特別編 FFスペシャル

 *今回は時系列を無視したFFⅦR発売記念特別になります。



 某日 大学構内 軽音楽部部室棟


 ……突然部室に呼び出され、午前中から誰もいない部室棟に出向いた。

 とはいえこれはよくあること。

 それに、今日が何の日かを考えれば簡単に予想がつくというもの。

 ゲーム音楽狂いの月無先輩のことだ、の発売日となってしまっては仕方ない。


 この扉を開けばいつも通りの満面の笑みで出迎えてくれることだろう。


「お疲れ様ですー」


 ……そう思いつつ扉を開けると……


「遅いよ白井君」

「いきなりのダメ出し……めぐる先輩が早すぎなんです」


 ……すりつぶすわよと言わんばかりの目を向けられる。


「今日が何の日かわかってるでしょうに!」

「いやわかってますけど」

「それなら集合一時間前には来て高めておくのが当然!」


 高めるも何もいきなりリミットゲージマックスじゃないか。

 興奮剤でも服用してるのだろうか。


「フフ、っていうのは冗談で、ちょっとやってみたかっただけ」

「……テンション高いですね」

「そりゃ当然! なんたって今日は」


 言いつつ自分もちょっとテンション上がってたりする。

 そう、あのゲームとは、


「「FFⅦの発売日!」」


 声を揃えてその名を出すと、月無先輩は満足そうに笑った。


「ということで今日はFFⅦの魅力について語り合う会!」

についてでしょ」

「フフ、わかってるな!」


 RPGの中でも世界中にFFほど音楽が評価されてるものはそうはない。

 間違いなく暴走状態リミットブレイクになるのは予期されているけど……今日は仕方ないか。

 ソファーに腰かけると、予想もしないものが目に入った。


「っていうか今気付いたけど何で昔のやってるんですか」

「だってまだ買ってないし! 高めるのに原作プレイは必須でしょ!」

「……さいですか」


 TV画面内には……ゴールドソーサーのゲームセンター。


「家からメモカ持って来た! 途中で止まってたデータあったからさ」

「メモカとか久々に聞きましたね。『ゴールド・ソーサー』の曲も久々」

「フフ、いいよね。まさに遊園地! って感じで」


 煌びやかな遊園地の風景によく合う、フレーズの宝石箱のような曲。


「この曲のすごいとこはねー。和音が一切ないとこなんだよー」


 そう言いながらゲーム内のフリースローゲームをひたすら続ける月無先輩。


「……失礼ですけどそれの何がすごいんです?」

「そりゃなんたって、偉大なる植松伸夫様の真骨頂とも言える特徴の一つ! FFⅥの決戦にも通ずる超重要な」

「抑えましょう」

「はい」


 危うくいきなり暴走リミットブレイクするところだった。

 ああなると語りあうどころじゃなくゲージ切れまで一方的に語り続けられる。


「フフ、鳴ってる音の全部がフレーズってこと!」

「はぁ」

「もっと簡単に言えば全部がメロディ! この曲はどの楽器の音を聴いてもちゃんと旋律を奏でてるってことだよ」


 ……?


「リズム楽器以外に伴奏にあたるパートがなくて、どの楽器に耳を向けても絶えず色んなフレーズを奏でてる……つまりどこを見ても目移りしちゃう遊園地のワクワク感を曲が表現してるのよ!」

「なるほど……確かにそんな気がしてきた。植松さんすごい」

「様つけなさい」

「はい」


 月無先輩の解説でいきなり植松神のすごさを思い知らされたところで、先輩はコントローラーを置いた。フリースローのミニゲームは異様に極めた動きだったしGP貯まりきったくさい。

 伸びをして、少し思い出に浸るように天井を見つめて、先輩はまた口を開いた。


「ⅦはそれまでのFFもすごかったけど、それまで以上に映像との調和がすごいのよー」

「今思うとこの時代のクオリティとは思えませんよね」


 ゲームとしてはもう20年以上前なのにこう思うってことは、当時は本当に別格だったんだろうなぁと思う。


「サントラのブックレットには『音楽は一歩引くべきだ』って思ったとか書いてあったけど、映像を引きたてつつも邪魔をせず確かな存在感のある曲を書くって本当にすごいよねー」

「『偉大なる戦士』とか最高ですね」


 ドラマティックに引きたてる曲が特に好きで、その系統ばっかり聴いていた。


「やめて。あれマジ泣くから」

「最高の名シーンじゃないですか」

「じっちゃん……」

ブーゲンハーゲンそっちかよ」


 一つの曲でもプレイヤーによって思い出のシーンがあるっていうのも、ゲーム音楽の魅力だろうか。


「『シドのテーマ』とかもいいよねー。こう、夢を諦めない男っていう感じが」

「今まさにそれも言おうとしてました。あれほどキャラクターの性格を表す曲って中々ない」

「語れるねぇ君」

「……誰のせいでしょうね」


 初プレイ時小学生だった白井少年はあのシブさに憧れたものだ……。


「あれ聴いてるとつなぎ着たくなるよね」

「それはないですね」

「あとパルマーにヘイストかけるよね」

「それはかける」


 曲の思い出を語り始めると色々とリンクするもので、元々ゲーオタの二人だと中々話が止まらなくなる。

 スピーカーに先輩愛用のウォークマンを繋げて聴きながら改めて話したり、ゲーム音楽だからこその楽しみ方で時間は過ぎた。


「あとあたしが勝手に神秘シリーズって呼んでるのがあるんだけどさ」

「……なんとなく予想つきます。古代種の神殿とか?」

「そう! 『樹海の神殿』! あれほんっと最高!」


 FFには大抵毎回ある、同じような聞き味の曲。

 スピーカーからそれが流れると二人して聴き浸る。


「これねー。ねむねむ」

「懐かしいですね……ねむねむ」


 植松伸夫でしか聴けない曲、そう思わせる曲は数多いけど、月無先輩の言う神秘シリーズは間違いなく植松伸夫にしか作れない。……多分。


「挙げ始めたらキリがないけどー……Ⅲの『クリスタルのある洞窟』しかり、Ⅳの『ダンジョン』しかり、Ⅴの『ダンジョン』、『封印されしもの』しかり、Ⅵの『迷いの森』しかり、Ⅶのこれとか『黒マントの男を追え』とか『リユニオン』とかしかり」

「しかりが多い」

「むー……Ⅷの『Find your way』しかりⅨの『氷の洞窟』しかりXの『嵐の前の静けさ』しかり!!」


 思い当たるの大体言いきった……。


「あたしこのシリーズ大好きなんだー。ゲーム以外じゃまず考えられないアプローチでさ」

「前にも一回話題に出ましたよね」

「うん、場所そのものを曲に! ってヤツ!」


 大抵の場合、人の性格や感情だったり、戦闘や悲劇、喜劇……状況に曲が当てられることがほとんど。

 場所や構造物そのものを曲の主題にするっていうのは、BGMの中でもゲーム音楽くらいしかやらない。

 「洞窟の曲」なんてものがゲーム音楽が生まれる前にどれだけあったかだろうか、ということだ。


「ファンタジー世界に溢れる神秘性を表現させたら植松様の右に出る人はいないね! 手本を作ったって言っても過言じゃないね!」

「真骨頂の一つかもしれませんね……ってかⅦってその手の曲多いですよね」

「そう! まさに! だからⅦは植松様の真骨頂を存分に堪能できる傑作となっているのです!」

「……宣伝かな?」

 

 FFⅠ~Ⅹまで、どれも名曲に溢れてるけど、Ⅶが一つの集大成なのは確かかもしれない。


「でもリメイクってミッドガル出るまでだから今まで挙げた曲ほとんど聴けない気が」

「黙りなさい」

「理不尽」


 黙らされた。


「『樹海の神殿』とかは、Ⅵ以前よりも、その場の『得体のしれなさ』が強調されてる感じがまたね」

「ちょっとテイスト変わりますよね」

「うん。毎作実験的だしね」


 ……実験的? 植松伸夫が作風はタイトルによって毎回変えてるというのは聞いたことあるけど。

 ピンと来ていない自分の顔を一旦覗き込むようにして、今度は少し考えるようにして、月無先輩はある曲名をあげた。


「じゃぁ~……『闘う者達』最初に聴いた時の感想!」

「え……超カッコいい」


 FFⅦを語る上で外せない名曲だ。

 原曲は言うまでもなく最高だし、ピアノアレンジ版の出来だって素晴らしい。


「だよね、あれ超カッコいいよね」


 反射的に口にした感想だったけど、先輩は満足したように笑った。


「あれⅥまでの通常戦闘曲と全然違うじゃん」

「あぁ確かに。イントロのアレありませんよね」

「うん。あとドラムの音使えるようになってからはバンドサウンドの8ビートを一貫してたのに『闘う者達』はそうじゃないの」


 イントロのアレというのは二小節分流れる定番のベース音。これを聴くとFFだなってなるフレーズだ。

 いわゆる『ロック音楽』の8ビートじゃなくなってるのも言われてみれば……


「安定したものに頼らず新しい形を作って、それを毎回ファンに認めさせてるって、超凄くない?」

「……確かに」

「正解を常に導きだしてるってことね! しかもⅦはそれまでとは全く違う近代的世界観なのに! 一から自分で新しい音楽を構築しているってこと!」


 ……え、つまり実験的なことしつつも失敗してないってことか?

 完璧な結果だけを見てると実験的っていう印象がないのも頷けるけど……。


「最初からこの場面にはこの曲って完全に決まってるような印象ですよね。植松さ……様の曲って」

「うん。だから恐ろしいのよ」


 もちろん苦労も試行錯誤も尋常じゃないんだろうけど……凄すぎね?


「ボス戦も結構違うわよ! プログレ音楽的なフレージングが多かったⅥまでとは違ってⅦの『更に闘う者達』はマイケル・シェンカーリスペクトのドストレートなハードロック! 植松様が多くの音楽を聴いて吸収し~中略~」


 ……あ。

 気付いた時にはもう遅い。

 案の定月無先輩は暴走状態リミットブレイク


 久々のこの状態だが、こうなってしまってはこちらの言葉は全く通じないので待つしかない……ナイツオブラウンド乱れ打ちをフルで見るようなものだ。

 もちろんムービースキップ機能はない。


「ゲーム音楽を作るに至るにはどれだけの幅広い音楽知識が必要かの証左とも言えるわけ!その上自分のセンスも天才的なんだからそりゃあもう~以下略~」


 ……植松伸夫が話題の中心にあって抑制できるわけはなかったのだった。



 ―― 間 ―― 



「ということ、わかった?」

「植松様スゴい」

「そう! おっけー!」


 オッケーだそう。


「そしてFFⅦで絶対に語らざるをえないのはアレだよね……」

「あ、アレですね」

「うん、アレ」


 示し合わせてせーので曲名。Ⅶと言ったらアレしかないだろう。


「『片翼の天使』!」

「『エアリスのテーマ』!」

「むー!!」

「えぇ!?」

 

 まさかのズレが生じるっていう。


「毎回毎回神曲が約束されてるラスボス曲の中でもフルオーケストラ且つまさかの歌付きでプレイヤーの度肝を抜いた超絶インパクトの『片翼の天使』が先でしょ!!」

「……いや先輩はセフィロス好き過ぎでしょ」

「いやセフィロスはそんなに。マザコンじゃん」

「やめなさい」


 ……でも言わんとすることはわかる。

 ゲーム音楽を研究対象のようにも見てる月無先輩からしたら、確かに最優先に挙げるべき曲かもしれない。


「あれですよね、さっき言ってた実験的の最たる例的な」

「そう! まさにね。賛否両論ありそうだけど、ラスボス感がこれ以上なく出てるのは事実だよね。フルオーケストラで歌付きって、他の誰がやろうと思うかなって」


 先駆者であり続ける植松伸夫だからこその発想、ということか。

 もしかしたら……植松伸夫の音楽はここで一回完成したのかもしれない。


「あのイントロの16分6連が難しーのなんのって。あれは弾くものじゃなくて聴くものだね」

「ハハ、俺も挑戦したことありますよ。めぐる先輩でも弾けないとは」

「え、弾けるけど」

「弾けるんかい」


 肩すかしというかなんというか、この人のピアノの技量ならそりゃそうか。


「あと歌えるよ」

「何かイヤだ」

 

 ……拒否りつつも弾き語りちょっと見てみたい。


「あ、でも、『エアリスのテーマ』だって外す気は絶対にないよ。元から挙げるつもりだった」

「え? あ、そうなんです?」

「うん。『片翼の天使』の方がインパクト強いからね! でも『エアリスのテーマ』はゲーム音楽の一つの完成形だよ」


 ……どっちも最高の名曲で、語らざるを得ないのは同じってこと?

 インパクトの強い方から言ったってことなのかな。


「初めてあのムービーシーン見た時は鳥肌立った!」


 そしていつものように、嬉々として思い出を語り始めた。


「イントロのピアノの音と白マテリアが落ちていく映像が重なった時さ、驚いたなんてもんじゃなかった!」


 『エアリスのテーマ』が流れるシーン。

 FFⅦをプレイした人であれが心に残らない人はいないだろうし、あれほど映像と音楽の調和を果たしたシーンも中々ない。


「儚くも美しい、それでいてどことなく悲しげでもあるあの曲はさ! エアリスっていう少女の物語も、そのシーンのクラウドの気持ちも全部表してる気がしてて!」

「わかる……曲が一つのドラマを物語っている感」

「そう! よくわかってるな!」


 さっき話した『偉大なる戦士』にしても『シドのテーマ』にしてもそう。


「FFⅦの曲は一つのドラマとして完結してる曲が多くて、その中でも『エアリスのテーマ』はひと際印象的で心に残る名曲なんだよね」

「曲単体でも本当にいいですもんね」

「そう! こればっかしは普通のBGMじゃあり得ないゲーム音楽だからこその醍醐味だね!」


 曲がいい、それだけに終わらない。

 音楽がその時起きたドラマを想起させる、ゲーム音楽の真骨頂。

 FFⅦの名曲達は確実にそうで、だからこそ多くのファンの心を掴んだのだろう。


「だからリメイクであのシーン流れる時には絶対再現してほしいんだよね! あの白マテリア落ちるところと曲が重なるの!」

「ハハ、それは絶対ですね」

「うん! やってくれなかったらスクエニ本社に」

「やめなさい」


 ちょくちょく血の気が多いんだよな……。


 とはいえ、大切な思い出に浸りながら最高の笑顔を作る……

 そんな月無先輩にとって、ゲーム音楽が人生を賭して愛するに値するものだというのも……同じくその声を聴きながら思い出に浸る自分には共感がある。


「それに、ゲームの思い出とか、それだけじゃないからねこの曲は」

「え?」


 ……あぁ。


「最初に弾いてくれた曲ですもんね。よく覚えてますよ」

「フフッ、そういうこと!」


 月無先輩が初めて自分の前で演奏してくれたゲーム音楽、『エアリスのテーマ』は自分と先輩にとっては現実の思い出でもある。

 恥ずかしすぎて口が裂けても言えないけど……


「あたしにとっては一生の思い出だから」


 ……この人は嬉しいことには簡単に口が裂けちゃうけど


「あ……今の忘れて」


 ……自爆して赤面するのもいつものこと。


 しかし忘れられるわけがない、そんなものなのだ。


「ハハ、忘れたくても忘れられませんよ」

「……フフ、そっか!」


 どっちをとは言わなくても、どっちをとは聞かれなかった。

 同じものを共有してる二人には、言葉にしなくてもわかるものだった。





 隠しトラック

 ―将来設計 ~部室にて~


「あたしレッドⅩⅢ関連の曲聴くといっつも思うんだけどさー」

「なんでしょう」

「犬飼いたいんだよね犬」

「はぁ。可愛いですよね」

「うん。スーちゃん羨ましい」

「あ~、あの犬可愛かったですね」

「そんでさ!」

「なんでしょう」

「名前はもう決めてあるの!」

「……もう大体予想つきますけど」

「うん! セト!」

父親そっちかよ」


「え、ナナキ派?」

「派閥も何も普通そっち思い浮かべる気が」

「むー……あ、じゃぁ二匹飼えばいっか」

「……いやどういう」

「あと猫も飼いたいんだよね!」

「猫もいいですよねぇ。見てるだけで癒される」

「ちなみに猫はねー」

「ケット・シーとは流石に言わないですよね」

「うん。猫飼うならユフィって付けたい」

「それわかる」

「わかる!? ならおっけーだ!」

「……?」


「めぐる先輩ってゲームのキャラから名前付けるタイプです?」

「昔飼ってたハムスターはリックだった!」

「……カービィ?」

「そう! ダメかな?」

「動物キャラだったらイメージ一致しやすいしアリな気もしてきた」

「でしょ?」

「好きなゲームだと名前自体に愛着ありますもんね」

「そうそう! だからそうしよ?」

「そうしよって……あ……もし蛇飼うことになったら?」

「……敢えてオタコンかな」

「そこ行くんだ」


「……あたし犬にラッシュとゴスペルも付けたいんだった」

「……あ、ロックマン」

「うん。あたしにとっちゃ相棒みたいなもんよ」

「四匹も飼う気なんですか?」

「……ダメかな?」

「ダメじゃないと思いますけど……」

「むー……まぁでも一軒家じゃないと無理だし厳しいよねー」

「現実的じゃないですね」

「でも絶対楽しそうじゃん! 犬いっぱいいてさ!」

「楽しそうですけども」

「猫なんかゲームしてたら膝乗って来るんだよ!?」

「……それいい」

「だからさ! ……あ」

「……」

「止めてくれてもよくない?」

「……口に出す前に考えましょ?」

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