約束のスクリーン
準決勝の勝者が決まり、決勝戦。
二連戦で坐したままの自分の横に、細野先輩が静かに腰を下ろした。
「スマンな白井、本気を出させてもらう……お前も遠慮しないでいい」
「え……メ……メタナイト」
細野先輩はそれまでとは違う、メタナイトを選んだ。
「む……キャラを変えたな。月無、あのキャラは強いのか?」
「ヒカミンよく気づきましたね……! メタナイトはXでは最強キャラの一角。細野さんもそれだけマジということです」
強い人×強いキャラ、月無先輩以来の強敵になることは間違いない。
キャラが変わったことにより立ち回りの算段も変わる。
メタナイト……そういや月無先輩に最初にボコられた時のBGMはメタナイトの曲だったな……何かしらの因縁を感じざるを得ない。
「それでは両者準備が整いました! 決勝戦、行ってみましょう!」
そしていよいよ戦闘開始。
さすがに決勝ということもあり、緊張から慎重な出だしになる。
強さが未知数の相手だ、まずは捌きつつ様子見から……。
……。
……ん?
……マジか。
「お~、白井無双~」
……やべぇ普通に勝てる。
完全試合は無理だけど全然負ける気がしない。
でも巴先輩、事件簿載るからそれ言わないで。
「細野また後輩に負けんの~?」
八代先輩煽るのやめたげて。
「なんと……! ここまでの結果はあたしも予測しておりませんでした!」
丸々一機分以上のアドバンテージを得たまま、細野先輩を追い詰める。
「なんとか優位な間合いを取りたい細野さん! しかしここで無慈悲にも剣先がクリティカルヒット!」
追撃を必死に回避しようとするメタナイトに、ライフ差の優位性を使い、捨て身の追い打ちをかけ……
「マジかよ……! ……アァァァァァァ!!!」
細野先輩の断末魔が響き渡り、勝敗は決した。
多少苦戦する場面はあったものの、我ながら終始圧倒する形であっさりと勝利を決めてしまった。
「大番狂わせです! 優勝候補筆頭だった細野さんを下し! 一年生の白井君が優勝をもぎ取りました!」
拍手とともに色々な声が飛び交った。
開催前は自分も始まる前は勝てると思っていなかったし、ゲーマーの細野先輩が勝つと皆も予測していただけに、反応は大きかった。
細野先輩はスッと立ち上がり、いい顔をして言った。
「白井……お前がナンバーワンだ」
しかし、認めてもらえたようだ。
ちらほら「白井無双」とか「悪夢の再来」とか聞こえてくるの不穏で嫌だけど。
「ハッハ。伊達に毎日月無にボコられてなかったな」
「ハハ、実際それで強くなってたとは自分でも思いませんでしたが」
部長に返したのは謙遜ではなく本当のことだ。
「それでは! 今大会の締めくくりは解説のヒカミンにお願いしましょう!」
「そうだな……ふむ……」
「……はい! ありがとうございました! それでは皆さん、次回をお楽しみに!」
考える時間を許さないスタイル。
そんな感じで大会は終わり、ただゲームを楽しく続ける人、感想だったりと雑談をする人、ほのぼのとした時間が訪れた。
そしてそんな折。
自分もそこそこに遊んだので、休憩と輪を作って座る中。
スクリーンを見ながら、巴先輩が不穏なことを言った。
ただの興味であるだろうし、何の悪気もなくふと放った一言だった。
――めぐるってこれより全然強いんだよね?
月無先輩がスマブラをやっている姿はあまり見たことないのだろう。
確かに、月無先輩は部室でゲームをするとき、誰か他にいる場合はその人の興味を引きそうなゲームをやる傾向がある。謎のホスピタリティである。
なので、そもそも他のゲームでも対戦をしている姿は見たことがないのだろう。
それに、今日も男子勢に気を遣ってか、見ているだけだった。
「ちょっとやってみてよ二人で。アレ、真の決勝戦」
……八代先輩がニヤりと含んだ笑顔でそう提案する。悪意しかねぇ。
「フフ、白井君だって優勝したんだし、わからないんじゃない?」
冬川先輩は実力差を全く知らないようである。
結局、部長たちも興味を持ってしまい、対戦する流れになってしまった。
……大画面で、衆人環視の中でボコられるというのか。
しかしまぁ、折角の機会にプレイできないっていうのもかわいそうだ。
「……正直あたしもこのスクリーンでやりたかったんだよね」
そのための犠牲となるくらいならお安い御用……だがしかし、
「……手加減してくださいね」
「……」
何も言わずに満面の笑みだけ向けてきた。
月無先輩がよどみなく選択したキャラクターは魔王ガノンドロフ。
クリア後に戦える真ラスボスに相応しい。
しかし今日の自分なら……!
細野先輩に勝ったことで自信も取り戻した……イケる!
男子勢からの声援も受け、試合……開始!
……
「お~」
正直少しはイケると思った。
「うわ……」
どこからか漏れ出た声が全てを物語った。
「白井! 気をしっかり保て!」
この声は……あ、飛井先輩だ。
少しは仲良く……なれた気がする。
「なんだってんだよ! もうワケわかんねぇよ!」
部長、俺もです。
いつもは割と手加減してくれるのに、なぜか今日は最初から本気ですこの人。
、
「ここまで遠かったのか……」
細野先輩はさっきからどういうキャラなんだ。
結局一機も削れぬまま、しかも戦闘終了時にはステージ中央で悠々アピールという魅せプレイまでされて敗北した。
「……負けた。何でガチなんです」
「……」
いや何でさっきから無言で笑顔向けてくるの。
しかし割と満足した模様である。
男子勢はやっぱりかと何故か重い空気。
いつもなら茶化したり煽ったりしてくれる巴先輩や八代先輩も、あまりに凄惨な光景に言葉を失っていた。
「……なんかごめんね白井君」
「……いやむしろいつもみたいに煽ってくださいよ巴さん」
およそゲームをやる場とは思えない謎の空気。
まるで本当に魔王が降臨したかのようである。
「わかったわ、これレイド形式だわ」
細野先輩曰く、これは多人数で挑む、ソロプレイ非推奨のボス戦。
スマブラってそういうゲームだったかと思いつつ男子一同が納得し……
「魔王狩りじゃい!!!」
部長が決起の声を上げると、男子勢もノリでテンションをブチ上げる。
そして始まる魔王狩り。
「かかってくるといいです!!」
四人対戦でありながら打倒月無を目標に掲げ、一斉にかかる。
しかし多分、細野先輩と部長は気を遣ってくれたんだろう。
ゲームをすることを月無先輩が我慢する必要なんて、本当はどこにもないのだ。
ただ切っ掛けが掴みづらかっただけ。
勢いに任せた結果とはいえ、ゲームに参加できて月無先輩は本気で嬉しそうだ。
「逃がしませんよヒビキさん!」
「マイファーザーマイファーザァァァァァ!!!」
……魔王。
男子勢も、そしてそれらを容赦なく屠る月無先輩も、ただゲームを囲んで楽しむだけの時間だった。
やったやられたと一喜一憂、全力で楽しむ一同の輪に月無先輩がいる。
それが自分にとっては一番嬉しかった。
「ふふ、楽しそう~。ってかマジで次元違うんだね~」
「手加減なしの状態で勝たせてもらったこと一度もありませんよ俺」
しかしまぁ、観戦してて思うが本当に月無先輩の強さは異常とかいいようがなく、
「仕方ねぇ……細野! 岸田! アレをやるぞ!」
「まさかヒビキお前」
「ヒビキさん……その時が来たんっすね」
「あぁ……地獄のピタゴラスイッチだ」
ついぞ男子勢が完全に三対一の形でゲス戦法に走り始めるも、少しでも隙を見せた人から即座に潰され、結局一度も勝てなかった。
――
楽しかった時間も終わり、午前1時過ぎ。
ゲームをする時間もお開きになり、皆深夜連に行ったり、部屋に戻ったりした。
「戻って寝る~」
「あ、ありがとうございましたわざわざ見に来てくれて」
三女の三人にそうお礼を言うと、むしろいいものが見れたと笑ってくれた。
それを見れば、今回のスマブラ大会は合宿のいち余興としては成功だっただろう。
「でもめぐるすごいね。一回も負けてなかった」
「ふふー、ゲーム女ですから!」
冬川先輩の言葉にふんすと答える月無先輩。
結局一番楽しんでいたのが月無先輩だったのは、むしろ喜ばしいことだ。
「ふふ、じゃぁヨッシーおぶって~」
「はいはい」
……完全に乗り物扱いである。
よいしょと巴先輩を背負って、八代先輩はこちらに振り返った。
「じゃ、私たち戻るね。めぐるたち深夜連っしょ? 頑張ってね」
「はい! おやすみなさい」
三人と別れて、深夜連で取ってあるDスタジオに向かう。
Dスタジオは草野先輩が取っていたので、自分の貸した鍵盤もすでにそこにある。
スタジオに着き、自分の鍵盤をセッティングする。
月無先輩は楽器を取りに戻っても、運ぶのが大変なので今日は休息日。
機嫌よさそうに「今日はサボっちゃお!」と言っていたのは、
「フフ、でも勝つだろうとは思ってたけど、圧倒的だったね!」
おしゃべりしたい気分だからだろう。
自分もそれに同調して、鍵盤にヘッドホンをつける手を止めた。
「ハハ、正直めぐるさんとやってても強くなった実感とかなかったので自分でも驚いてますよ」
他愛もない、実のあるような話でもなかったが、満面の笑みで話すものだから、いつまでもこうしてられたらと思った。
「でもよかったですね、皆でやれて。しかもあのスクリーンで」
「ほんと! 楽しかったなぁ~」
四人で、しかも思い切りできる機会はあんまりなかったのだろう。
それほど長いものではなかったにしても、月無先輩にとっては至福のひと時だったに違いない。
「それも白井君が優勝してくれたおかげだね!」
「え、それ関係あります?」
「あるよー。だって優勝したから巴さんが興味持ってくれたんだし」
論法がよくわからないがそういうことにしておこう。
「あとちゃんとしたスピーカーから大音量で音聴けるっていうのも最高だったね!」
「あ~、確かに。迫力ありましたよね」
やっていた時は全然気にしなかったが、確かにそうだ。
月無先輩らしい着眼点だ。
「またあのスクリーンで思いっきりゲームしてみたいなぁ」
「やるならそれらしいゲームもやってみたいですよね。何だろ」
大勢でスマブラをやるのも最高に楽しかったけど、大画面だからこそより楽しいゲームなんて他にもありそうだ。
「モンハンとか?」
「あ~。よさそう。あれでやったら多分数倍楽しいですね」
「白井君あんまりハマらなかったって言ってたもんね」
「やったのポータブルでしたからね。大画面でやったら違うかなぁって」
自分がやったのはMHP3(モンスターハンターポータブル3rd)だった。
無茶苦茶流行ったのでやるにはやったが、そこまでやりこまなかった。
「ポータブル3rdだっけ? アレじゃん、ジンオウガいるじゃん」
「トラウマですね」
「いや、ジンオウガの曲最高じゃん」
……そこね。
そしていつものごとくミキサーにスマホを繋げ……
「懐かしい……トラウマよみがえりますねこの曲」
「なんか絶望感すごいよね」
しかしまぁ、攻撃を避けるので精いっぱいだったせいであまり記憶には残ってなかったが、改めて聞くとカッコいいのが事実。
これを大音量で、大迫力のスクリーンを前にプレイしながら聴けたら確かに一段階上のゲーム体験を得られそうだ。
「なんかこう、映画音楽っぽいとこありますから確かに合いますよね」
「そうそこ! よくぞ! それこそモンハンらしさだからね~。演出としての!」
こういう考察的な話になると、いつだって嬉々として語りだす。
なんでも、この前二年女子の間でモンハンの曲を聴かせたが、こういった踏み込んだ話はあまりできなくてちょっとウズウズしてたとのこと。
「最初は正直あんま気に入らなかったんだけど~。メロディ主体の音楽って感じあんましないからね。でもやっぱ曲としての独立性よりもゲーム全体の迫力に重きを置いた在り方ってのがどんどん好きになってってね~」
暴走とまではいかなくとも、月無先輩は曲を流しながら語り続けた。
「めぐるさん、メロディハッキリしたの好きですもんね」
「そう! でもやってるうちに納得していく感じかな!」
あんまりやらないと以前に言ってしまって、図らずも話題をつぶしてしまったせいか、月無先輩はいつになく聴かせたいという気持ちに溢れていた。
「このタマミツネの曲とか最高だよ! 和風っぽさもあってアツさもしっかりあって!」
「いいですねこれ。変にひねってないおかげですんなり入ってくる」
演出としての音楽は没入感に重きを置くが、それでいて埋もれることのない存在感、その神髄のようだ。
「楽しいぞ~モンハン楽しいぞ~。曲もこんなにいいんだぞ~」
「じゃぁ今度教えてください。一緒にやりましょう」
「フフ! やった!」
これだけ勧めてくれているのだし、新作が出たら自分もやってみよう。
「今度の合宿ではモンハンもスクリーンでやりたいよね」
「スクリーン占領して二人でモンハンやっててもよくない気が……」
「確かに……アレだよね、それなら家に欲しいよね」
「いいですね。でっかいスピーカーもちゃんと並べて」
ホームシアター的なアレか。
確かにめぐるさん家大きいしそういうの置けそう。
「毎日二人でゲームの世界に没頭できちゃうね! まさにセカンドライフ!」
まさに夢のようなゲームライフとは思うが……またこの人よ。
普通に返してしまったが、また無意識に未来予想を始めている。
「アレだよ……ほしいよね!?」
……ゴリ押ししてきた。
「ハハ、近所迷惑にならないよう気をつけないとですね」
「ご近所付き合いならお母さんが上手いからその点は学ぶ」
今回は敢えて引かずに少し乗ってみたが、恥ずかしさがこみ上げてきたのか目が泳ぐこと泳ぐこと。
「あ、そういえば」
恥ずかしまぎれに話題の転換か、ふと思いついたように声を上げる。
「なんでしょう」
「ご褒美忘れてたねご褒美。ちゃんと優勝したし」
「あ」
……自分も忘れていたが、そんな話があった。
正直今の姿が見れたので自分としてはもう満足なのだが。
「……どうしようか。何がいい?」
というか恥ずかしい話題を紛らわすためにする話題でもない気がする。
「いや俺は何も考えてませんでしたが……もうもらってる気もしますし」
「むー……実際あたしも思いつかなかったんだよね」
そしてしばし唸ったあと……
「よし! じゃぁこうしよう! スクリーンはあたしが買う!」
「ハハ、じゃぁそれでお願いします」
そして結局、先ほどの話題を引きずってご褒美はスクリーンに決まった。
多分わかってて言っているけど……二人にとってはとても大きな意味を持った約束だ。
「フフ、楽しみだね!」
あまりにもまぶしい笑顔でそう言うので、上手い言葉は返せなかったが、気持ちが伝わったかどうかなんて互いにわかりきっていた。
スマブラ大会優勝のご褒美は、いつか訪れる大切な約束。
毎日いろいろなことが起こる合宿の三日目は、またも最高の一日を更新する出来事で締めくくられた。
隠しトラック
――語呂 ~Dスタジオにて~
「ってか白井君、3rd以外のモンスターも知ってるんだね」
「有名なのはわかりますよ。友達やってましたし。あとパズドラで」
「あ、モンハンコラボやってたもんね!」
「なんか名前覚えやすいですし」
「ね! 印象残る! だいたい略称呼びしやすいようになってるし」
「あ~、レイアとかレウスとか」
「そうそう。そこら辺のネーミングセンスすごいよね」
「確かに。よくあんなに考えつくなって思いますよね」
「あと語呂よすぎ」
「ナルガクルガとか」
「そうそう! 最新作だとマガイマガドとか」
「なんかアレだよね。洗い
「ちょっと面白い。三文字三文字のやつですね」
「フフ、カタカナで書いたらモンハンのモンスターっぽくなる。根掘り葉掘り」
「ハハ、けっこうありますね」
「……恐る恐る?」
「……探り探り言うのやめてくださいよ」
「ブフッ。うまい! さすが文系大学生」
「あなたもそうでしょうに。ってかまぁちょくちょく使う言葉ですし」
「まぁそうだね。知らず知らずに」
「ブフッ」
「あたしの勝ち」
「なんか悔しい」
「あたしらって結構くだらない話してる時あるよね」
「割としょっちゅうですね」
「でもカナ先輩いたら絶対ツボってくれてるよね」
「語呂のいい言葉並べるだけでもう戻ってこれなくなりますね」
「最終的に
「ハハ、めっちゃ楽に想像できますね」
「三文字三文字なら誰でもよさそう!
「ハハ。あと水木先輩もですね……他に誰かいましたっけ?」
「……いたっけ? あたし七文字だし仲良い人大体みんな五文字だし」
「確かに」
「あ、でも! 三文字三文字に……いやなんでもないや」
「……何です?」
「いや、マジで」
「気になりすぎる……」
「……アレ、前もやらかしました。……苗字白井的な」
「……察しました。珍しくブレーキ効いたんですね」
「すいません。……重ね重ね」
「ブフッ」
めぐるの勝ち。
*作中で紹介した曲は曲名とゲームタイトルを記載します。
『閃烈なる蒼光』(ジンオウガ戦闘曲)――モンスターハンターポータブル3rd
『妖艶なる舞』(タマミツネ戦闘曲)――モンスターハンターX
いずれも最新作『モンスターハンターRise』でも聴けます。
ちなみにタマミツネ戦の曲はRiseにて新アレンジ。
原曲のメイキング映像が公開されてたりもしますので是非!
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