幕間 生産性のない話題


 夕飯を八代先輩に御馳走してもらうことになり、それまで月無先輩と部室で色々と話して時間を潰す。

 バイト終わりを待ち、夕方に合流するという手筈だ。


 八代先輩手ずからの料理は本当に楽しみで、既にその味を知っている月無先輩は、


「ヤッシー先輩ほんと料理上手いんだよ! ふふー楽しみにするのだ!」

 

 とテンションもダダ上がり。


 普段の姿からスポーツ女子の印象が強い八代先輩の、家庭的な一面が見られるとなれば、内心こっちもテンション上がりまくりだったりする。


「そういえば八代先輩ってバイト何やってるんです?」


 運動とバンドの印象ばかりで、他のことは何も知らなかったりする。

 他の人のバイトは結構知っているが、意外にも三年生では一番よく話す八代先輩のそれは知らない。


「ん? UNIQL○だよ」


 伏せ字意味ねぇな。


「……もしかしてあっちのあのデッカいとこ?」

「そうそう!」


 しかも行ったことある店だった。

 ……しかしなんというか。


「八代先輩、ファッションってイメージないから意外ですね。……あ、でもユニク○だしファッションって感じでもないか」


 大抵いつもジャージかスポーツウェアみたいな動きやすそうなのばっかりだから、そう言うものには興味がないように思える。


「あ、失礼なヤツ~。バイト中のヤッシー先輩、オシャレさんだぞ~」

「マジか……ぶっちゃけファッションに興味ゼロだと思ってました」

「でも大抵シンプルだけどね。超カッコいいよ。イケメン」


 でも言われてみれば、ジャージも良さげでカッコいいのを何枚も持ってるし、ファッションセンスはむしろ高そうだ。

 フォーマルな格好をまるで見たことがないから想像したこともなかったけど、元はかなりの美人だしボーイッシュな外見を活かしたら確かにカッコいいに違いない。


「滅多に見られないけどね。いつも動きやすさ重視って言ってるし」


 ……もったいない。

 しかしまぁ、何度か話題になって思い知らされるが……


「軽音って土橋先輩除いたらカッコいい枠もイケメン枠もトップは女子ですよね」

「カナ先輩カッコよすぎるしヤッシー先輩は中身もイケメンだもんね。氷上さんカッコよくてもネタキャラ枠だし」


 やっぱ皆そういう認識っていう。

 ってか相変わらず氷上先輩ナメてんな。


「男衆情けねぇ……俺もですけど」

「うん、もっと頑張りなよ」

「辛辣」


 いやでも待てよ、言わせておくだけも癪……というかアレだ。

 ぶっちゃけすぎな気もするから多少オブラートに包みつつ……


「めぐる先輩ってあんまりオシャレ気にしない人です?」


 ファッション興味ゼロにしか思えなかったりする。

 普段着は似合っているけど、最低限感がある。


「う……だってわかんないもん。たまにヤッシー先輩達とお買いもの行くけど」

「いつも2Pカラーくらいの差しかないくらい似た格好ですもんね」


 シャツにショートパンツと黒タイツがめぐるスタイル。

 可愛いのだが、羽織るもののパーツ以外はほぼ常にこれだ。


「ぐ……正直自分でもそう思ってる。夏場は特に……」


 割と図星だったようで、微妙に居心地悪そうだ。

 ちょっと調子に乗りすぎたか、ダメだしというわけでもないからフォローせねば。


「でもライブの時の格好とかカッコいいじゃないですか」

「ほんと!? でもあれはカナ先輩が一緒に選んでくれたからね~」


 なるほど、オシャレトップ勢の冬川先輩によるコーディネートと。


「カナ先輩、巴さんの服とかも選んであげてるから」


 確かに巴先輩もずぼらそうな割にはオシャレな格好、そういうことだったのか。

 ……あ、ついでに聞いてみよう。


「ちょっと前から気になってたんですけど、あの二人ってどういう関係なんです?」

「え、高校から一緒で~」

「あ、なんかそういうのじゃなくて……なんか仲良過ぎな気が」

「あ~……。あんまり触れない方がいいんじゃないかな。噂というか話題にはたまになってたけど、誰も聞けないんだよねそれ」


 なるほど大体わかった。

 月無先輩も同じように思っていたようだ。


「でもいいよね~巴さん。自分で考えなくても全部選んでくれる人がいるから」

「……自分で選ぶ気ないんですね」

「だってゲーム音楽する時間減るじゃん」

「……さいですか」


 まぁ月無先輩らしい考え方だ。

 それよりも重要なことがあって、それに全力なら時間をかける余裕などないと。


「軽音男子もオシャレって人少ないよね~。白井君もザ・普通って感じだもんね」

「ぐ……それを言われると」


 自分も自分で、向かった矛先の代表のようなもの。

 正直ファッションはわからないし、いつも適当に買ってるし、デザインよりもモノ持ちのよさとか機能性ばっかり考えてしまう。

 そして何より、


「金かけるのもったいない気がして」

「それね」


 大体似たような趣味の人は同じ考えなのだ。


 しかし気を遣ってる人も何人かいるし、大学生なら普通はそうして然るべきなのかもしれない。

 何より自分でもわかっている。

 『金がもったいない』は言い訳にすぎないということを……!


「ダサくなければいいんじゃないかな?」

「そうですよね」


 結局ファッションに興味ない二人、同じ妥協案で蔑ろにした。



「とりあえず英語書いてあるのはダサいよね」

「あぁ……謎英語Tシャツ。椎名よく着てんな」

「……ダサいよね」

「あいつ高校生レベルから成長してないんで。この前Actuallyって書いてあるの着てましたよ」

「フフッ……アクチュアリー……。実際って」

「こう、胸のとこに大きく『Actually』ドン! 実際! って」

「ブフッ。実際! ……ダッサ。フフッ、アハハハ!」


 ネタにしてすまねぇ椎名。しかしダサいんだ。

 この最高の笑顔の糧になったことを誇ってくれ。


「フフ、だっさぁ~。椎名君面白~……クッ、アハハハ!」


 ……でも笑い過ぎじゃね。足バタバタさせてるよ。


「しかしあれだね」

「急に素に戻った」

「二人とも興味ないせいか微妙に弾まないねこの話題」

「正直グッダグダですね」


 なんというか、ここまで生産性ゼロだ。

 ちょくちょく人に話題を移して間は持っているが、ファッションそのものの話題には全く踏み込めない。

 謎英語Tシャツをディスることで自分達は下層ではないと暗示をかけ、しょうもない自尊心を保っただけである。


「……あれですよ、適材適所」


 こういう時は四字熟語が便利。なんか解決した気になれる。


「あたしらにはまだ早いってワケね……」

「いや多分逆。もう遅いんすよ」


 今更ファッションの勉強なんてする気も起きないし、センスみたいなのも自分にはないし……その辺は詰んでる。

 月無先輩がそれを気にしない人なのは僥倖だが。


「まぁ冬川先輩とか元々カッコいい人は自然と何着ても似合いますし。土橋先輩もTシャツ来てるだけでカッコいいし」

「だよね~……ズルい。生けるファッションだよねもう」


 身長やらスタイルやらのアドバンテージがある人とも違うというわけだ。


 そして何やら思い当たる人の名を挙げ始めた。


「吹先輩は何着ても神々しいし~」


 わかる、何着ても神衣に見えるからファッションとかの次元じゃない。


「スーちゃんは可愛いのわかってる服装ちゃんとしてくるし~」


 うむ、確かに自身を良く知った格好。

 低身長を上手く活かしつつ子供っぽくなり過ぎないように仕上げている。


「ヒビキさんは実際すっごくオシャレだし~」


 そうなんだよなぁ……。

 ネタキャラつき通してる割にはオシャレでカッコよかったりするんだよなぁ。


「氷上さんもベストとかああいうファッション似合うよね~。意外と格好気を遣ってるんだよな~アニオタのくせに」


 細身の高身長を活かした格好。

 しかし氷上先輩ナメすぎだし多方面を敵に回すんじゃあない。


「なっちゃんとかも可愛い格好してるしなぁ……」

「清水寺トリオも割とオシャレですよね。水木先輩もこの前オシャレさん発覚しましたし」

「そうなんだよねー。よく三人で買いもの行ってるし」


 一年男子は……川添くらいだな、そう言えるの。

 小沢はシンプル一直線だし、バカも普通、椎名はActuallyと。


「一年男子はみんな普通って感じですかね……」

「そうだよ! 一年男子もっと頑張らなきゃだよ!」

「えぇ……あなたが言うんです? 今さっき二年女子、大抵オシャレで名前上がりましたよ」

「……よく考えたら、あたし取り残される?」


 何か凹み始めたし。

 ダサいわけじゃないし別に気にしなくてもいいのに。

 しかし自分もそうだが、改めて思うと本来大学生なら気を遣うべきものに完全に取り残されてる感。


「オシャレって……何?」

「……さぁ?」


 考えるほど自分もちょっと凹んできたし、月無先輩と自分、オシャレ偏差値の低い二人で話していてもオシャレがゲシュタルト崩壊を起こすばかりだ。


「むー……。あ! あたしにいい考えがある!」

「死亡フラグじゃん」

「ヤッシー先輩のバイト先行こうよ! コーディネートしてもらおう!」

「なん……ですと。……妙案」


 そんなこんなで本当にバイト先に突撃することに。

 どうせ夕方まで時間はかなりあるし、グダグダな状況を打破するにはいい案だろう。


 §


「ゲームキャラみたいなのもちょっと憧れるよね~」

「大抵のキャラの服装、実際いたら超イタいですよ」

「でも好きなキャラのやってみたいじゃん! FFとか」

「コスプレじゃん……」

「白井君ちょっとやってみたら? FF好きだし」

「絶対イヤです」

「こう、紺色のマント羽織って……」

「中二病でもやらんですよそんなん」

「クワガタみたいなツノついた紺色の甲冑来て……」

「ファッションの話どこいったし」

「参れ黒竜!」

「ゴルベーザじゃね」


 まるで生産性のない冗談に終始しながら八代先輩のいるUNIQL○へ向かった。





 隠しトラック


 ――更に凹む者達 ~UNIQL○道中にて~


「FFって女性キャラも結構マズい格好ですよね」

「うん、大抵無理。憧れるとは言ったものの無理」

「リノアとかがギリですかね」

「だね~……他はちょっと」

「実際いたら痴女ですもんね」

「うん。……羞恥心ぶっ飛んでるよね」


「あ、でも先輩ユフィとか合いそう。イメージ近いし」

「あ~、あの肩アーマー憧れるよね」

「そっちかよ。服装じゃないんですか」

「だっておへそでてるじゃん……」

「まぁそれもそうか」

「ユフィは大好きだけどね」

「あ、俺も。FFで一番好き」

「ほんと!? あたしも! ……でもメガネじゃないんだ?」

「FFってぶっちゃけメガネキャラいいのいない気が」

「……わかる。メガネ好きでもそう思うんだね」


「あ、メガネもファッションの一部って考えは」

「あたしそれわからないんだよな~……巴さん色々持ってて楽しんでそうだけど」

「実用的な見方しかしてないパターン」

「うん、目疲れちゃうし。一緒に選んでくれたんだけど、どれが似合うかは自分ではわからなかったなぁ」

「なるほど……」


「しかし思ったんですけど」

「……多分あたしも気付いてる」

「ほんとファッションの話できませんね俺達」

「うん、結構前からゲームの話題に逃げてたね」

「メガネに切り替えても一瞬で潰しましたし」

「うん、ごめん。……でもマジで何話せばいいか全くわからない」

「ファッション語彙がなさすぎて広がりようがないですね」

「ブランドも全然知らないしね」


「「はぁ……」」

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