ。裁判で多額の賠償金を支払うように決まったが、それで武雄が生き返るわけじゃない。犯人はあとになって泣いて謝っていたが、武雄は謝罪を聞くことすらできない。
みんなを救え! 自分にはそれができる! 望未もきっと被害者だ。何も知らない普通の子なんだ。彼女も救え! 俺にしかできない!
両頬を思いっきりパンと叩く。
「しゃああっ! やってやるぜっ!!」
爆弾が鞄にないとなれば、彼女自身が持っていることになる。
次は彼女の服を調べてみよう。
と言っても、どうやって調べりゃいいんだ……?
爆弾があるとすればポケットだ。確かあの制服は胸とスカートにポケットがあるはず。こっそり近づいて、外からポケットを触ってみるか。
……いやいや、ただのチカンじゃないか!
「どうかした? 変な顔して」
「いや、なんでもない……」
明海駅に向かう車内で、百面相をしているところを博士に見られてしまう。
どうすれば危険を冒さず、服を調べられるか検討したものの、よい答えが思いつかなかった。何をしても不審人物になって取り押さえられるエンドが待っている。
たいした案が思い浮かばぬまま、電車が来てしまう。
仕方ない、やるだけやってみよう。
電車から乗客が降りてくる。望未も改札に向かって歩いてきている。
「あの、すみません」
「はい? 何ですか?」
まずは普通の高校生として、望未の足を止めさせる。
「服の中に虫が」
望未の首筋を指さす。
「えっ!? きゃあっ!?」
望未は慌ててバサバサと、セーラー服の襟を上下させて、虫を払おうとする。
どんなに激しく揺さぶっても虫は出てこないだろう。なぜなら虫なんてはじめからいないのだから。
「と、取ってください! 虫、ダメなんです!」
本気で慌てていて、ちょっと悪い気持ちになる。
だが、そんなのを気にしている場合ではない。これは彼女を救うためにやっていることだ。
「奥入っちゃったから、脱いだほうがいい」
都合の良すぎる台詞かと思ったが、彼女は背に腹は代えられないと判断したのか、周囲の目を気にせず、思い切って上着を脱ぎ始める。
キャミソール姿になり、上着を一生懸命バタバタとはたく。
上着に爆弾が入っていれば、これだけ振れば落ちてくるはずだが、何も落ちてこなかった。
上着には何も入っていない。となればスカートのほうか……。
「む、虫とれましたか……」
望未は呼吸を荒くしながら聞いてくる。
「いや、スカートのほうに……」
「ええっ!?」
爆弾が爆発するまでにそんなに時間がない。
ええい、ままよ!
思い切って、彼女のスカートを高く持ち上げる。
いわゆるスカートめくりである。
望未は突然のことに目をぱちくりさせている。
爆弾の確認のために、スカートを数度バサバサと扇ぐ。
スカートに爆弾状の形もなく、その重みもなし。
つまり彼女は純白、いやシロだ。
「虫はもういないみたいです!」
わざと大きな声で言う。
女子高生のスカートをバサバサしている異様な光景を、周囲の人はどう感じたかは分からないが、正当性をきっちり主張しておいたのだ。
彼女は顔をリンゴのように真っ赤にしている。
軽く頭を下げると、気が動転しているのか、上着を腕に抱えたまま鞄を持って走って行ってしまう。
「服、着て!」
キャミソール姿のまま、公衆の面前を駆け抜けるのはさすがに気の毒だ。
だがそんな心配は無用だった。
いつものように白い世界に襲われてしまう。
彼女は痴態は誰にも見られないで済むし、自分のスカートめくりは誰にも記憶されない。
だが彼女が何を穿いていたかは、俺が記憶し続けるだろう。
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