第4話「再びの邂逅」

 車を降り、テロリストの少女と同じ制服を着た女子高生とすれ違いながら、駅に向かう。

 スマホを改札機にタッチして、駅構内に入る。

 このタイミングで写真が送られてくるはずだ。

 さっそくスマホに着信があり、写真を確認する。さっき博士と見せてもらった写真と同じ。やはり送り間違えではなかった。写真に写っているのは、夢で見たセミロングの少女だ。

 やがて電車が到着し、少女と出会うはずの場所へ移動する。

 夢とまったく同じシチュエーションだ。向こうからターゲットである少女が歩いてくる。こっちは未来予知装置による予知で彼女のことを知っているが、当然、少女は自分が殺されようとしていることなんて知りもしない。相手がどのような訓練を受けているかは分からないが、不意を突けばどんな相手だろうと勝つことができる。

 彼女との間合いを一気に詰め、ナイフの柄を自身の胸に当てる。

 あとは体を重ねるように一歩踏み込めば、ナイフは彼女の心臓に吸い込まれていくはずだ。

 だが……その一歩が踏み出せない。

 頭ではすでに決めていたはずなのに、少女を殺すことにまだ迷っていたのだ。

 何やってんだよ! このままじゃ夢と同じだ! 彼女がそのまま行っちまって爆弾が爆発する。早く止めるんだよ!

 少女は、男子高校生が自分の前で急に立ち止まったので、何事だろうと不思議な顔をする。

 そして次の瞬間には、顔をゆがめることになる。


「キャアアアーッ!?」


 少女は耳をつんざくような甲高い悲鳴を上げた。

 目の前にナイフを持った男が、自分を刺そうとしているのだから当然だ。

 至近距離で叫ばれ、危うくナイフを取り落としそうになった。

 そのすきに少女は自分の横をすり抜けていこうとする。その先には改札がある。

 何をしてるんだ、殺せ! まだ間に合う! 振り返って背中から襲え!

 あっけにとられてる場合ではない。自分を奮起させ、すぐに振り向く。

 夢とは違う。逃げる彼女の背が見える。自分の足ならば間に合うはずだ。

 ナイフを握り締め、彼女を追って走り出す。


「逃げろー!」

「ナイフを持ってるぞ!」

「助けてー!」


 少女の悲鳴から恐怖は伝染していき、駅構内はあっという間に阿鼻叫喚の状態となる。自分を避けるように、恐怖の表情を浮かべた乗客たちが一目散に逃げていく。

 そして、少女を追いかける自分の足が、急に止まった。

 何をやってんだ、俺……?

 突然、我に返ったのである。よく考えてみれば、この絵面には非常にまずい。ナイフを持った男子高校生がセーラー服の少女を追いかけて、殺そうとしてる。

 どっちがテロリストだよ……。

 自分は世界を救うことをやっているのでなかったのか。呆然と立ち尽くしてしまう。

 いきなり背中に強い衝撃が走る。

 誰かに後ろからタックルされたと分かったときには、地面に倒されていた。コンクリートの地面に打ち付けられる。そして男にのしかかられる。


「おら! ナイフを捨てろ!」


 背中に乗った男が叫ぶ。

 馬乗りにされ、立ち上がることができない。


「ぐあっ!!」


 他の男にナイフを持つ手を靴で踏みつけられる。

 手から離れたナイフは蹴飛ばされ、ホームの下に転落する。


「違う、俺じゃないんだ! あの子を追ってくれ!」

「何言ってやがる! 殺人犯はてめえだろうが!」


 横っ腹を蹴り上げられる。

 殺人犯……?


「うがっ……。こ、これじゃ夢と同じに……」


 彼女を止めなければ、このあと爆発が起きてみんな死ぬことになる。

 大勢に手足を押さえつけられて、一歩も動くことができない。


「話を聞いてくれ! じゃないとみんな死ぬぞ!」


 頭を殴られ、そのまま地面に押さえつけられる。

 夢ではそろそろ爆弾が爆発したはずだ。

 殺人犯、か……。

 テロリストは女子高生なのに、それを阻止しようとした人間が無様にも地面に組み伏せられている。これではどっちが殺人犯なのか、分かったものじゃない。

 いろいろ終わった。

 髪の毛を引っ張られながらも、澄みきった顔をしていたと思う。

 そして世界は白に包まれた。

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