第4話 魔王、転入する




 ヤラワ首都第四高等学校、二年四組には、今日転入生がやってくる。

 二年四組の教室内部では既にその話題で持ちきりだ。


「なんか、外国から来た留学生らしいぜ。」

「四人も来るとか。」

「なんでクラス散らさないんだろう。」

「さっき職員室で見たけどすげぇ美人がいたよ。」

「カッコイイ子とかいないかなぁ。」


 そんな話がされている中で、教室の片隅で頭を抱えている男子生徒に、女子生徒が声をかけた。


真人まなとどうしたの? 変な顔して。」


 普通の男子高校生、たいら真人まなとは顔色を悪くしながら窓の外を眺めていた。


「いや、ちょっと体調悪くて。」

「具合悪いの? だったら休めば良かったのに。」

「いや……なんか、よく分からんけど気付いたら学校についてたんだよ。」

「何それ。無意識に学校来るくらい学校好きなの?」


 真人は難しい顔で何かを考える。そんな彼の様子をおかしく思ったクラスメイトで幼馴染みの花咲はなさき緋彩ひいろは顔を覗き込む。


「何か悩みでもあるの?」

「悩みというか……実は嫌な悪夢を見てな。」

「悪夢?」

 

 真人は顔色を悪くして、微かに残る悪夢の記憶を口にした。


「すごい変な女が俺を待ち伏せしてたんだ……。そいつが物陰から俺に鉄山靠てつざんこうを叩き込んできたんだ……。」

「てつざんこうってなに。」

「トラックに轢かれたみたいな一発だった。俺はそのまま吹き飛ばされて壁に叩き付けられたんだ。夢の中の俺は身体がバラバラになってたかもしれない。」

「こっわ……。」

「死んだのかと思った。なんか女神みたいなの見えたから。異世界転生でもするのかと思った。」

「異世界転生?」

「……そして、気付いたら俺は校門の前にいた。」

「なんなのその悪夢。」

「俺だって訳分からん。」

 

 真人はあの時に鉄山靠てつざんこうを叩き込んできた女の事を思い出す。

 ちなみに鉄山靠てつざんこうとは八極拳の技のひとつである。背中からぶつかりにいくようなやつである。

 角待ちしていて突然真人に鉄山靠てつざんこうを叩き込んできた謎の女武闘家……。


「……最悪な悪夢だったけど、あの女の姿が目に焼き付いて離れないんだ。」

「それってトラウマになってるんじゃないの。」


 艶やかな長い黒髪。透き通るような白い肌。美しい金色の瞳。

 あれはこの世の存在のようには見えなかった。


「……ま、あんな女現実に居るわけないよな。」

「まぁ、普通の男子高校生を角待ちして半殺しにする女はそうそう現実にいないよ。」


 そんな会話をしていると、チャイムが鳴り、それを聞いた緋彩は急いで席へと戻っていった。

 少し遅れて担任が教室に入ってくる。

 起立、気をつけ、礼、着席と朝の挨拶を終えた二年四組の前で、担任は「えー」と一言話し始めた。


「実は今日、転入生がいます。それも四人です。」


 ざわざわとざわめく教室内。噂されていたのを聞いていなかった真人はへぇと適当に聞いている。


「転入生は海外からの留学生です。まだこの国の事で分からない事もあるので、優しく教えてあげてください。」


 はーい、と適当に何人かが返事をする。外人となんて関わらないだろう、等と真人は思っている。やたらと多いなとも思ったが、そこまで興味がなかった。


 ガラガラと扉が開いて、転校生が入ってくる。


 次の瞬間、真人は思わず声をあげた。


「ああっ!?」


 見覚えのある姿。

 長い黒髪に、真っ白な肌、金色の瞳の大人びた女。

 真人に鉄山靠てつざんこうを叩き込んだ謎の女武闘家がそこにいた。


「うるさいぞたいら。」


 先生に怒られて慌てて口を塞ぐ。どうやら女武闘家の方は気に留めた様子もなく、後ろからぞろぞろ他の転校生を率いて入ってきた。


「……では、自己紹介をお願い致します。」


 何故かやたらと腰を低く頭を下げる先生。

 すると、女武闘家は得意気な顔で自己紹介を始めた。


「わしは"田中ベリウス"! 17歳じゃ! よろしく頼むぞ皆の衆!」


 女武闘家は田中ベリウスというらしい。

 続いて、赤い髪の長身の男が自己紹介する。


「鈴木……だっけか? ああ、"鈴木ブブ"だ。」


 鈴木ブブという男は何故か自分の名前も理解できていない様子でそう言った。

 続いて、青い長髪の眼鏡の男が自己紹介する。


「"ゴルド=フェルベ」


 青髪の男にドスッと隣にいた白い髪の女が肘打ちした。結構深く肘が刺さって「ウッ」と生々しい声をあげて、青髪の男は顔を伏せた。


「…………"伊東ゴルド"。」


 何やら最初言い掛けた名前と違う気がしたが、それよりも悶絶して苦しんでる方が気になってクラスメイト達は特に突っ込まなかった。

 最後に白髪の女がぺこりと頭を下げる。


「"佐藤ルシア"です。以後お見知りおきを。」


 四人の自己紹介が終わると、先生が最後に言う。


「以上、失礼のないように。」


 失礼って何だよ、とクラスメイトは思った。

 先生からしたら魔王が幹部を引き連れて入学してきたから気が気じゃないのである。


「後ろの席へどうぞ。」


 先生が手を差し出した先には四つの席が既に置いてある。

 四人の転校生はそれぞれ席へと向かった。


 隣に座ったベリウスを見て、真人は引き攣った笑みを浮かべる。


「よろしくのう!」

「あ、ああ……よろしく……お願いします……。」

 

 真人の頭に鮮明に悪夢が蘇る。



(あれは予知夢だったのか……!?)



 とにかく真人は本能でこいつに関わり合っちゃいけないと思った。




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