決意の夜

九月中旬 合宿五日目 夜


 後半練習の時間は巴バンドの合宿最後の練習。

 ヤッシー児童相談所と練習時間が被っているため、協議の結果、ホーン隊が合流するまでは自由時間となった。

 休憩やら風呂やらに行った先輩達を見送り、自分はAスタジオで最終調整を行うことにした。


 音色の確認、曲を通して弾く練習、テンポキープと、個人で出来ることをやり、ふと手を止める。

 なんというか、やれることはやりきった気がする。

 ゲーム音楽バンドの練習の時もそうだったけど、あとはメンタルの問題だ。

 弾く練習を続けることは無限に出来るが……なんとなく、息抜きのようにピアノに触れたくなった。

 そしてなんとなくこうなる気がして、用意していたとあるもの……。


「じゃ~ん。めぐるノート~……の写し」


 出会って間もない頃の懐かしい思い出だ。

 月無先輩のゲーム音楽に対する熱意を思い知った出来事でもある。

 好きな曲の譜面を何曲かコピーさせてもらったけど、部活の曲練習で手一杯だったのであんまり見ている余裕がなかった。

 自分にとっては宝物のようなもので、常に鞄に入れて持ち歩いてはいたのだが。


「『209番道路』懐かしいなぁ」


 コード弾きの練習用と言われて、ポケモンのこの曲を弾いてもらった。

 何を弾こうか……折角だからポケモンの曲にしよう。

 譜面のコピー束を一枚ずつめくり、これだ、と思う曲を見つける。


「『10番道路』! これほんと好きだったなぁ」


 ポケットモンスターブラック・ホワイトの『10番道路』。

 ラストステージに向かう直前の、旅の全てが詰まった名曲だ。


「四天王に臨む決意だとか……。はは、解説は今度月無先輩にしてもらおう。ほんと似てきたな師匠に」


 パッと見でコードもそこまで難しくないし、曲もしっかり頭に残っている。

 初見は苦手だが、コード弾きならすぐに弾けそうだ。

 

「……いいなぁこれ」


 右手はたかだが三和音に、左手は簡素なアルペジオ。

 いわゆる伴奏のようなものだが、美しい響きの流れに酔うには十分だ。

 月無先輩ならメロディも弾きつつ和音も足す技量があるけど、今の自分にはこれが限界。

 でも、弾けていると思うくらいに上達しているし、何よりよくわかるのが、


「こりゃ楽しいわけだ」


 自分の大好きな曲を、自分の手で自由に弾く。

 ただそれだけのことが、どれだけ楽しいかがよくわかる。

 どっぷり浸かるには十分すぎる。

 月無先輩がどんな気持ちでこれを採譜して弾いていたかなんて思うと、なんだか笑みがこぼれてしまう。

 はたから見たらニヤけ面でピアノ弾いてる変なヤツにしか……


「……あ」


 ……見られていた。傍から。

 スタジオの大きな覗き窓、そこには冬川先輩と巴先輩……湯上り。

 とりつくろうまでもなく、巴先輩はニヤりと笑う。

 見られていたとは迂闊……そしてドアが開かれると……


「……見ちゃった」

「……だから何でしょう」

「お~?」


 フッ、こちらも慣れましたからね。大人の対応です。

 何をですか、と言わないことでイジりの種を潰すのだ。


「何かいい顔して弾いてるねって、奏が~」

「……だ、だから何でしょう」

「あはは照れてる~」

「フフ、あんまりイジメないの」


 ……もう何やっても後出しで絶対狩られるじゃん。

 そんないつもの冗談もさておきと、巴先輩が譜面台に立てたものに興味を示す。


「何弾いてたの~? ……10番道路? どーろ?」

「あ、ポケモンの曲で。ポケモンって道路毎に曲変わるんですよ。ちなみにこれはめぐるさんが採譜したヤツですよ」

「へ~……あ、めぐるノート~だ」


 二人とも原本を見たことがある様子だった、

 ちょっと弾いてみてと言われたので、コード弾きですよと言ってそれを弾くと、


「らーらーらららーらららー」


 ……歌い始めるので驚いて手を止めてしまった。


「あれ、違ってた~?」

「い、いや、合ってます……ってかすぐ読めるんですね」


 読譜能力に驚いたのもそうだが……お互い楽譜が見える至近距離で美声を発せられると……もう困ったものである。

 湯上り特有の謎の色気まで付加されてるもんだから……困ったものである。

 あとジャージパツンパツンで閉めてる方がむしろアレである。


「あはは、びっくりしたかごめんごめん。じゃこっちにしよ」


 そう言って巴先輩はスタジオ脇に置いてあった月無先輩の鍵盤ハーモニカを持ち出した。

 なんとなしに始まった伴奏とメロディのセッションは、巴先輩が上手いこともあってすぐに形になった。

 哀愁漂うメロディが鍵盤ハーモニカで奏でられると、伴奏だけの演奏を完成させてくれたようで、なんとも言えない嬉しさがあった。

 ループ地点までたどりついて、曲を弾く手が止まると、巴先輩はふふーと笑顔を向けてくれた。


「めっちゃいい曲だねこれ~。ね~奏~?」

「フフ、いい曲だよね。確かめぐるが前に弾いてたよ」

「あれ、そうなんだ」


 氷上先輩とのフュージョンバンドの休憩中に弾いていたとのこと。

 児相のほうでも休憩中はBGM係として色んな曲を弾いているらしいし、この曲がどこかで弾かれていてもおかしくはない。

 本来はおしゃべりに埋没するBGMではあれ、冬川先輩はいつもしっかり聴いてあげているそうで、弾いていた曲は印象に残っているものを多いそうだ。

 そんな話題が膨らんで話していると、次は土橋先輩と氷上先輩がやってきた。


「あ、土橋とヒカミンもこの曲知ってるのかな~? 練習始めるまで皆でやろうぜ~」


 巴先輩の提案で、サンプルの為と原曲を流す。


「あぁこれか。ブラックホワイトのヤツだっけか。結構好きだな」


 土橋先輩は元から知っている模様。

 そういえばポケモンの曲好きだって以前に言っていたし、ブラックホワイトをやった人ならかなり印象に残る名曲だろう。

 

「忘れ物をした、取ってくる」

「お~? 早く戻ってきてね~」


 氷上先輩がそう言ってスタジオを後にする。

 いつも準備万端な氷上先輩にしては珍しい。

 そして自分と巴先輩、そして土橋先輩と三人で適当に合わせてみる。

 リズムセクションが追加されるだけでものすごく印象が変わるし、完成形に近づいたようで内心ではテンション爆上がりだ。

 

「奏もやろ~ぜ~」

「フフ、じゃぁメロディ代わりばんこでやろっか」


 巴先輩に呼ばれ、冬川先輩も自分に寄って譜面を覗く。


「ふふー白井君、両手に花だね」


 ……花も美しすぎると緊張するだけと分かってほしいのだが。

 しかし譜面を見ながらになるので致し方ない、そう思っていたところに氷上先輩が戻ってきた。

 ……アコギ持ってきてる……あと平静装いながらめっちゃ肩で息してる。


「あはは、体力ないのに走って取って来たんだ~! どんだけ白井君とセッションしたかったんだよ~」

「……そ、そういう……わけではない」


 息も切れぎれながら貫くツンデレスタイルはむしろ男前である。

 どんだけいい人なんだこの人。


「スケールは……E♭か」


 イントロをアコギに任せ、五小節目に一斉に他パートが飛び込むと、こみ上げるものがあった。

 それは曲に少し物悲しさがあるからかもしれないし、鍵盤ハーモニカの音色に誘われたからかもしれない。

 なんとなく、ゲームをプレイして聴いていた時よりものめり込めた気がした。


 ひょんなきっかけで始まったセッションなのに、これほど貴重な体験があるものかと思う。

 巴先輩が興味を示してくれたこと、土橋先輩が元々ポケモンの曲を好きなこと、氷上先輩が後輩大好きツンデレ兄さんなこと、冬川先輩を巴先輩が誘ってくれたこと。

 大袈裟だけど、ただそんな流れがあったという以上に、小さな奇跡の積み重ねがあったように感じる。

 『10番道路』が最後の戦いに臨む直前のステージだからか、そんな想いが頭に浮かんだ。

 ゲーム音楽は感情の増幅装置だって月無先輩が言っていたけど、自分が演奏する中でそれを体感できたのは本当に嬉しかった。


 ……あ。

 慣れてアドリブ祭りになってきた頃、スタジオの覗き窓に目をやると……目を輝かせる月無先輩。

 児相の練習が終わったようだ。

 手招きすると入ってくるなりこっちにダッシュ。

 何も言わないが嬉しそうな笑顔を咲かせているので、弾きますかとジェスチャーすると、慈しむような目をしながら首を横に振った。

 どんな気持ちで聴いているのだろうか。

 ひょっとしたら「あたしを差し置いて!」なんて思うかもしれないけど、浮かべる笑みには清々しさがあった。


「あはは、終わり方てきと~」


 キメも特になく、ちょっとグダっと演奏が終わると、巴先輩がそう笑った。


「はい」


 月無先輩挙手。


「はい、月無君」

「巴さん、状況の説明を望みます!」


 何故セッションしていたかが気になったようなので事情を説明すると、すごく羨ましそうにした。


「でも聴けて嬉しいのが一番です!」

「あはは、サプライズプレゼントになっちゃったね~」

「俺なら嫉妬するがな、他の奴がアニソンやっていたら」

「フフ、いいんです! ゲーム音楽は聴くものですから!」


 これも月無先輩にとっては大切なゲーム音楽体験なんだろう。

 演奏することも、聴くことも、どちらも「ゲーム音楽する」ということだ。


「しかし白井君、あたしに勝つと言った矢先のこの曲……挑戦状と受け取っても?」

「……いやそんな気全くなかったですが」


 確かにラスボスに当たる四天王とチャンピオンに挑む前の曲ですが。

 何言ってんだこの子という巴先輩たちに軽く曲の説明をすると、なるほどと納得した。

 納得されても困るのだが。


「『10番道路』と言えばブラックホワイトの冒険のクライマックス! 苦楽を共にした仲間と歩んできた道のり、そのすべてが詰まったかのような名曲!」


 おぉ、大体自分と同意見ということは少しは理解度も追いついたような気がする。


「郷愁を誘うような少し物悲しいメロディラインに、ドラマティックな決意を感じさせる力強い曲進行! ここまで来た……ここを進めばもう後戻りはできない……旅の終わりを予感させる締めくくりの一曲でございます」

「お~……なんか納得~」


 大仰な解説ではあるが的は射ていて、同じゲーム体験をした人ならわかるかもしれない。

 しかし本当に楽しそうに話すので、先輩方は慈しむように月無先輩の言葉に耳を傾けた。

 ちなみに巴先輩は暴走状態のことを知っている上に、止めた実績もあるからか、いつでも阻止できるように月無先輩に距離を詰めていた。

 

「あ、吹先輩達も来ましたね。それではあたしはここらで……明日の本番、あたしこのバンドほんっとーに楽しみにしてます!」

「ふっふー、楽しみにしてるといいよ~。いい仕上がりだから~」

「フフ、負けませんよ!」


 順位を競うライバルでありながらも、互いのバンドが楽しみで仕方がない。

 月無先輩は巴バンドにそんな言葉をかけて、Aスタジオを後にした。


 ラスボスに挑む前の曲であるのに、ラスボスが一番喜んでしまうということになったが、自分だけでなく皆が嬉しい体験になったのは間違いないだろう。

 大切な仲間と積み上げてきた時間、明日のライブを直前に控えて、それを噛みしめた。

 遅れて合流したホーン隊の面々が羨ましがった(特に秋風先輩)けど、より強い団結は巴バンドの最後の練習をより一層濃密なものにした。


 ちなみに正景先輩は仮眠を取っていたそうで最後に合流した。

 出来事を話すと曲を知っていたそうだったが、肝心な時に居合わせないのは最早特殊能力である。

 いつか正景先輩とも楽しい思い出を共有する出来事があればいいのだが……。


 ――


 巴バンドの夏合宿最後の練習が終わり、皆で揃ってホテルのロビーへ向かう。

 準備の全てが終って、決起集会だ。

 夏合宿ライブは軽音学部でも一番大切なライブであることは間違いないし、仲間と過ごした長い時間を噛みしめつつ、それに対する想いを再確認する。

 一位を取りたいと言った巴先輩と、必ずそうすると決めた面々。

 当初はただ楽しみたいと言っていたけど、いつしか強くなった巴先輩の気持ちと決意に心を打たれた。

 掛け持ちの人達も両方のバンドに全力ではあれ、このバンドに掛ける想いは同じだろう。


「というわけで一致団結できるようなのを考えよ~」


 それに、重要な話も残っている。 


「ネタ系にします?」

「かな~。スーはなんかある~?」

「……私そういうの考えるの苦手です」


 そう、机の上に置いたPAシート(演奏の段取りやステージ上の楽器配置を書く紙)のバンド名欄は、未だ空欄である。

 とはいえネーミングセンスは自分にはないし、命名のタネになるような事件もない。

 ヤッシー児童相談所のような奇跡的にドハマりしたバンド名など早々浮かぶものではない。


「メガネバンドじゃないのか」

「え、いや私はそれでもいいけどそれ仮称じゃん~」


 ……多分土橋先輩は考える気ゼロだな。

 皆頭を悩ませ……てもいないな。割と他力本願である。

 荷が重い気もするし、単純に浮かばないから何も言えないなど、それぞれあるだろう。

 夏井だけは何か考えてぶつぶつと言って……いやメガネしか言ってねぇな。


「巴先輩のバンドですしメガネ関連でいいんじゃないでしょうか」


 そう提案してみると、「まぁそうなるよね」感に包まれる。


「それじゃぁこの際この方向性でちゃんと考えましょう……もうそれ以外皆浮かばないでしょう」

「それな~」


 冬川先輩が仕切り、色々とメガネに関する案を模索する。

 メガネ……グラッシーズ……こういうのは何かネタっぽい方がいいよなぁ。


「すぺくたくるずは~? バンド名っぽくない~? 英語にしただけだけど~」

「なるほど~……アリかも! さすが吹~」


 悪くない……メガネだけじゃなくて見世物とか美しい光景とかそういう意味もあるし、美人どころが揃ったこのバンドにはぴったりな気もする。


「でもそれだけだとインパクト足りないんじゃないかしら。あとなんか……芸人ぽい」

「それすっごいわかる~」

「あら~」


 三女始動で話が進んでいき、もう一押しといった空気に。

 もう一押し……巴先輩のバンドだし……


「自分の名前入るの嫌だったら申し訳ないんですけど……巴すぺくたくるずはどうでしょう。メガネの巴さんのショータイムですし、ダブルミーニングでかけて」

「あはは、メガネだけにって~?」


 今度は売れないピン芸人っぽい気もしたが、巴先輩のみならず三女の同意は得られた。


「巴すぺくたくるず……すっごい語呂いいですね……!」

「私もそれがいいと思います」


 夏井と春原先輩も乗ってきてくれて、男子勢も静かに頷き、巴バンドのバンド名は『巴すぺくたくるず』に決まった。

 巴先輩は何故かかなり気に入ったらしく、PAシートのバンド名欄に、嬉しそうにその名前を書き込んだ。


「あ、星いれましょうよ、間に」

「お、いいねいいね~。……あはは、私めっちゃ目立ちたがりみたい~」


 巴先輩の唯一のバンドなんだし、目立てるだけ目立ってほしい、そんな意味も込めてふざけてみると、思いの外しっくりきたのか皆気に入ってくれたようだった。

 PAシートに書き込むものが全て埋まると、巴先輩は何も言わずにそれを眺めた。

 その慈愛に満ちた表情からは、巴先輩がどれだけこのバンドを愛しているかが察せられた。


 解散し、部屋に戻る途中。

 同じ方向の夏井と春原先輩、そして正景先輩と話していると、セッションの話題になった。


「そういうのが出来るようになると楽しいよなぁ。何で俺は寝てたんだ……」

「はは……俺もあんなことになるとは思いませんでしたし……」


 意外にも参加したかったようで、少し項垂れる正景先輩。


「白井もよくできるよなすぐに。俺コピるの時間かかるからいきなり合わせるなんて無理だ」

「いやぁまだまだ全然ですけど。……それにめぐるさんなら一瞬で完璧ですし……何より全部一人で出来ますし」


 自分ひとりで楽しめる境地にはまだまだ至らない、正直言って羨ましい。


「めぐる先輩なんでも一人でできちゃいますもんね」

「その気になれば鍵盤で打ち込んで全パート録音できるからねぇ……」


 夏井も同じように、そのスペックの高さに脱帽している。


「いいんじゃないの? それって差じゃないと思うよ」

「……? どういうことでしょう」


 春原先輩の言葉を即座に理解することができず聞き返す。


「めぐるちゃんは一人でもなんでも出来ちゃうけど……白井君は周りと一緒に完成させる? そんな感じ。いい影響与えてると思うよ」

「あ~、なんかわかる。そんな感じするね白井」

「ね」


 ……多分褒めてくれてるんだけど難しい。


「多分鍵盤がめぐるちゃんだったら巴さん一位取りたいとか言わなかったよ」

「あ~……でもそれって思わなくても取れるってことにも」

「そうだけど……そうじゃない? ね、正景君」

「投げたな春原……まぁ言葉にしづらいな……わかるけど」

「はぁ……」

 

 自分が影響を与えたなんて烏滸がましい考えな気がする……でも、巴先輩がこのバンドだからこそと思ったのは確かなんだろう。


「要するに……そう……一位取ろうってことだよ」


 合宿五日目の夜。

 『巴☆すぺくたくるず』最後の練習。

 全員で一致団結した後は、後輩ズでまた決意を固めた。

 三年生としてか、バンドマスターとしてか、それとも巴先輩個人としてか、いずれにせよその気持ちには応えなければならないと、改めて後輩一同そう思った。

 義務感や義理ではなく、巴先輩がさっき見せた表情が、自然とそういう気にさせたのだ。

 特に自分にはここまで引っ張ってもらった返しきれない恩もある。こっちだって後輩冥利に尽きる。

 最高のバンドに違いない、ライブ本番はまだだというのに、そう確信できた夜だった。

 






 隠しトラック

 ――奏☆すぺくたくるず ~合宿場、廊下にて~


 後輩ズ(春原、正景、夏井、白井)雑談中


「なんかバンド名丸く収まったね。白井君ぐっじょぶ」

「はは、半分冗談だったんですけどね。気に入ってもらえてよかったです」

「個人的には冬川さんがメガネの方向性を肯定したのが意外だった」

「ね、私もそれ思った」

「え、何でですか?」

「俺も気になります……あ、でも前に皆でメガネかけよ~って案を速攻拒否ってましたね」

「うん。前々からそうだよ」

「メガネかけさせようとして失敗した話とかよくしてるよな」

「あ、いつものことだったんですね……何で?」

「気になります……!」

「……ちなみに諸説ある」

「諸説あんのか……男子勢縁ないから知らんかったわ」


「まずは巴さんを甘やかさないっていう考えが若干ズレてる説」

「「「……なんかわかる」」」

「ちなみにこれはめぐるちゃんが提唱した。何でも言う通りにしてると他までなぁなぁになるから拒否れるところは拒否るんだって」

「なるほど……その拒否しても問題ない部分というのがメガネと」

「何か納得です……! めぐる先輩すごい」

「でも思うんだけど……普段割と甘いから無駄な抵抗だよな」

「正景君いいとこに気づいた……そのズレてるのがカナ先輩の可愛いところ」

「「「……なるほど」」」

「本人しつけてるつもりでもしつけに失敗してるっていう感じ」

「あ~……巴さんって猫みたいな人ですしね」

「「「わかる」」」


「次は藍ちゃんが提唱した……これはいいや」

「いやめっちゃ気になりますから」

「絶対どうでもいいんだけどすっげぇ気になるなそれ」

「私もです!」

「そう? じゃぁ……メガネが絡んだ犯罪に巻き込まれてトラウマを負った説」

「やっぱあいつサイコだな」

「っていうか……」

「……巴さんメガネじゃないです?」

「うん、二行で論破された」

「思った以上にどうでもよかった」

「だからいいやって言ったのに」


「で、吹先輩が提唱したのがあるんだけど」

「「「信用できそう」」」

「巴さんのメガネが一番可愛いから他人のメガネを認めない説」

「秋風さん結構ぶっ飛んだ発想すんな」

「……でもネタ感すごいのに何故かリアルに感じますね」

「メガネは巴さんだけで十分ってことです?」

「そう。巴さんにだけ許されたアイデンティティ? みたいに考えてる説」

「わからなくもない……」

「意外と冗談とも言えなくて、カナ先輩、メガネが嫌いなわけじゃないし、巴さんメガネ似合って可愛いっていうのは同意する」

「あぁ……メガネ選んであげたりしたそうですしね」

「うん。服も選んでるし、カナ先輩ってどう見ても巴さんのこと一番可愛いって思ってるからね」

「はぇぇ……私、なんかカナ先輩可愛く見えてきました」

「つまりえーと……言っちゃなんだが……独占欲みたいなもん?」

「……言いづらいけど、言い換えればそうなる……かも」

「「……なるほど」」


「しかし冬川さんって中身乙女だよな」

「今更だよそれ。私はカナ先輩が実は一番中身可愛いと思ってる。ちょっとズレてるとことか」

「俺もそれは思ってました……中身可愛い系お姉さんですよね」

「正直イジられるの無理がない気がしてきました……!」

「ふふ、巴さんもそれが可愛くてイジるんだろうね」

「はは、一年にも完全に見抜かれてんじゃん」

「もうクールキャラ貫くの無理ってとっくにバレてますよね……」

「うん……でも本人まだ頑張るつもりだから」

「……そうなんか」

「なんというか……」

「……私達でフォローしましょう」


 後輩一同決意の瞬間






*作中で紹介した曲は曲名とゲームタイトルを記載します。


『10番道路』――ポケットモンスターブラック・ホワイト

 スマブラのアレンジバージョンもあります。

 なんとこちらは下村陽子氏によるラテン音楽調アレンジ。いわずもがな最高です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る