いつまでもそのままで

 嬉しすぎるくらいに嬉しい。

 巴先輩のような素敵な人に、こう想ってもらえるなんて。

 それでも、今ここで何か自分が口にすれば、それが何かを決定づけるものになると思う。

 この嬉しさを口にすることですら。


「安心して。変な気起こしたんじゃないよ」


 巴先輩は穏やかにそう言ってくれた。

 ほんの少しだけ立った波を収めるように。


「ふふ、勘違いしないでよね~」

「……ユルいツンデレですね」


 助け舟のような言葉にすがり付いた。

 働かない思考の中、やりとりが成立した感覚に少し気が楽になる。


「……付き合いたいとかは本当に思ってないんだ」


 矛盾のようにも感じる言葉、それでもただ納得がいった。

 ただ好きでいてくれているだけで、自分と月無先輩の仲を引き裂くつもりも、そこに割って入るつもりもないんだろう。

 一方的に聴いていばいいのではないかと、心のどこかで甘えていたのも、そんな心根を察していたからだった。


「……ふふ、意味わかんないよね。勝手でごめんね、なんか」

「いえ、そんなこと……」


 偽りのない気持ちが、全て単純な想いで成立しているわけじゃない。

 むしろ、自分達の関係には、本音だからこその複雑さがある。


「っというか、もし~、仮にね~? 万が一~……」


 間をつなぐように、そんな言葉を続けた。


「私の方に気持ち傾いたりしたら~。……私、君のこと好きじゃなくなると思う」


 何故とは思わなかった。

 その理由は自分が一番わかっているし、それがあるからこそ成立している関係だ。


「私が好きな白井君は、めぐるのことが好きな白井君だからさ~」


 それが確信に変わっただけだった。

 巴先輩にそう言ってもらえるのは、月無先輩ありきでの情熱があるからこそ。


「……そうですよね」


 本当にそうなんだと思う。

 巴先輩に限った話じゃなくて、多分、軽音学部での関わりの全部で。

 自分を形成する芯こそが月無先輩で、可愛がってくれる先輩方も、ライバル視してくれる同輩も、そんな自分だからこそ認めてくれている。


「ま~アレだよ、めぐるのいない白井君は~……優柔不断なモヤシ?」

「……ひどい。確実にそうだと自分でも思いますけど」


 人を引き付けられることなんて絶対にない。

 芯が抜けた自分がどういう人間かは、自分が一番よくわかっている。


「ふふ、冗談だよ~。私は白井君の、いいところいっぱい知ってるつもり。なんか上から目線でごめんね? 私から言ってるのに」

「わざと言ってくれてるのはわかってますよ……本当に、今みたいにはなれなかっただろうなって思います」


 煌びやかな日々に酔うようなことも、仲間と心から笑い合うことも、


「……めぐるさんがいなかったら、何にもなかったんだと思います」


 巴先輩達と出会うことすらも、多分なかったんだと思う。


「ふふ、大袈裟かもだけど~、本当に人生変えてくれたんだね」

「全然大袈裟じゃないんです」

「めぐるも同じだよ」

「……そう、だと嬉しいです」

「ふふ、そうだよ~。だってそう言ってたから。その反応もおんなじ~」


 自画自賛するようだけど、本気でそう思ってくれてるんだと思う。

 自分と月無先輩は互いにそんな相手で、離れることも裏切ることも絶対にあり得ない。


「君のこと見てたらさ~、どんどん楽しくなって~……全部好きになっちゃった」


 まるで巴先輩にとっても、自分が変えた存在かのようにそう言った。

 ……いや、が、か。


「ふふ、だから少しくらい、君のせいにしていいかな」


 自分の……そう言った理由は、多分この状況が示している。


 でも、今の巴先輩があることが自分のせいなら、誰が歯止めをかけられただろうか。

 人のせいにしたくなる程の想いなら、その行き場をなくすようなことを、誰ができるだろうか。


「言うつもりなんて、本当になかったんだけどな~……どうしても言いたくなっちゃったんだ~」


 少しだけ寂しそうにそう言った。

 巴先輩自身、言ってはいけないことだと思っているからなんだろう。

 自分が迷うことがないとわかっていても、巴先輩自身が誰かを裏切るつもりなどないにしても。


「聞いてくれただけでも嬉しいんだ。本当に」


 そして自分が言葉を予想してしまっているんだと思う。

 笑顔を作り切れずに結んだ口元が、代償を受け入れる覚悟を物語っていた。


「……自分勝手だよね。ごめんね」


 ひどく胸が締め付けられる気がした。

 想いを伝えるだけ、自分は受け取るだけ、それだけで済めばよかったのにと思ってしまう。

 ……だけど、伝えてしまった以上、聞いてしまった以上、決着が必要なんだろう。


「ちょっとだけ……時間ください」

「……うん」


 何かに締め上げられる喉から、懇願するようにそう出た。


 自分が月無先輩に告白した時にもしダメだったら、辛いという言葉で足りただろうか。

 その喪失感から立ち直れるようなことはあるだろうか。

 また笑って過ごすことはできるのだろうか……思い出に色はついたままだろうか。


 嫌な動悸がする。

 その怖さから目を逸らしたくなる。 

 そんな想像もしたくないような状況に、巴先輩は立とうとしている。

 自己弁解や強がりにも聞こえる言葉を並べて、逃げ出したくなる気持ちを抑えて、それでも去らずに自分の言葉を待ってくれている。


 傷つくことを承知で伝える勇気なんて、自分には持てるだろうか。

 好きなものを好きと言っただけなのに、謝らなきゃいけないなんて、あんまりだ。


「……俺」


 言葉に詰まった。

 思考はぐちゃぐちゃで、「普通なら」だとか「そうするべき」だとか、心にもない不快な言葉が鬱陶しくちらつく。

 そんな考えから浮かぶ言葉は、偽ることと何が違うんだろう。

 誰も喜ばないよな……本当に誰も。

 何のためにつく嘘なんだろう。


「……あ」


 これ、ただそんなこと絶対に言うつもりがないだけじゃないか。

 ありもしない選択肢に、何を悩まされていたんだ。


「あの~……巴さん」

「……うん」


 何で客観視することに躍起になってたんだ。

 そうすれば自分を騙せるとでも思っていたのか、バカじゃないか本当に。

 どうしても伝えたくなる時もあるなんて、何で他人事のように考えていたんだ。


「……俺も言いたいこと言っていいですか」

「え……」


 今だけは、良いか悪いかじゃなくて、言いたいかどうかだけで言葉にしたい。

 何よりも言いたいことは、本当はとっくにわかっていた。

 

「……巴さんのこと好きです。先輩としてとかそういうのじゃなくて……巴さんとしてです」


 誰も裏切らないための言葉。

 しょうもない自制心が邪魔をしていた、自分自身の言葉。

 言わずに場をかわそうとしたら、一生後悔するに決まっていた。


「だから……言いたくないこと、言わなくてもいいですか」


 月無先輩と巴先輩の言葉や状況への甘えは、正直、根底にあると思う。

 普通なら間違ったことかもしれない。


「それは~……」

「いや……絶対言わないです。想像するのも嫌です」


 ……だったら俺は普通なんてどうでもいい。

 好きな人を好きって言って、何が悪いんだ。


「……そっか」

「そうです」

「普通呆れられちゃうよ」

「はい……それでもです」

「そっか~……すごく嬉しい」

「……めちゃくちゃ自分勝手ですよ」


 気持ちが傾いたわけではない。

 巴先輩の色々な覚悟を、蔑ろにする言葉かもしれない。

 でもそんな恥知らずな言葉にさえ、優しい声を向けてくれた。


「ふふ、自分勝手か~……だとしたら本気で嬉しいな」

「え……」

「だって、人のことばっか考えてる君が言うんだよ~?」


 巴先輩の言う通り、何よりも自分の気持ちを優先した言葉だった。


「私に気遣って言ってるとか、その場しのぎじゃないって、思っていいってことだよね」

「あ……そ、そうです」

「……ふふ、本当はライブの君の反応だけで、満足だったんだけどね」


 言葉にするまでも、本当はなかったのかもしれない。

 巴先輩の気持ちを自分がどう受け止めているかなんて、そして自分が巴先輩をどう思っているかなんて、あの場にいた人なら皆わかったと思う。

 でも、この先を考えれば、どんなものでさえ言葉が必要なんだったと思う。


「でもいいのかな~? 付き合いたいわけじゃないのは本当だけど~、ちゃんとフっておいておかないと、後悔することになるかもよ~?」

「……ハハ、させる気なんかないですよね」

「……そうだね~。ふふ、絶対にね」


 自分が自分らしく、そして巴先輩が巴先輩らしくある限り、きっと大丈夫だろう。


「ま、めぐるに愛想つかされたら~、私が相手してあげるよ~」

「絶対ないってことですね」

「そ~ゆ~こと~。ふふ、私が奏に愛想つかされた時はその時はよろしく~」

「ハハ、それこそ絶対ないじゃないですか」


 大好きだけど、絶対にない。 

 薄氷を踏むような関係に見えて、信頼という分厚い氷の上にいる。

 冬川先輩のことを強調したのも、自分にとっての月無先輩と同じような存在ひとであるということなんだろう。


「じゃぁこれからは、推しってことにしよ~」

「え……推し?」

「うん。ふふ、ちょっと特別な、私の推し~」


 推しか……でもその言葉ではっきりと納得できた気がする。

 付き合うとかじゃなく、ただ大好きなだけ。

 むしろ、恋に発展しないからこそ、遠慮なく好きでいられるのかもしれない。

 そんな想いを言葉に当てはめるなら、確かにそれが近いのかもしれない。


 自分達の関係の落としどころ……というか、だったら自分が先に口にしていたじゃないか。


「ハハ、それなら俺も推し、巴さんでした」

「……ふふ、知ってる~。聞いた時、ちょっと嬉しかった」


 ……知られていたか。

 

「最後まで、一緒に楽しもうね」

「はい」

 

 今も、そしてこれからも、自分と巴先輩の関係はこんな風に続いていくんだろう。

 互いに推し合って、何にも縛られない青春を謳歌して、部活が終わってもそうであるんだと思う。

 そしていつか、今日のこの出来事があって良かったと思う日が来る。


「ふふ、幸せにしてよね~」

「え……あ、はい。必ず」

「あはは、そこ即答できないの、白井君っぽいよね~」

「いや面食らいますって」


 誰よりも気ままで、誰よりも優しく、そして誰にも負けない程に強く、愛情深い。

 そんな巴先輩の見ている夢が、醒めることなく続いて欲しい。


「あ、ほら出てきたよ~太陽」

「お~、きれ……いだなぁ」

「……うわ。何か色々ダメ」

「……誘導ですよ今の」


 そう願った夜明けだった。


 ――


「さてさて~、じゃぁそろそろ……」

「あ、もう寝ないとですね。行きましょうか」

「ん~? まだもうちょっとだよ~ほら」

「……ん? ……あ」


 ベンチから腰を上げ、ホテルロビーをガラス越しに見ると


「ふふ、気持ち察してあげよう?」

「……はい」


 月無先輩の背中が見えた。

 どんな気持ちで待っているのかと思うと、早くそばに行ってあげたくなった。

 扉の音でこっちに気付き、振り向くところに声をかける。


「めぐるさん!」

「しら……お、おぉ、近!」

「あ、あぁすいません」


 勢いあまってほぼゼロ距離までぐっと詰めてしまった。

 距離を取ろうとしたら、手を握られてそれをやんわり阻止された。


「お話できた?」

「はい。……え~、なんと言ったらいいか。……ん、どういう感じなんだあれって」


 決着と言うには曖昧で、それでも月無先輩も自分も、巴先輩も納得のできるところに落ち着いたと思うけど……どう説明すればいいんだ。


 追いついてきて横に並んだ巴先輩に目を向けると、つーんとそっぽを向かれた。

 ……そりゃそうか。

 ここで自分がすべきなのは、自分自身の言葉で、月無先輩の気持ちを晴らしてあげることだ。


「俺の気持ちは何一つ変わっていません。……これから先も、絶対変わりません!」


 そう、何一つ。

 月無先輩への想いも、巴先輩への気持ちも、何一つ変わっていないし、変わらない。

 

「フフ、そっか! そうだよね!」


 いくら信じてくれていても、不安に思うところはあったと思う。

 言葉一つで払拭できたかはわからないけど、晴れ晴れとした笑顔を向けてくれた。


「……今のはちゅーするとこでしょ~」

「な、何をおっしゃっているのですかな。めぐるさんからも言ってやってくだ……」

「ちゅっ、ちゅっ!? ……ちゅー。ちゅう?」

「もういい! 戻れ!」

「あはは、どんだけ初心なんだ君達~」


 恥ずかしさのあまり月無先輩が混乱状態に陥ってしまった。

 ……でも、やっぱり、巴先輩は自分達のことを見ることが何より幸せなことなんだろう。

 それでいいんだという微笑みが、その何よりの証左だった。


「ま、まぁあたし達のことなんかよりもですよ! あたし、しょ~じき! ……ちょっと心配してました」

「あはは、めぐるが白井君任せにしよ~って言ったのに~」

「ちょっと何ですかその微妙に聞き捨てならないお話」

「ふふ、女同士の秘密の話さ~。ね~」

「ねー」

「……はぁ」


 裏でどんな話をしていたかは気になるが、顔を合わせて少女のように笑う二人に、自分も自然と笑みがこぼれた。


「ふふ、ありがとう、心配してくれて。嬉しいことしかなかったよ」

「……フフ! よかったです!」


 ……そうか、自分は多分、人の笑顔が好きなんだ。

 悲しませたくないとか、それ以上に、ただ単純に笑っていて欲しいだけなんだ。

 巴先輩に返した言葉も、そうあってほしいって気持ちが根底にあったんだと思う。


「……白井君って、意外と甲斐性あるんですかね?」

「……何を言い始めるのかこの人は」

「あはは、そういうのはないと思うよ~」

「そしてちょっとひどい」


 男らしさとかそういうのはないと思うけども……!

 

「でもそんなのなくても~、めぐるのこと大好きな白井君は、本当に素敵だからさ~」

「え……」

「ふふ、いつまでもそのままでいてね~」

「あ……はい!」


 巴先輩の言いたいことが全て詰まったような言葉だった。

 どんなことがあっても、そうあり続けることが、自分にとって……白井健にとって一番大切なことなんだと。

 きっとこの先ずっと、新しい思い出が増えるたび、皆の笑顔に出会うたび、この言葉に感謝するんだと思う。


「フフ、よかったぁ~……でも、巴さんも白井君も、悩み過ぎだったんですよ!」

「ふふ、そうだったかも」

「ま、まぁそこは察してくださいよ」


 自分がもし誤っていたら……いや、自分の選んだものが正しいかは今でもわからない。

 でも、それが間違いだったとも思わなかった。

 心のままに発した言葉じゃなかったら、こうして心から笑える時間は訪れなかっただろうから。


「……はぁ」

「珍しいですね。溜め息」

「ふふ、なんか安心しちゃったらさ~」


 心から安堵したように、巴先輩はそう言った。

 巴先輩は悩んでいたんだと思う。

 自分には月無先輩がいる。

 巴先輩にだって冬川先輩がいて、それぞれ一番大切なものを持ってる。

 そんな中で生まれた想いだから、一人でけじめを付けようとしていたんだと思う。

 ……いや、失礼かもしれないけど、どうすればいいかわからなくて大人のフリをしていたのかもしれない。


「ふふ、やっぱり大好きだなぁ」


 巴先輩だけが傷ついて終わる、そんなことにならなくて本当によかった。

 自分達の思い出は、いつまでもずっと最高の笑顔で満ちていてほしい。

 そんな笑顔が好きになったのだから。






 隠しトラック

 いつまでもヒモのままで    ~三年女子部屋にて~


「……あれ、二人とも起きてたの~? ただいま~」

「おかえり。奏が心配で寝れないみたいだったよー」

「そういうわけじゃ……」

「あはは、そういうわけか~」

「もう……まぁ慰めてあげようくらいにはね」

「ふふ、ありがと~。でも奏の平たい胸に出番はなかっ」

「おやすみ」

「ごめんって~」

「アハハ、でも大丈夫そうだね」

「うん。心配させてごめんね二人とも」

「……聞いていい感じなの?」

「めっちゃ気にするじゃん奏」

「そ、それは気になるわよ」

「あはは、奏は本当に私のこと大好きだな~。浮気する気はないから安心してよ~」

「そういうことじゃなくって」

「よかったね奏」

「私のことじゃなくって」


「ふふ、でもそうだな~。嬉しいことしかなかったよ」

「そう。ならよかったじゃない」

「うん。よかった。……のかな~って思うとこもあるけどね~」

「いいんじゃない? 二股かけるとか、そういうわけじゃないんでしょ?」

「あはは、そりゃそうだよ~。付き合いたいとかじゃないし~」

「……私よくわからないんだけど、付き合いたいとは別なの?」

「う~ん、難しいとこだな~」

「私はなんとなくわかるけどね」

「希はわかるの?」

「アレっしょ、白井だけが好きなわけじゃないでしょ、巴の場合」

「お~、よくわかったね~。大体そういうこと~」

「……どういうこと?」

「乙女心がわからないな~奏は~」

「一応私も乙女なんだけど」

「ある意味では奏が一番乙女だと皆思ってると思う」

「ちょっとそれどういうこと」

「じゃ~乙女の奏に説明すると~」

「何かイヤなんだけどそれ」


「万が一付き合うってなったら、二股はあり得ないでしょ~」

「うん」

「そしたら白井君からめぐる分がなくなるでしょ~」

「めぐる分」

「それってもう白井君じゃないよ~」

「何となくわかるけど、それはちょっと可哀想じゃないかしら」

「アハハ、でも確かに、白井のいいとこって大体めぐる由来だよね」

「ふふ。それにさ~、揺らいじゃうような人だったら最初から好きになってないって~」

「まぁ巴はそうよね」

「白井もめぐる裏切るくらいだったら腹切って死ぬって言ってたからねぇ」

「……白井君って結構重いわよね」

「いやめぐるも結構重いよあれ~」

「アハハ、そんだけ二人とも本気ってことだと思うけど」

「あ、でもさっきもさ~。私と話終わって~、ロビーで待ってるめぐる見るなりダッシュしてってさ~」

「フフ、白井君らしいじゃない」

「ね、面白いくらいわかりやすくってさ~。なんか頭の中でエンディング曲流れ始めちゃったよ~」

「アハハ、あるある。ドラマとかの最後ね」

「ちなみに何流れたの?」

『Get Wild』

「「ブフッ」」


「ま、そんな感じで~、ちょ~っと色々あったけど~、白井君は推しってことで落ち着いた~」

「アハハ、推しね。まぁ応援したくなるよねあの子達って」

「でしょ~? だから浮気じゃないって信じて~。私の嫁は奏だからさ~」

「めっちゃクズっぽい」

「はいはい。最初からそんな風には思ってないわよ」

「私を養っていいのは奏だけ~」

「……働きなさいよ」

「アハハ、ヒモ宣言」

「奏に養ってもらって~……そんで推し活する~」

「ガチのクズじゃない」

「奏の方が嫁っていうのがよりポイント高いね」

「でも奏ってさ~、それでも好きだからとか言いそう~」

「ちょっと、そんな風に見えてるの私」

「「えっ」」

「えっ……割とショックなんだけど」

「まぁまぁ、だから悪いのに捕まらないよ~私が監視してるってことさ~」

「はいはい、ありがと」

「巴がダラダラしないよう監視してるつもりだったのにね」

「奏が私を監視する時~、奏もまた監視されてるってこと~」

「ハァ、もう一生こんな感じな気がする」

「私はそれでもいいよ~」

「……もう結婚すればいいじゃん」

「あはは、本当に嫁に来るか~」

「だから何で私が嫁の方なのよ」


 やっぱり結婚自体は否定しない。




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