第5話 魔王、囲まれる




 四人の留学生を名乗る転入生がきた初日の休み時間。

 転入生の周りにはクラスメイト達が集まっていた。



 ベリウス以外にだけ。





「おう、お前らちょっと面貸せや。」


 ベリウスは配下の三人を連れて屋上に行った。


「なんでわしだけクラスメイトに囲まれないんじゃ。」


 ベリウスはキレ気味に言った。


「いや、いいだろ。面倒臭くなくて。」


 女子に囲まれて質問攻めにあっていたブブが言う。


「なんじゃ嫌味か?」

「い、いや、ちげーよ。」


 ベリウスが半ギレでブブの胸倉を掴む。

 ゴルドがその様子を見て、眼鏡をクイッと持ち上げて言う。


「まぁ、高校生には見えないからな。」


 ゴシャア!とゴルドが潰される。

 ブブをハンマーのようにして、ベリウスは真顔でゴルドを叩き潰した。

 その様子を見ていたルシアが言う。


「恐らくはオーラが出てるのでは?」

「オーラ……?」

「魔王のオーラ。動物的本能で恐れられているのでは?」


 人間が本能レベルで恐れる怪物、最強魔王"ベリウス=ド=ストロゲスト5世"。

 近寄っちゃいけないとクラスメイトは直感しているのである。

 そして、実際それは正解なのである。


「なんでじゃ! 貴様らもそこそこ凄い魔族じゃろが!」

「まぁ、そこは格の違いじゃないですか。魔王ベリウスが凄すぎるんですよ。」

「え? そ、そうかのう? ガハハ! まぁ、わし凄いからのう!」


 褒められて調子に乗るベリウス。

 ルシアは適当に拍手しながら思った。


(まぁ、魔力抑えれば目立たないんだけど黙っておこう。面白そうだし。)


 調子に乗ってガハハと笑っていたベリウスがハッとする。


「いや、わしは普通の女の子になったんじゃ! これじゃ駄目じゃろ!」


 転がってドタバタするベリウス。


「いやじゃ~! わしも囲まれてちやほやされたい~!」


 普通にいつもの駄々っ子バタバタをされると学校が崩壊するので、ルシアが結界を張って防御しつつ声をかける。


「転入生は初動が大切です。もう出足で躓いたのでそれは無理ですよ。」

「この部下、非情すぎる!!! いやじゃいやじゃ!!! なんとかしてくれルシア~!」

「仕方ないですね……。」


 これ以上結界で駄々っ子バタバタを防御するのも疲れたので、ルシアはやれやれと首を横に振る。


「私が何とかしましょう。」


 そこでぴたっとベリウスが止まった。

 そして、がばっと飛び起きてルシアに飛びつく。


「本当かルシア!?」

「ええ。『囲まれてちやほやされたい』。それでいいですか?」

「うむ!」





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「で、お前は何をしたんだ?」


 ブブがルシアに問う。

 ルシアが自身のこめかみに指を当てて種明かしした。


「洗脳しました。」



「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」

「ベリウスチャンカワイイデス。」


 ベリウスの周りを取り囲んで、焦点の合っていない目で同じ単語を繰り返すクラスメイト達。

 そんなクラスメイト達を見て、ベリウスは鼻の下を擦ってにやにやした。


「わし、そんなに可愛いか?」

「それでいいのかお前。」


 ブブのツッコミは「ベリウスチャンカワイイデス。」の号令に飲まれて聞こえなかった。

 この異常な光景から離れつつ、ブブはルシアと話す。


「これいつまで洗脳するんだ?」

「今日の休み時間だけ囲われてれば満足するでしょう。」


 洗脳されたクラスメイトに囲われて、カワイイカワイイと機械的に言われているだけで満足げにしているベリウスを見て、ブブは思った。


(魔族ってここまで愚かになれるんだな。)


 ちなみにゴルドは意識が戻らないので保健室に送られた。




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