幕間 ルート分岐 後編
前編の運命的なあらすじ
部会に集まる軽音一同。二日後の合同ライブ当日には準備を頑張る男子に女子が弁当を作るという素敵なイベント。
そして白井はペア決めのくじ引きで、見事この機を逃し男×男のホモ弁を引き当てる。ざまぁ。
部会後は大事な話をするために気を取り直して巴達と集合。
結局良い方向に解決し、安堵したところに八代月無コンビの襲撃に合う。
「なんか真面目そうな話してたからめぐると観察してた」
八代先輩と月無先輩合流。
月無先輩が声に出さずに「終わった?」と言ったので、首肯した。
「白井君がかけもちするんだって~」
「へ~、いい度胸だね白井」
やめて下さいめっちゃ怖いから。
しかも今からあなたを誘おうとしてたところなんです。
「でもいいんじゃない? しっかりこなせば上手くなれるし」
八代先輩も冬川先輩と同じようなことを言う。
実際、月無先輩と自分しか鍵盤パートはいないのだし、それは部全体からも求められることだ。
「で、いいの? 白井君、言わなくて」
冬川先輩が促してくれた。
雑談する空気に逃げて言い出さないのもいけないと、そう言ってくれているような気がした。
「あの、八代先輩、真面目な話なんですけど……」
「……え、何告白?」
「白井君その言い方やめた方がいいよ~」
クスクスしないでくれ……。そして二人して同じ反応返さないでください。
「夏バン、一緒にやってくれませんか? 俺のもう一つの方なんですけど」
言った。言ったぞ。
八代先輩だけでなく月無先輩も驚いたような顔をした。
あとは返事……。
「そうだな~……。どんなバンドやりたいの?」
即答はない。それはそうか、全く詳細がないのでは承諾しようがない。
「ヒビキさんとただバカ騒ぎして楽しむバンドやろうってなって。あとのメンバーは椎名と林田なんですけど……一年の」
正直言って、八代先輩に受けてもらえなかったら意味がない。それくらい重要だ。
「掛け持ちは別にいいんだけど~……。白井はそれ、本気でやりたいと思ってる?」
核心を付くような質問、というよりただ聞き出しただけかもしれない。
自分の意思をもっと具体的に伝える必要がある。
「最初にヒビキさんがそう言い始めて、本当に楽しそうだなって。誘われたからとかでなく、自分から。それでお祭りみたいなバンドやるってなったら、八代先輩以外に思い浮かばなくて」
ヒビキさんでなかったらとは思うが、自分からやりたいと思ったのは事実。
頭をカラッポにして音楽を楽しむ、そんなバンドもやってみたい。
そのためにはドラムは他に思い浮かばなかった。
ヒビキさんの言葉は借りずにそう伝えた。
「八代、俺からも頼む」
土橋先輩がそれに同調してくれた。
予想外の援護だが、ここまで心強い言葉はない。
こちらの言葉を確かめながら、少し考えて八代先輩は返事をくれた。
「いいよ、やったげる。白井が本当にやりたいって思ったんだったら、断るわけにはいかないよ」
本当に嬉しい言葉だった。月無先輩がよかったね、と目で合図をくれる。
「土橋にまで言われちゃったらね。認めさせるなんて大したもんだよ」
「白井君、国境の壁も超えたね~」
超えた記憶はないが助かった。
感謝を述べると、土橋先輩はまた控えめに笑った。
ブラジリアンスマイルほんとカッケェ。
その後は六人でしばし雑談。
巴先輩とのバンドは実際の曲決めをお楽しみにとのこと。
そして八代先輩が部会でのアレに触れた。
「でも何故か当たる気がしてたけど、見事にホモ弁引いたね白井」
「あ、あたしも思ってました! これ白井君行くなって」
……ヒドいや。
しかし予知能力者かあなたたち。
「そのことはもう……。結局二人共準備に参加して、昼飯は適当に食おうって決まりましたよ」
成り行きを説明すると、それは可哀想と、ガチでいたたまれない空気になった。
たかが弁当なのになんだこの感じ。同情が辛い。
「誰か作ってやったらいい」
……今なんと、土橋先輩。イケメンの度が過ぎますぞ。
「そうだね、可哀想だし私作ってあげよっか。免除だったし」
「いいんですか!?」
好きです八代先輩。というか八代先輩もイケメン度ほんと高いな。
「あ、でも~……。ここにいる四人でジャンケンだな。その方が面白いでしょ」
え、と全員の目が八代先輩に向く。そして巴先輩が今度は口を開く。
「じゃぁそうしよう~。奏は午前中用事あるし料理下手だから~、私とヤッシーとめぐるの三人ね~」
「余計なこと言わないで」
冬川先輩料理下手なのか……。意外、そしてなんか可愛い。
しかし代表バンドの方は冬川先輩に限らず当日忙しいのでは……。
「忙しいのは奏とヒビキくらいで後は皆ヒマだから~」
むしろ弁当作らなくていいから、ギリギリまで寝れてラッキーくらいに思っていたそうだ。それなら遠慮なく厚意を受けられる。
「よし、じゃぁジャンケン負けたらね」
誰でも嬉しいけど……。そしてジャンケンが始まる。
あいこ、あいこ、そして負けたのは……。
「負けたー。結局私かー」
「言いだしっぺの法則ですね! フフッ!」
八代先輩。一人暮らしだし、料理の上手さは期待できそうだ。
「ヤッシールート突入だね~」
だからなんでさっきからギャルゲーみたいな言い方するんだ。
そして食べ物の好みは何かと聞かれたので、何でも嬉しいと返した。
「なんでもか~。それも困るんだけどね」
では……と考えていると、巴先輩が口を開く。
「土橋って一年の時ヤッシーじゃなかったっけ? その時なんだったの~?」
一年の時は褐色コンビだったのか。
作る人の前で聞くのもなんだが、有益な情報かもしれん。
「白米敷き詰めた上にハンバーグドンドーン! だ」
「男らしい」
「しかもタッパだ」
「だって弁当箱とか持ってなかったんだから~」
土橋先輩、案外面白い人かもしれない。
しかし下手な男子よりも男らしくスポ根的なところのある八代先輩、何故か納得できる。
恥ずかしい過去なのか、珍しく照れるようにする八代先輩も新鮮だ。
「……それでいいなら容赦なくそうするけど、どうする?」
無茶苦茶重そうだな……でも要求するのも悪い。
それでお願いしますと答えてメニューは決まった。八代バーグ、楽しみにしよう。
「そういえば林田君も弁当なしだね~」
そういえばバカもそうだ。しかしバカにこの三人の弁当などもったいない。
豚に真珠、猫に小判、バカに弁当だ。
「誰か作ってあげてもいい人~」
巴先輩が挙手を求めるも、誰も手を挙げない。可哀想。
「めぐるは~?」
「イヤです」
可哀想。
すごい即答ぶりだけど、まぁ自分の時間奪われるの嫌いそうだしな。
月無先輩がネガティブな言い方するのは珍しいけど、即断したあたり本当にイヤなんだろう。
「どうせヒビキが作ってくれるんじゃない? 朝から現地にいるハズだし」
「夏バン一緒になるしね。料理好きだしヒビキ」
冬川先輩も八代先輩もまるで他人事。ちょっと笑えるが本当に可哀想。
……この人達と仲良くなれてて本当によかった。女子怖い。
そんなこんなで、全てがいい方向に向かった。
掛け持ちの許可、八代先輩勧誘成功と二つの高難度ミッションクリア。
それだけでなく八代弁当というボーナスまで。合同ライブ当日が本当に楽しみだ。
隠しトラック
―― 呪いの弁当 ~帰りの電車にて
「林田、元気出せよ。見事に白井の巻き添えくらったな」
「うるせー。川添はいいよな夏井ちゃんで」
「なんかスマン」
「……オレなんか悪いことしたか?」
「……強いて言えばバカなのが悪いことかと」
「バカじゃねーし」
「早速バカじゃん」
「あ、ヒビキさんからラインだ。……え、マジかやった!」
「どうしたん?」
「ヒビキさんがオレの弁当作ってくれるって!」
「おぉよかったじゃん。結局ホモ弁だけど」
「料理上手いらしいから嬉しいわ!」
「……お、夏井ちゃんだ。何が好きですかだって」
「うらやましいわそのやりとり」
「あ、また来た。どれくらい食べますかだって」
「いい子だなー夏井ちゃん」
「てか質問どんどん来るんだけど」
「いつもどおりじゃん」
「え、何だこの質問責め」
「見して。……細かいな夏井ちゃん」
「白井は聞かれたくない話題でこれ食らったのか……」
「あれ、オレにも来た。川添さんって何が好きなんですかねだって」
「怖いってもう。あ、小沢からだ。うわ……」
「なんて?」
「お前食べ物何が好きなのって」
「もう呪いじゃん」
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