覚醒
合宿三日目 深夜
24時を回り、Bスタジオへと小沢と一緒に赴く。
そう、ついに来てしまったのである。
先輩方に交じってゲームをする機会が。
楽しみな半面、不安も微妙にある。
入部して半年たつが、この部活はバンドが違う人は交流すらないことも多い。
小心者の自分としては、今までほぼ絡みのない先輩方もいる中となれば、緊張もしてしまう。
ゲームという素晴らしいツールが、それを払拭してくれることに期待しよう。
「お疲れ様です~。あ、細野先輩、wii持ってきましたけど……」
「おぉ白井、お疲れ。ありがとな。おーいwii来たぞwii」
Bスタに入って月無先輩から借りたwiiを見せると、すでに集まっていた先輩方から感謝の声が集まった。
なんとなくイニシアチブが取れた気がして少し気が楽に。
機器に接続しながら面々を見渡すと、部長に川添、そして昨日少し話した
恐らくゲームはやらない、土橋先輩と氷上先輩もいる。
「XとDXどっちがいいー?」
「「エーックス!!」」
細野先輩が要望を聞くと、手でXを掲げ、謎に統率が取れた動きで答えが返ってくる。ノリの良さに思わず笑ってしまう。
接続を負え、いざスクリーンにゲーム画面が映ると、少し高揚を覚えた。
大画面でゲーム、ゲーマーなら一度は憧れる光景だ。
「おっしゃ、じゃぁちょっとやろうぜ」
細野先輩が号令をかけ、スクリーンの前にみんなが集まる。
自分も、と腰かけようとすると、部長から声がかかる。
「あ、白井観客呼んで来てくれよ。一応大会って体だし。お前が一番女子勢集めやすいし」
「え……わかりました」
「その方が皆もテンション上がんべ」
それもそうか、と指令を承った。
自分としては始める前に少しでも戦力の把握をしておきたかったが、まぁ観客もいた方が楽しいだろう。
そしてスタジオから出て、まずは月無先輩に電話をかけてみるも……出ない。
割と困り果てる。
他の人には、部の用事以外で自分から連絡したことはほとんどない。
そのせいもあって誰に声をかければいいのかわからん……基本的にはコミュ障寄りの人間である。
しかし無為に時間がたつばかり。
……閃いた、キタコレ。
バンドのグループL〇NEに送ればいいんだ。天才だわ。
白井健『Bスタジオでゲーム大会やるんですけど、観客集めろとヒビキさんに言われました。お暇な方見に来ませんか?』
少々固いがこれでよし……あとは誰か返事を……お、既読ついた。
……誰も返してくれない。辛い。
地下ということも相まってスタジオ内は電波も悪いし、廊下でただただ返事を待つだけの時間である。
……お。
春原楓『もう寝る』
……12時には絶対寝るってマジだったんだな。
夏井咲『私も寝ます~』
……だよね。
秋風吹『頑張ってね~』
……おやすみなさい皆さん。
就寝の邪魔は出来ないので、謝りを一言入れてこの話は終わりだ。
作戦失敗である……困った。
個人に送るのもなんだしなぁ……お。
御門巴『寝てた~』
おはようございます。
……ってこれグループじゃなくて個人メッセージだな。
起こさないよう気を遣ったのか。
数分待っていると、巴先輩だけでなく同室の八代先輩と冬川先輩も連れてきてくれて、集客は無事成功した。
月無先輩も合流し、課せられた任務は全うした。
ちなみに、月無先輩は電話が鳴っていたことに気づかなかったらしい。
そろそろかなと思って携帯を見たら、着信に気づいて慌てて走ってきたとのこと。
たかがゲーム大会、とはいえ月無先輩は一つの大事なイベントと思ってくれていたようで嬉しかった。
女子勢も中に招き、いよいよスマブラ大会開催。
部長の思い付きにより実況・月無、解説・氷上という謎のトーナメントの幕が下ろされる。
――
「さぁいよいよ始まりました。第一回戦の対戦カードは……細野さんVS川添君! 同バンドの先輩後輩対決です!」
……月無先輩マイクを握ってめっちゃノリノリである。
ちなみに話を振られた時から、こういうのやってみたかったとご満悦だった。
「見どころは川添君が先輩を立てるのか、それとも遠慮なくカマすか、というところでしょう。解説のヒカミンはどう思いますか?」
「お前がまず先輩を立てろ」
意外と息があっている。
しかし氷上先輩は月無先輩と清田先輩の無礼には慣れっこだし、むしろ様式美みたいなところがある。
そんな感じで第一戦スタート。
対戦中は邪魔にならないよう控え目な実況で、皆画面に集中する。
細野先輩はゲーマーとのことだし、実力差があると思われたが中々にいい勝負。
一戦目から白熱した試合展開に、場内の展開に一同が一喜一憂する。
「さぁ決まるか! 決まりました! 最後はダッシュ上スマを見事に決めた細野先輩のピカチュウの勝利です! さ~皆さん惜しみない拍手を」
実況の月無先輩もいい感じに盛り上げ、第一戦は細野先輩の勝利で幕を閉じた。
第二戦は岸田先輩VS数合わせで結局強制参加の小沢。
小沢は先程すでに戦意喪失する出来事があったが、それなりに善戦し、五分五分の展開のまま終盤を迎えた。
「さぁお互い一撃必殺の%……」
月無先輩の実況も静かにその戦況を見守る。
多分スマブラを全くやったこともないのに「わからなくなってきたわね」みたいな仕草をしている冬川先輩が妙に面白い。
「あぁっと!」
……キャプテンファルコンを操る小沢の自滅で幕を閉じる。
結構いいところまでいっていただけにこれは悔しそうだ。
しかし小沢の最後の様子を見るに、巨大なスクリーンでタイマンの緊張感はすごそうだ。
「両者互角の本当にいい戦いでしたが……最後は悔しい、焦りが出てしまいました小沢君。本当にあと一撃でした。ヒカミンは今の一戦、どう思われますか?」
「……最後はライブ経験の差が出たな」
ゲームはわからない解説のヒカミンが微妙にそれっぽいことを言う。
「二戦続けて見ごたえのある戦いが続いています! 次の対戦カードは……飛井VSヒビキさん! さぁ部長の威厳は見せられるのでしょうか!」
そしてテンポよく、第三戦は飛井先輩と部長。
部長を応援するところだが……飛井先輩とはほとんどコミュニケーションをとったことがないわりに、関係が微妙なので対戦して仲良くなりたい気もする。
そんなこんなで対戦がスタート……
部長の操るドンキーコングは猛然と相手に向かっていき……
「おぉっといきなりの猛攻です! ヒビキコングは後輩に容赦ない! 殺意を感じます!」
開幕の猛攻から見事なメテオ(下に叩き落す攻撃。受け身取れないと死ぬ)で、飛井先輩が出オチを喫する形に。
結局いきなりのアドバンテージを覆すことは叶わず、部長の圧勝で幕を閉じた。
「第二戦からエラいものを見た気がしました。何があそこまでの殺意を呼び起こしたのでしょうか。ヒカミンは今の試合どう思われます?」
「……飛井グラフェスの準備サボったからな」
「なるほど、この場を借りてその制裁と」
事情があった模様。
笑いも起き、会場も全員でこのイベントを楽しむ空気に。
「続いて……土橋先輩VS白井君! またまた同バンドの先輩後輩対決です」
いよいよ自分の番である。
「今大会における唯一の国際試合となりますが……ヒカミン、この勝負の見どころはどこになると思われますか?」
「そうだな……ブラジリアンな立ち回りに白井がどこまで対応できるかだな」
「ブフッ。なるほど……フフッ……クッ。な、南米特有のアレですね……フフッ」
マジ怖いもの知らずだな月無先輩。
「白井、本気で来い」
「え、あ……行きます」
またしてもノリについていけなかった……。
そして始まる第一ラウンド最終戦。
自分は定番の剣士キャラ、マルス、土橋先輩はオーソドックスなマリオ。
……まずは様子見から入ろう。
「この牽制のファイヤーボールをいかに捌くかが勝利のカギとなりそうです」
そう、実況の言う通り、いかに間合いを管理して優位を取らせないかだ。
しかし数秒してすぐに気づく。
「見事にかわしております! 土橋先輩としてはできるだけ小技でダメージを稼ぎたいところ」
そして確信に変わる。
――余裕で避けれる。
日頃から月無先輩の猛攻を身に浴びているせいか、もはやスローにさえ見える。
緩急もなければガードの隙を差すような一撃もない。
そして何より……
「おぉっと、横スマッシュ攻撃の剣先がクリティカルヒット! 土橋先輩早くも一機落としてしまいました!」
隙がデカいのでこちらも大技が当てやすい。
スマッシュ(大振りの威力の高い攻撃)なんて月無先輩にはほぼ全く当たらないのに、これを主軸に攻めても大丈夫なくらいだ。
「追撃のメテオが決まったぁ! 白井選手、なんとほぼ無傷のまま土橋先輩を追い詰めております!」
面白いようにこちらの攻めが決まる……一体どうしたというのだ。
土橋先輩がスマブラをやるのは初めて見るが、経験者であることは間違いない。
しかし……
「まさかの展開です! 白井選手、一機も落とさぬパーフェクトゲームで土橋先輩を下しました!」
月無先輩にさんざんボコられていた経験が回避能力を極限まで高め、チマチマ隙を狙って攻撃する他なかった惨めな戦法が、相手の隙を見逃さぬ目に繋がっていた。
相手が相手だったので気づかずにいたが……強くなっている。確実に。
「少しは善戦できると思ったんだが……白井強いな」
「え、あ……すいませんなんか」
微妙に返す言葉に詰まる。
というかちょっとハイになったとはいえ、勢いに任せて大先輩を完全試合で遠慮なく倒すってヤベェことした気がする。
「土橋ぼっこぼこだったね~。さすがめぐるの弟子~」
「ハハ、残りも遠慮なくいけよ白井」
巴先輩と土橋先輩二人の言葉でそれが和らいだが、他の参加者は明らかに自分を見る目が変わった。
アレは……マジなヤツだ。
「第一回戦最終戦は予想だにしない展開で幕が下りましたが、ヒカミン、このトーナメントの展開、どうご覧になりますか?」
「……注目はやはり白井だな。実力を見せた以上に……先輩を平気でボコれるということが分かったからには、残りの三人も様子見などはしていられないだろう」
……やめようぜそうやって煽るの。
続いて準決勝一試合目。
「さぁ先程の試合を見て闘志が燃えたでしょうか! 細野さんも岸田も真剣な顔つきに変わっております! それでは準決勝、行ってみましょう!」
試合開始とともに細野先輩が畳みかけるも、普段からよく一緒にやるのだろう、岸田先輩も間合いを管理し上手く立ち回る。
単純な実力では細野先輩が上だろう。
しかし、クセを掴んでいる岸田先輩も的確に隙を突いてダメージにつなげている。
「両者一歩も譲らぬ展開! 互いに吹っ飛ばせる技を当てたいところです!」
一進一退の攻防で試合は進み、互いに残り残機は一機。
固唾を飲んで戦況を見つめる中……
「なんかめっちゃまじだね」
巴先輩がふと言う。
……確かにこんなにゲームにマジになっちゃう場面ってのもなかなかない。
少し気が抜けたところに、画面内には劇的な終幕が訪れた。
「お見事! 最後は牽制から有利を押し付けて細野さんが勝利をもぎ取りました! そして吠えました! 勝利のおたけびです!」
準決勝に相応しい名勝負に男子勢も沸き立った。
巴先輩と八代先輩は微妙に呆れ顔である。
「さ~決勝の一枠がこれで決まりました! 次は白井君VSヒビキさん! どちらが駒を進めるのでしょうか!」
実況イキイキしてるなぁ。
「先ほどは両者ともに圧勝という形でしたが、ヒカミン、両者の実力をどのようにご覧になりますか?」
「そうだな……ヒビキが白井に対してどれだけ恨みや嫉妬をため込んでいるかだな」
力の根源そこかよ。
笑いつつ画面の前に座ろうとすると、
「白井、仇は任せたぞ」
何だこのノリ。でも飛井先輩も気を遣ってくれているのかもしれない。
ここは……
「……ブッ殺します!」
「……殺せ!」
ノリに全振りしていざ準決勝。
対峙する部長はなぜか下卑た笑いを浮かべて高圧的な態度で迫ってくる。
「ヒビキさん、得意のゲス顔で開始前から威圧しております! 対して白井君、集中を保ったまま視界に入れないようにしています!」
「構うの面倒なだけだろう」
「それでは準決勝第二回戦! 行ってみましょう!」
試合開始とともに部長が猛攻をしかけてくるも……
「優勢を取りたいヒビキさん! そしてものともせずにいなす白井君!」
……やっぱり割と余裕で捌ける。
特にドンキーコングは月無先輩もたまに使うから、キャラ性能を把握している分やりやすい。
しかし攻撃が激しいので防戦の形ではある。
「いいのか~白井もっとせめて来いよ」
そしてめっちゃ話しかけてくる。
いったん間合いを取り、にらみ合いの状況に。
「そういえば白井よぉ……勝ったらご褒美なんだってなぁ……月無から」
「どこでそれを……」
やたらと様になる、そこはかとなくゲスい含みのあるセリフである。
「俺が勝っちまったら……どうなるんだろうなぁ」
……安い挑発である。
冷静さを欠くことなどなく、むしろ真顔対応だが、なんとなくイラッとしたので攻めに転じてみる。
「おっとここで白井君が攻める! ヒビキさんの攻撃の出始めを全て潰して冷静に崖際まで追い込んだ!」
そしてあっというまに一機撃墜。
「え、ちょ……白井お前マジか」
攻められると普通に脆いという弱点を発見してしまったので、その後も手を緩めずに攻め続けたところ、
「なんと! 第一戦に続いて起きてしまうのか! ……決まりました!」
……再びの完全試合である。
「……お前月無の名前出すとほんとマジになんな」
「……なんのことでしょう」
攻め始めて以降かなり一方的な展開だったので、男子勢からは静かに驚きの声が上がっていた。
「今年の一年はとんでもねぇ逸材だな……」
細野先輩はどこ目線なんだろうか。
ゲームで一目置かれるというのもおかしな話だが、この分野では認められたらしい。
そして……
「さぁいよいよ決勝戦です。ここまでゲーマーとしての強さを見せた細野先輩とまさかの二戦連続完全試合を見せたダークホース白井君。細野さんはゲーマーとしての意地を見せつけられるか! そして白井君は一年勢の希望の星となれるのか!」
……何か背負わされてるが、ここまで来たら勝ちたい。
隠しトラック
――乗り物 ~三年女子部屋にて~
「……起きた~」
「あら。本当に起きたのね、とも。おはよう」
「……あ~過ぎてた~」
「12時からなんだったらまだ始めてないんじゃない?」
「……ならいいか~。もうちょっとしたらいこ~。ヤッシー下までおぶって~」
「……? いやおぶらんけど。ともって深夜連入ってたっけ」
「何かBスタでゲーム大会やるんだって」
「あ~そういえば聞いたなそれ」
「めぐるをかけて今! 白井君が試される~」
「アハハ、勝ったらご褒美ってヤツね」
「ん……。お~観客募集だって~」
「あ、ほんとだ、気づかなかった。……スーはいつも通りね」
「スーはもう寝るもんね~」
「何、バンドのL〇NE?」
「そう~。白井君が見に来ませんか~だって~」
「あ~。大方ヒビキあたりに客呼んで来いとか言われたんでしょ」
「私はいいかなぁ。もう寝ようかと思ってたし」
「え~何言ってんの奏! ……ほら見てよかわいそう」
「あら……見事にフラれてるね」
「どれどれ? ……あ~。まぁ吹とか絶対興味なさそうだし」
「なぐさめてやるか~。……よし。じゃぁ行こうぜ~。ちょっと準備」
「じゃぁついて行こうかしら。そんなに長居しないだろうし」
「アハハ、あんた本当にともに甘いね~」
「だって一人で行かせると心配じゃない。階段とか」
「日常生活レベルの問題じゃない……」
「寝起きだし」
「心配性すぎでしょ。でもなんか珍しいね。ともがこんなことに」
「んー、そうね。寝る方優先しそうなのにね」
「よし。行こう~?」
「はいはい」
「ヤッシーも~」
「え、私はいいよ。寝るし」
「え~せっかくだし~。あとおぶれ~」
「それが理由でしょ……やだよ」
「歩くの面倒~。乗せるの得意じゃん~」
「得意だった記憶ないんだけど」
「いいじゃん~ねぇヨッシー」
「ブフッ」
「ほら~奏ツボったら行くよ~」
「……意味がわからん」
結局乗せた。
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