インターミッション
特別編 令和スペシャル③
「さて白井君よ……」
「はい。来ましたね」
舞台はいつもの部室……待ちわびた気持ちを隠し切れない表情で月無先輩は仰々しく始まりを告げた。
「……はい! ついに来ました令和元年特別企画! 平成をゲーム音楽で振り返る会、後半戦!」
「いきなりブチあがる」
「そりゃウズウズしてたからね。大分時間経っちゃったし」
前回は64とプレステ等第5世代まで、今回はゲームキューブとPS2とのこと。
「あ、Xboxは?」
「……いきなり謝罪から入るけどあたしXboxそこまでやってないのよね」
「……そういうこともありますよ、落ち込まないで下さい」
「うん。ってかいきなりそういうこと言うのやめてよ」
「俺のせい」
持ってるそうだがやったゲームはあまりないとのこと。
「でもそこで蔑ろにするあたしじゃないわ。ちゃんとXboxにも思い出の曲ある」
「おぉ」
「ドリキャスもすごいのある」
「さすが」
Xboxだと何だろうか。曲が有名なのってアイマスくらいしか浮かんでこない。
ドリキャスはまず所有してないので何もわからん。楽しみ。
「でも謝らせて……」
「何をでしょう」
「間違いなくプレ2とゲームキューブだけでものすごいことになるから時間がない」
「……間違いないですね」
「うん、ゴメン。また今度」
何のことかわからないけど「そちらは本編で」とのことらしい。
「よし、じゃぁ行こう! まずはゲームキューブから!」
「ぱちぱち」
「まずはRPG部門! 64と同じくRPGの絶対数が少ないからストーリーがあるゲームを統括します!」
64とプレステと同じくプレ2とキューブは住み分けされていた感もあって、やっぱり皆で楽しくは任天堂、PRGなどはソニーという感覚がある。
とはいえ相互で発売されるタイトルが増えたのもこの時期だったりする。
「映えある第一は~……でけでけでけでけ……『ゼルダの伝説 風のタクト』!!」
「正直予想ついた」
「だよね~。でも結構やっぱり迷った」
予想ついたといってもネガティブな意味ではない。
「正直ぶっちぎりすぎるもんねこれ」
「曲だけだったらゼルダで一番好きかもですね」
「あたしも」
ただ曲がいいだけだったらこんなことにはならない。
広大な大海原と情緒溢れる曲の数々が白井少年をどれだけ世界観に引きずりこんだものだろうか……思い出深い。
定番だけど『竜の島』なんて誰が聴いてもいい曲に決まってる、そんなレベル。
「ゲームの自由度と曲の壮大さがまたマッチしてるのよね~」
「フィールド曲とかいい感じにアップデートされてますよね」
「そうなのよ。それでいて64のゼルダよりもしっかり曲が前に出てきてゲーム音楽してるっていうのが最高」
64のリンクがリアリティのあるリンクとすれば、トゥーンリンクはまさに二次元。
それならば「邪魔をしない」という映画音楽的なアプローチよりも、従来のゲーム音楽っぽい曲の方が多くてもいいし、絵柄に合わせて全体的にポップな印象だ。
世界観と曲のマッチングの手本のようですらある。
「あとトゥーンリンクが可愛い」
「それな」
「2週目パジャマで出来るのがまたいい」
「わかります」
最初は何だこれって思ったけど慣れるとどんどん可愛く見えてくるんだよなアレ。
「よし、次行こうか」
「え、早。何か言わなくていいんですか?」
「多分大体白井君と考えてること同じな気がする」
エスパーかな?
「まぁでも誰にでもわかるくらい飛び抜けてますもんね」
「フフ、そういうこと!」
ちなみにサントラ版だとところどころ違うらしい。
「邪魔をしない」という観点はしっかりあって、ゲーム内で鳴っているバージョンはいくらか音が削られている曲があるそうだ。そこまであっての調和ということだろう。
「次はRPG以外部門! キューブはこっちが充実し過ぎててほんっと大変でした!」
「有名タイトル目白押しですね。どれもクオリティ高いし」
やはり任天堂系列か、はたまた別の会社か……。
「ここに来てヒゲ! いいものはいい! 『マリオゴルフ ファミリーツアー』!」
「おぉヒゲ。しかし何故ゴルフ」
カートもテニスもよかったけど、何故にゴルフなんだろうか。
「ゴルフとカートとテニスはほぼ同列と思っていいんだけど、あたし的に大事なポイントがあってね」
「ほう」
「プレイヤーがゲームに没頭するための要素が他以上にふんだんに盛り込まれているところね!」
……どんなものだろうか。
「疾走感と爽やかさのあるBGM。それでいて出過ぎることもなくてプレイヤーが一打をしっかり考える間を邪魔することなく持たせてくれるわ」
「あ、確かに。聴きやすくてカッコいいっていう」
「元々BGMとしてよく使われるフュージョン系の曲にまとまってるからね。無理なく馴染みやすいの」
何と言うか、お腹一杯にならずにずっと聴いていられる感じだろうか。
その辺りはカートやテニスとは全然違う点だろう。
「確かにそれなら自分の間を取りたいゴルフにぴったりかもですね」
「そう。しかも64の時よりも明らかに進化してるんだからすごいのよ。ほとんどの曲がミドルテンポの16ビートにまとまってるんだけど、これって一番自然にノレるリズムの一つだし、『馴染む』っていう観点からしたら最適解に近いね」
すごいベタ褒めだ。
「あたしレポート書く時とかよく垂れ流しにしてる」
「作業用BGMってヤツですね。ぴったりかも」
……しかし知らないことが一つ。
「作曲家って他のマリオシリーズと同じなんです?」
「……は?」
「……え?」
すっごい残念そうな顔してる……地雷だったのか?
「
「……ん? あ、名前だけは」
「フフ、まぁRPGのイメージの方が強いかもね。テイルズとかスターオーシャンの方で有名だもん。あとヴァルキリープロファイルとか」
……全部やったことあった。全然曲の印象も違うからわからなかった。
「その辺も知ってると実力をまざまざと見せつけられるようよね~。どんな曲でも作れちゃうじゃんっていう。だからマリオゴルフは桜庭様に捧げる一位っていう意味もあったり!」
「なるほど」
でもそのくらい偉大な作曲家か。それは間違いない。
「ちなみにRPG部門はタクトともう一つ、バテンカイトスでめっちゃ迷ったんだけど、それも作曲家桜庭様」
「おぉ、二冠達成するところだったんですね」
しかもPS2でも沢山作曲してるとなれば、三冠達成もあり得たわけだ。
「よし、じゃぁお次はPS2! まずはRPG部門!」
「これは難航しますね」
「うん。血吐くかってくらい迷った」
ほんと相変わらずだな……でも前回まだ決められてないって言ってたし、一番苦しむのはここかも知れない。
「……迷ったの全部言っていい?」
「……どれか一つにしなさい」
「……むー」
しかし思いつくだけでも10は軽く超えてくるし、スクエニ一強に近かったPSよりも色んな会社のタイトルが思い浮かぶ。
「むー…………『Kingdom HeartsⅡ』!!!!」
「もうヤケになってる」
煮え切らないんだろうなぁ……タイトルには同意だけど一位は決め切れない。
『めぐるゲーム音楽十選』にも一曲入ってたし、特別思い入れがある作品なのは違いないだろうけど。
「迷った作品はそれぞれ一位になるにふさわしい理由があるわ……」
「……本編で、にしましょう」
「うん。わかった」
物分かりがよろしい。
「フフ、でね。キングダムハーツⅡはなんと言っても唯一無二な世界観だね。そしてこれは確ッ実に! 下村陽子様以外では構築できないわね!」
「それメッチャわかります!」
「おぉ食いついた!」
もっと以前から有名な作曲家だけど、下村陽子と言えばキングダムハーツと言っていいくらいにあの世界観構築は素晴らしい。
聖剣伝説LOMとかも近しいものを感じるけど、それがさらに進化した感じだ。
「ディズニー×FFっていうこれ以上ない大役に100点満点以上の回答を示したって言っても過言じゃないね。特筆すべきは戦闘曲だわ。まずディズニー作品それぞれの世界で違う曲が聴けるってだけでバトル曲マニアとしては
あれ? 久々ですな。
「おーい」
「2はよりキングダムハーツの物語がしっかり進行することもあってドラマティックな曲が増えるわけでどそれがまた最高で!ポップな世界観が1で強調された分それがまた引きたっちゃうんだから余計良く聴こえちゃうって~以下略~」
気付いた時にはもう遅い、と。
なんか大抵の敵一方殺できるアビリティあったな……あ、アレだ、チャージバーサク。そんなかんじ。
~数分後
「……ってなわけで~、一位でした……あはは」
「ハハ、何か安心しました。ちゃんと聴いてましたよ」
「……記憶したか?」
「あなたⅩⅢ機関だったんか」
実はまだまだ語り足りないとのことでいつかの機会に、だそうだ。
バトル曲にしてもフィールド曲にしても、話題性の尽きないゲームだ。
「では続きまして~……RPG以外部門!」
「はいはいロックマンロックマン」
「怒るよ」
「調子に乗りました」
ロックマンじゃないのか……あんだけロボ狂いなのに。
……いや待てよ? ロボ?
「ふふふ……気づいたようだね」
「なんとなく察しま」
「『第三次スーパーロボット対戦α』!!!」
「うるさ」
そういえばスパロボ大好きって言ってたなぁ。
でも実際曲いいし、自分もOGはやったからわかる。
「オリジナルジェネレーションか第三次かメッチャ迷ったんだよね~。でもあのキャラはこっちにしかいないから! もちろんわかるよね!?」
「……バラン・ドバン♪」
「バァン!!」
テンション高いなぁ。
何しろ先輩の大好きなロボ、そしてそこにまさかのもう一つの大好物、筋肉が融合した姿……まぁ見てしまっては仕方がないか。
とりあえず知らない人は『我こそはバラン・ドバン』を聴いてそのロボットのベミドバンを見ておいて下さい。これが月無先輩の好きなものです。
「もっちろんそれ以外にもいい曲多いよ~。オリジナルキャラの曲もハズレないし~、版権キャラのアレンジもインストアレンジの一つとして確かな出来!」
そう、スパロボ特有のものとして、出演作品の主題歌が流れるというものがある。
歌付きではないけど、インスト(楽器だけ)版として楽しめるから結構聴きごたえもあったりする。
「スパロボの曲の方向性はここで一旦極まったわね」
「歌モノ的な奴でしたっけ」
「そう! ちゃんと覚えてるな。偉い!」
オリジナルキャラの曲も、版権作品に合わせて「歌っぽい」メロディになっている。
理論的に言い表すのは難しいけど、歌詞を付けられそうな印象があり、やはり曲と言うより歌と言った方がしっくりくるようなものが多い。
「集大成みたいな作品だし、ゲームだけじゃなくてサントラも超骨太で満足度最高潮だったね。一位の理由はクオリティだけじゃなくてそこもあるかな」
「どれもストレートでカッコいいですしね。つい口ずさんでしまう」
「ね。それにすぐに耳コピできるから弾くっていう観点でも大満足だね!」
……それを簡単にできる人はそういないから。
「でもね、これだけは本当に許して欲しいんだけど……」
「なんでしょう」
大体予想はつくが。
「RPG以外部門、もう一つだけ絶対に外せない作品があって」
「大方そんなことだろうと……ゴーです」
「『ギルティギアイグゼクス アクセントコア』!!」
「ノータイムで来た」
しかし確かにこのゲーム、他のゲームとは一線を画す部分がある。
「なんてったってギルティはね~。ゲーム音楽の在り方を大きく変えた作品と言っても過言じゃないね!」
「その心は」
「いわゆる格ゲーだから出来ること! それは自重を全くしない姿勢!」
RPGみたいに場面との調和のために一歩引く、なんてのはギルティにはほぼなく、戦闘という主題に沿って主張たっぷりの名曲達が奏でられる。
「そして! フルアコースティックが当たり前になってきたことを強調するようにゴリッゴリのギターサウンドで押してくるわ! メタル上がりでそれをいかんなく発揮するっていう作曲家も、それまではあまりいなかったのもポイントね」
要するに、PS2になるまでは実際のバンド演奏で録音された曲自体も少なく、ギターサウンドの旨みを十全に活かせるようになったのもこの時代から、と。
「打ち込みメインの時代から生音もしっかり使える時代に変わったことを象徴するようなゲーム、それがギルティ!」
「なるほど」
「し! か! も!」
テンション高いなぁ。可愛い。
「ただそれだけに終わらなくって! ちゃんと楽器のソロがあるっていうのがギルティの見逃せない点ね!」
「ほとんどのキャラの曲でソロありましたね」
「そう! だからギルティのサントラは、ゲームのサントラとしてだけじゃなくって、最高品質のギターインストアルバムとしても聴けちゃうっていうね!」
何故あなたがドヤ顔……。
「ちなみにシリーズ沢山出てるし基本的に曲は共通だけど、何でアクセントコアなのかっていうと~」
「いうと~」
「アクセントコアの新キャラ、アバの曲が超カッコいいからです!」
そういえば言ってたな。
「このキャラの曲カッコいいよ!」とか言いながらボコられた記憶がある。
「……まぁアクセントコアはサントラ売ってないんだけどね」
「……ゲーム内で聴きますか」
「うん。だからギルティのサントラ買う時はイグゼクスの買ってね。イノがジャケット表紙の。色々あってわかりづらいから」
「注意喚起話になってる」
デカいTSUTAYAとかなら結構あるらしい。
「さて! 第6世代ハード、ゲームキューブVSプレステ2をお送りしましたが!」
「……が?」
「この時代のゲームの在り方を象徴する点が実はまだあります!」
「いやもう時間」
「許して!」
「俺が許しても字数が許さない」
「何のこと言ってんの!」
「あなたが言うかね」
まだあるようだが今日はここまで。
いつも通りむーと可愛く膨れる先輩を宥めて、お開き。
「今日のこと絶対忘れないからね」
「ガチじゃん」
……後で適当にアイスでも奢っておこう。
第6世代、ゲーム音楽の進化が極まった時代と言えるかもしれない。
音源的な制約は完全に取り払われ、そういう意味では一般音楽と対等な立場になった時代とも言える。
その上で、その先のゲーム音楽はどうなっていくのだろうか。
らしさは残り続けるのか、それともまた違う発展を遂げるのか、またの機会を楽しみにしておこう。
「あたしに断りなく締めないでよ」
「心読むのやめません?」
隠しトラック
危険物の取り扱い ~部室にて~
「白井君って任天堂派? それともソニー派?」
「……あ~ありますよねハード論争。どっちもって人の方が多いけど」
「うん」
「俺はどっちもですかねー。友達とはよくwiiやりましたし、RPGもかなりやるんでソニーのハードも」
「まぁそうだよねー。あたしもどっちもやるし、優劣ないよね」
「はは、でも子供がやるには任天堂って感じあったりしますよね」
「そうだね。壊れづらいし」
「薄型PS2とか寿命短すぎでしたもんね」
「うん。うち3台ある。2個動かない」
「……俺ん家も2台あります」
「ゲームキューブとか耐久性異常だよね」
「ゲーム機にあそこまでの頑丈さいらない気がしすよね」
「うん。……あとアレね」
「……アレ?」
「謎の取っ手」
「……アレな」
「あたしもう武器としての運用を視野に入れてるとしか思えないの」
「……多分ガチで人を殺す道具に成りえますね」
「あたしその時小学校の低学年だったんだけどさ」
「幼女めぐる」
「あの取っ手を握った時にね」
「……はい」
「何か大きな力を手にした気がしたの」
「幼女と兵器の出会い」
「これはあたしが手にしてはいけない力なんじゃないかって」
「ちょっと面白い」
「これ、右手装備だ! って」
「ブフッ」
「でも実際思わない? 取っ手がついてる意味がわからないもん」
「意味は確かにわからない」
「しかもあのボディの頑強さだしさ。白井君も思ったでしょ?」
「思いましたけど、親父に言われてたので」
「え、なんて?」
「キューブの取っ手は握るなって」
「ブフッ」
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