想いを繋ぐ物語

八月中旬 大学構内 軽音楽部部室


 ……一昨日は色々あった。

 色々というか一つだけではあるのだが……なんかもうすごかった。


 ……まぁあんまりそればっかしに頭を囚われてもよくない。

 というか自分の脳内がキモすぎてふとした拍子に真顔になりそうだ。


 今日は八代バンドの練習で、その前に部室で一旦ライブで演奏する曲を決める会議。椎名は実家帰省中、林田バカは遅刻ということで八代先輩とヒビキ部長、三人ですることになった。


 部室でどんな曲をやろうかと考えつつ待っていると、数分もたたないうちに部室のドアが開いた。


「お疲れー白井」

「お疲れ様です」

 

 八代先輩が到着した。

 

「なんかヒビキ遅れるって。やっぱダメだねアイツは」

「あ~……はは」


 部長は遅刻とのこと。

 皆部活に真面目ではあるのだが、バカは時間にルーズ、部長も稀にやらかすといまいち締まらなかったりする。


「ま~来るまで待つか」

「そうですね。……俺達だけで先に候補決めておきますか?」


 出来ること自体はあるので提案してみると、八代先輩は少し上の空のように貸出棚の方を見ていた。


「ん~、いいよ。ヒビキ来てからで。大体候補決まってるしね」


 ちょっと珍しい反応を見たかもしれない。

 まぁバンド二つ掛け持ちでしかも体力の使うドラムだ、疲れがたまっているのか。


「昨日もバンド練でしたよね? 大変じゃないですか?」

「アハハ、何だよ急に気遣って。疲れてないから大丈夫だよ。児相は癒されるし」


 確かに清田先輩みたいな問題児はいても、癒されるメンツの揃ったガールズバンドだ。練習の姿勢はガチだろうけど無駄に疲れるようなこともなさそうだ。


「……ってか本当にバンド名、ヤッシー児童相談所で決まったんですね」

「……うん、諦めた」


 前言撤回。やっぱり苦労人だわ。所長は大変だわ。


「何してよっかね~。……あ、そうだ」


 何か思い付いたようだ。

 八代先輩とは月無先輩の次くらいにはよく話すし間が持たないなんてことはないが、話題を振ってくれるのは助かる。


「私さ、最近結構ゲーム音楽興味出て来たからさ」


 それは嬉しい。月無先輩も喜ぶし、自分も好きな話題だ。


「聴かせてよ。白井の好きな曲。ゲーム音楽で」

「え、俺の好きな曲、ですか?」

「そ。何だかんだ言って、白井の好みってそんなに知らないからさ」


 なるほど……でもバンドでやる曲もあんまり口出ししてないし、そういうのは先輩としては知っておきたいのかもしれない。

 しかし土橋先輩にも似たようなことをされたけど、褐色肌の人はそういう役回りでもあるのだろうか。

 そういえばあの時はエアリスって応えたな。他のも考えてみよう。


「ん~……やっぱりバラード系ですかね。何がいいだろ」


 色々と曲は思い浮かぶ。

 バラードが映えると言えば定番のFFからキングダムハーツ、軌跡シリーズにアトリエも捨てがたいし……ジャンルで言えばやっぱりRPGが好きだな。


「お、迷ってる迷ってる」

「ハハ、候補がどうにも多くて」


 なんとなく「これだ」って思うものが決まらず唸っていると、八代先輩がまた何か思い付いたように言った。


「ボーカル曲って結構あるもんなの? 全部インストだと思ってたから気になって」


 ボーカル曲……盲点になっていた。


「結構ありますよ。毎回主題歌ついてるゲームも今じゃ普通ですし。大体タイアップって感じですけど~……ゲームのために作られた曲も結構」

「へ~……じゃそれにしてよ。アニソンとかも普通のロックとかと違って結構いいの多いじゃない? アシュリーのテーマとか、前に聴かせてもらったのもすっごいよかったし、歌モノでいいの聴きたいな」


 それならまた候補は結構ある……あ、めっちゃ好きなのあった。

 スマホにゲーム音楽はあまり入れてないが、単純に好きな歌として入れていた曲があった。


「バラードなんで大分一般音楽寄りですけど……」

「いいよいいよ、聴かせて」


 スマホをスピーカーにつなげた。


「テイルズっていうゲームの曲なんですけど」


 曲を再生すると、二人で無言でそれを聴いた。

 『夢は終わらない』、テイルズオブファンタジアのOP曲。

 イントロのピアノのがたまらなく好きで、少し儚げなメロディでありつつも華やかさのある演奏が希望を感じさせるようでまた好きだ。


「へ~、いい曲」


 八代先輩はそれだけ言って再び耳を澄ませた。

 この曲を気に入ってくれたことは、目を閉じて聴き入る表情を見ればわかった。


 月無先輩なら曲を聴きつつ邪魔をしないように解説したりするんだろうけど、自分にはできない……まぁ暴走するよりは黙ってた方がいいか。


「うわ何このリズムむっず」

「あ~ここワケわかんないんですよね」


 二番サビ終わりの間奏、妙にプログレ的というか、全く拍が取れない箇所がある。


「めぐる先輩がいたらここで拍子の解説教えてくれそうですよね。どうせ楽譜書いてるハズですよ」

「アハハ、そうかもね」


 そしてまた曲に集中するように八代先輩は耳を澄ませた。

 最後のサビが終わると、満足した様子で感想をいってくれた。


「なんか言い方変だけど~、ただのめっちゃいい曲だね」

「あ、それわかります。ゲーム音楽とか関係なくただのめっちゃいい曲」


 ゲームゲームしていないというか、一般音楽とはちょっと聴き味は違えど、とにかくいい曲としか言いようがない。

 悪いバイアスをかけて聴かなければ本当にただの名曲。


「もう一回聴いていい?」

「あ、はい。流しますね」


 自分の薦めた曲が気に入ってもらえるのは結構嬉しい。月無先輩があれだけ喜ぶのも理解ができた。


「しかしいいな~これ。……児相の曲決めで出しちゃおっかな」

「……え!? むしろめっちゃやってほしいんですけど。めぐる先輩の演奏でこれとか超聴きたいんですが」


 正直天にも昇るレベルだ。イントロのピアノだけで号泣出来そうな気がする。


「……でも歌うの藍だよ?」

「……ガチでやってくれれば……っていうのは冗談で、一番世話になってる八代先輩のバンドで聴けるってだけで最高です」


 それに、上から目線のようだけど清田先輩達だって今はすごく頑張っているし、むしろ元気な声質はこの曲に合いそうだ。

 掛け値なくそう思うし、角が立たないようにそう伝えた。


「アハハ、やっぱあんた達って似たもん同士だよね。好みは全然違うのに」

「……最近そんな気がしました」


 最初は全然違うと思っていた。

 でも接する中で色々と知って、共感を得て、似通った部分の多さに気付いた。


「まぁだから相性いいんだろうけどね。あの子、わかってあげられる人じゃないと付き合えないと思うし。だから白井でよかったんじゃないかな」


 そう言ってくれるのは嬉しいし、八代先輩が言うなら本当にそうなんだろうと思うが……すっごい気になる口ぶりなんだが……。


「ちなみになんだけど」


 ……悪い予感当たってないか?


「昨日児相のバンド飯でバレたから」

「くっそぉ……」


 遅かれ早かれだろうとは思ったけど、翌日とは。

 まぁ仕方ないか。あの人に嬉しいことを隠すのは無理だし、大方顔に出てたところをつつかれて言わざるを得なくなったんだろう。


「アハハ、許してあげなよ。必死に誤魔化そうとしてたけど、全然無理だったみたい。嬉しいこと我慢できないでしょ? あの子。真っ赤になりながらニヤけてたよ」

「何それめっちゃ可愛い」


 バレたとはいえ仲のいい人しかいない。

 普通に祝福してくれていそうだし、悪いことなどなにもない。


「ちゃんとスーが写真撮ってたよ」

「もらお」

「アハハ、キッモ」


 そんな風に和んでいると、流れていた曲がまた例の変拍子ポイントに差し掛かった。


四三よんさん? 四五よんご? ……あ、小節によって違うね」

「全然わかりませんね……ここだけループにして聴かないと」


 こういうのは理論も何もない、ただ力技で把握するしかない。

 普段演奏する曲の九割以上は拍子が四分の四だし、特定ジャンルに踏み込まない限りは変拍子なんてまず出会わない。


「多分途中だけ四五になってる感じかな。これ音源ちょうだい。今度ちゃんととってみる」

「え、音源はもちろんですけど、めぐる先輩に聴けば拍子は一発でわかる気が」


 そう言うと、八代先輩は上に目線をやって少し考えてから言った。


「私もたまには挑戦しようかなって」


 意図はわからないけど、額面通りの意味だろうか。


「最近さ、レベルアップしたって実感なくて」


 ストイックな八代先輩らしい発言だ。

 軽音楽部を初心者から初めて、十二分なドラマーになった人だ。停滞している感覚が嫌いなのかもしれない。


「ゲーム音楽バンドは難しいことやれるいい機会なんだけどね。でも難しいってだけなら他にもたくさんあるしさ。やったことないってのが最近ない気がして。これなんか丁度いいかもしれない」

「変拍子的なヤツですか?」

「うん。やったことないかな。こういう難しさってみんなやりたがらないし」


 色んなジャンルに精通してる八代先輩だ。

 大抵のパターンは叩いたことがあるだろうし、技術も身につけている。

 それがあるからこそ、単純に興味もあるだろうし、新しく思うものに手を出したくなるのかもしれない。


「挑戦してる時が一番楽しいからね」


 八代先輩は爽やかな笑顔でそう言った。

 物事に夢中になって、本気で楽しんでいる人の顔だった。


「はは、すっごいわかります。俺、今全部がそうなので」


 今ならわかる、そんな気がしてそう答えた。

 わかったついでか、ふと思いついたことが一つ。


「八代先輩とめぐる先輩もすっごい似てますよね。考え方というか、真面目さというか……ストイックさとか特に八代先輩譲りな気が」

「ん~……確かにそうかもね。随分尊敬してくれてるけど。でもあの子の方がずっと頑張ってるからなぁ」


 自分も八代先輩とは長くバンドをやっているし、考え方が色々と見えてくるに連れて思ったことだ。

 八代先輩の部活へのスタンスや先輩として導いてくれる姿は理想的で、月無先輩もそれを追っているように見える。

 月無先輩本来の気質がそうであるのも確かだけど、八代先輩が理想の先輩像なのは間違いない。


「でもまぁそうだなぁ。あの子何でもできるじゃない? だから負けてられないなって思って去年とかはすっごい練習したな。それで結局めぐるも一緒に練習したり。一緒にいる時間が多い分、良くも悪くも参考にしてくれてるのかもね」

「なるほど……八代イズムの継承者的な」

「アハハ、そんな大層なもんでもないけどね」


 謙遜してはいるけど、一番身近にみた努力家の先輩の姿に尊敬を抱かないわけはない。そしてそれは自分もよくわかる。

 部活というものはこうやって先輩から後輩に伝わって廻っていくんだろう。

 想いを繋げて受け取って、人によってはやりきれなかったものを託したりもするかもしれない。


「まぁさっきの曲、白井もめぐるも好きなら曲決めで出してみようかな。ゲーム音楽だなんて誰も思わないだろうし」

「楽しみにしてます!」


 なんて最高なことだろうか。

 自分のお気に入りの曲を、尊敬する先輩達のバンドが演奏してくれる。

 きっと部活の一番の醍醐味の一つでもあるだろうそれを、一年の時分で体験できるとは。


「アハハ、喜んでくれて嬉しいよ。……でもまぁもしやるとなったら、めぐるばっか見てないで、変拍子のとこはドラムもちゃんと見てよね」

「もちろんそこは必ず。絶対見逃しません」

「アハハ、よろしい」


 演奏をしっかり見ることは礼儀である以上に感謝を伝えることにもなる。

 でもそれ以上にライブでその時が来るのがいまから楽しみでしょうがなかった。


「……で、なんて告白したの?」


 ……ぐぬぬ。いい感じに気を逸らせていたと思ったのに。

 でもこの嫌みのないニヤニヤ顔も八代先輩の性格の象徴、いつもの八代先輩と思えて何だか安心する。


「……特別変なこと言ってないですけど」

「シチュは?」


 事情聴取かな。


「……いや恥ずかしいんで勘弁してください」

「アハハ、そうだよね。ごめんごめん」


 そう言って素直に引きさがってくれた。

 悪いようにはしないのも、八代先輩のいいところだ。


「ま、大事にしてあげなよ。めぐるには白井しかいないんだからさ。白馬の王子様みたいなもんでしょあんた。めぐるにとって」

「……そんなです? ってかめっちゃ恥ずかしいんですけど」


 状況を鑑みればそうとも取れるが……でも自分にとってもそんな人か。


「アハハ、白井に会って夢が叶ったんだからさ。素直に捉えてあげなよ」


 照れで何も返せなかったが、お互いがきっとそう。

 この人もこの人で結構恥ずかしいこと平気で言うなぁ、なんて思ったけど、全部お見通しな八代先輩の言葉に的外れなことなど一つもない。


「いつになるかと思ったけど、案外早かったね」

「……部活全部やりきってからって約束ですけどね」

「アハハ、変わんないよ。今も、それからも。私の引退までにそうなってくれてよかった」


 ハッとなった。

 今の愛する日常、軽音楽部の日々は期限付きのもの。

 永久に続くわけじゃない。


「……ずっと一緒にいてあげてね。それがあの子の一番の幸せだから」


 どれだけ月無先輩のことを可愛がってきたか、それを体現するような言葉だった。


 期限付きの最高の日々が終わっても、その先にある未来はどこまでも明るく照らせる。

 きっとそれが自分の役目。大袈裟だけど運命的なものかもしれない。

 八代先輩の想いがこもった一言はそんな風に思わせるもので、言葉を失ってしまうくらい自分の深層に響き渡った。


「返事は?」

「はい、必ず」

「アハハ、よろしい」


 澱みなく、心からの返事をすると、八代先輩は安心したような表情でアハハと笑ってくれた。


「ふふ、それでいいんだよ。あんたの場合めぐるに応えることが全部につながるんだから……それでいいの」


 全部わかられてしまっているが、本当にそう。

 それでいいし、それがいい。 

 しんみりした言い方に少し戸惑ったけど、改めて思い知るようだった。


「……そーいえば曲名は? 聞いてなかった」

「あ、『夢は終わらない』です」

「……ふふ、なんかいいね」


 自分が全力で応え続ければ、月無先輩の夢は終わらない……二人でずっと同じものを見続けられたら、と心から願った。

 


「あ、ヒビキ来たね。恥ずかしい話題終わり!」


 部長の靴音が聞こえると部活動の日々に引き戻されるような気がした。


「スマン!」

「……理由は?」


 軽音楽部、そこで過ごす煌びやかな青春。

 将来の展望はどこまでも明るいけど、まずはやりきってから。


「時は戻らない……それが自然の摂理……」

「意味わかんない」

「テイルズやってる人しかわからないですよそれ……」


 楽しみなことはいくらでも増え続けるし、まだ序の口だ。


「罰として今日のバンド飯ヒビキの驕りね」

「ペナルティが具体的でキツい」


 クリアまででも超楽しいのにクリア後はもっと楽しい……ゲームを例えにしてしまうなんて随分影響を受けたものだけど、軽音楽部の日々、そして月無先輩と過ごす日々は正にそんなものかもしれない。


「じゃぁ白井に決めてもらおう」

「え、俺ですか?」

「……緩めでオナシャス」

「じゃぁ……やっぱバンド飯奢りで」

「ックゥゥーーーー」


 世話になっている先輩方にも、全力で応えなければならない。

 こんな何でもないやり取りでも貴重な一瞬に違いないのだ。


 自分がいるのは色んな想いが繋がっていく期限付きの楽園。

 一年の時分で少し早い気もするけど、全力でやることが後の世代に繋がっていくし、自分にとっては先にも繋がっていく。

 終わらない夢のために、今は限りある時間を余すことなく楽しもう。




 『メグル・ゲームミュージック』 第二部 夏編 完








*作中で名前が出た曲は曲名とゲームタイトルを記載します。

 『夢は終わらない』 ――テイルズオブファンタジア


 同名の曲が存在するので、検索する時はテイルズもセットで!




 あとがき


 ストーリー上では八月中旬ですが、夏編は一旦ここでおしまいです。

 次の秋編は少し閑話を挟んで八月下旬からのスタート。

 そしてなんと九月には合宿もあります。


 ラブコメにも一区切り、最早段階飛ばして伴侶レベルの仲を約束したわけですが、これからどうなるのかご期待ください。

 そして三年生達の想いをメインに取り上げる機会も増えますので、そちらも楽しんで頂けたら幸いです。筆者は巴とヤッシー大好き。でもやっぱり皆好き。


 が、しかし! です。


 夏編は「こうきたらこうなるのは当然だろう」というキャラの気持ちを優先して描いたので、シーンがラブコメに偏り、ゲーム音楽成分が足らずにいたのも事実。

 まだまだ語り切れていないゲーム音楽は無数にあるわけで、しっかりゲーム音楽してこうと思います。是非お楽しみに。

 「このゲームは!?」等もあれば是非!



 ちなみに余談ですが、今回登場した『夢は終わらない』。

 筆者は部活生活最後の引退ライブで一曲目に演奏した曲でもあり、もっとも思い出深い曲でもあります。

 この曲はゲーム音楽的視点で語る以上に個人的な想いがあります。


 以下はちょっとした実話エピソード。


 自分語りになってしまいますが、ご興味のある方は是非ご覧ください。



 ↓↓↓




 当時の筆者は部活でも異例のアニソンとゲーソンばっかやるバンド。

 本来はご法度ですが「実力で黙らせる」をコンセプトに相当ガチでした。

 ブラックミュージック寄りの、うちの部活らしい曲をやるバンドも組んでいたので、最上級生としての体裁は保ってました。じゃなきゃ流石に許されない。

 ちなみに筆者はアニソンも大好きです。

 

 このアニメ&ゲームバンド、通称「アニゲーバンド」で好きなものを全力で遠慮なしにやりました。

 うちの部活はアニソン(笑)みたいな風潮もありましたし、サブカル音楽は他の部活がやるもので、うちでそういうのはやらない、というのが伝統でもありました。

 筆者はちょくちょく機会があればゲーム音楽インストはやってたので「そっちの人」って認識されていたんですけどね。というか完全にゲーム音楽キ○ガイで有名でした。機会があればいつかそのエピソードも。


 とはいえ実際にライブをしてみればほとんどの部員は偏見など取っ払って聴いてくれましたし、本当に好きなもの、その想いが伝わったのが実感できました。

 結果として夏の合宿での部内投票も上位に入ったりと、実績に当たるものを得ることもできました。

 ちなみに投票上位だと他大学との合同ライブなど、部内だけで行う定例ライブ以外のライブ参加権利獲得。筆者は他大学の前でも臆面なくアニゲー愛を貫きました。……結果、他大学からも大ウケでした。


 無関心の部員もいましたが、それはアニゲーじゃなくても同じ。

 いいものはいい、周りの反応からただそれが証明できただけでも満足でした。

 単純に技術的に超ムズい曲ばっかに成らざるを得なかったので、それへ対する評価もデカかったんですけどね。サブカルってムズい曲多いんですよ。特に鍵盤。


 保守的なOBがやっかんで来たりもしましたが、現役のほとんどを味方に付けた筆者の暴走は止まりません。老害に口なし、なんて思ってもいましたが、結局は認めてくれる先輩方の方が多かったりもしました。


 筆者の部活はめぐる世界と同じで、同じバンドが長く続きます。

 夏バンドは八月から一二月の引退まで続きます。


 ガチでありながらコミックバンドのようなテイストで、変な曲もいっぱいやりました。

 ネタもライブ毎に仕込みましたし、バンドメンバーの後輩に無茶ぶりも沢山しました。というか曲の難しさ的にはほぼ全てが無茶ぶりでした。

 おジャ魔女ドレミをメドレーでやった時は悪夢のような難しさでした。


 それでも、本当に好きなものを全力で楽しんでいる時は何も苦じゃありませんでした。他のバンドじゃ絶対にそうはならなかったと思います。

 

 引退ライブのセットリストを決める時には本当に色々と悩みました。

 基本的にライブ毎にセットリストを一新するということは少なく(というか無理)、前回のライブから何曲は引き続きという形になるので、新しくやりたい曲を絞り切れずに難航しました。


 そんな中、後輩達が「曲増えてもいいですよ。好きなのやりましょう」と言ってくれたのを覚えています。

 ここまで演奏した曲を辿れば、難しい曲ばかりで大変なのに関わらず、です。

 筆者のワガママで組んだようなバンドでも、後輩達は最後までついて来てくれました。


 そしてセットリストは結局ほぼ一新して、選んだのがこの曲でした。


 自分の中には「好き過ぎて逆にやりたくない曲」がいくらかあるのですが、その一つが『夢は終わらない』です。

 こいつらとじゃなきゃ一生やれない、というかやらない。そう思って選びました。


 もう一曲その中から選んだのは超有名曲、デジモンの『Butter-Fly』です。

 和田光司さん好き過ぎてドン引きされるくらい好きです。命日には毎年カラオケで追悼式やるくらい好きです。

 ちなみにこの曲はメッチャ簡単。最早練習中の息抜きレベル。


 引退前最後の練習はとても感慨深く、『夢は終わらない』の練習中にボーカルの子が泣きだしたりもしました。

 曲調も曲名も、その時の彼女の感情を溢れさせるものだったのかもしれません。

 「このバンドが終わっちゃうのがホントに淋しくて」と涙ながらに言っていたのを今でも覚えています。


 部活でのライブは全て最高の思い出でしたが、引退のライブは格別でした。

 感極まる想いで弾ききりました。

 アニゲーバンドで他大学との合同ライブに出た時に仲良くなった、他大学の人達もわざわざ見に来てくれました。

 鍵盤の後輩達もステージ上の私の前に集まって聴いてくれて、先輩としての集大成を見せてあげられたような気がしました。


 ちなみにギターの後輩の『Butter-Fly』のソロが酷過ぎて何があったのかと思ったら、涙で前が見えなくて弾くどころじゃなかったそうです。

 世話の焼ける後輩達で根性無しな一面を叱ることもありましたが、多分、こいつらが見せたのはこの世で一番綺麗な涙なんじゃないかと思いました。

 これ以上に先輩冥利に尽きることなどきっとありません。

 部活である以上、未練やいざこざでやりきれない人もいる中、私は最高の形で引退を迎えました。


 間違いなく人生で一番の思い出の一つ、そんな一幕に深く関わったのが今回の話で取り上げた『夢は終わらない』でした。

 差別や偏見を吹き飛ばす、そんな体験をしたバンドで最後に選んだ曲。

 そして引退ライブのセットリストで最初に演奏した曲でした。


 ちなみにテイルズ好きの同輩が一曲目だというのにメッチャ泣いてました。

 選曲としてはドンピシャで、この曲以上の選曲はなかったと思うほどでした。


 引退ライブ後のオール呑みはまた涙なくしては語れないのですが、それはまたの機会に。


 綺麗事ばっかかよオメェみたいに思われるかもしれないですが、筆者はむしろ「うわ何泣いてんだコイツウケるww」くらいに思うことの方が多く、やりきるまでは理解できませんでした。

 単純に、否応なしに感動してしまうくらい素晴らしかっただけだったりします。

 むしろ部活の体験によって大分ものの見方が変わったのかもしれません。


 色んな想いは作中に込めていきたいと思っているので、是非、以降も楽しんで頂ければと思います。

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