新たなる世界 後編

 前半の新たなるあらすじ


 部室でロックマン2をするめぐるに遭遇。

 鼻歌交じりにゴキゲンにゲームをするめぐるをガン見するキモい白井。

 結局一緒にやることになり、二人でロックマン3を始める。

 めぐるに大分毒されたか、曲のことに集中する白井。そして昔のゲーム音楽の魅力についての話題となり、話は弾んでいく。


 

 

 先輩はいつものウォークマンをスピーカーにつないだ。

 これから流す曲だろうか、いつになく上機嫌に鼻歌を歌っている。


「そういえばこの前のフュージョンアレンジのもすごいよかったですよね」


 氷上先輩にも気に入ってもらえたあのアルバム。

 あれも色んな音色の魅力が詰まっていたし、フュージョンというものを知れて最高だった。


「あれも本当いいよね! でも今から聴くのはもっとゲーム音楽って感じだよ。原曲忠実でありながら、さらに進化させた電子音楽の最高峰!」


 ものすごくハードルが上がっている。

 そこまで言うなら期待外れもないだろうが、その完成度はいかほどなのだろうか。


「じゃぁ~……。3ならスネークマンから聴こう! よし、まずは原曲から」


 そう言って曲を流し始める。

 

「なんかこの独特なメロディラインいいですね」

「うん、これ大好きなんだ!」


 特徴的なメロディと、存在感のあるベースライン。

 わかりやすいカッコよさといった感じで、耳に馴染みやすい。

 フレーズごとの噛み合いも見事だ。

 何より、やはりメロディの音色だ。要所でかけられるビブラートが電子音のよさを引き立てる。


「ふふ、気に入ってもらえた? そして今度はこれのアレンジ版!」


 そして流されたアレンジ版。


「おぉ……迫力スゴい」


 一発目の音から驚くほどカッコいい。

 全て電子音、シンセサイザーの音だが、ここまでカッコよくなるものなのか。それを知り尽くした人にしか作れなそうだ。

 メインフレーズはループしても音色の変化や、細かなフレーズで曲の抑揚が完璧にコントロールされているし、装飾的な音のいちいちが、電子音の世界に引き込む。


 生演奏の音楽とは全く違う世界、電子音楽の世界。

 いくらでも応用の利くシンセサイザーだからこそ作れる最高の音楽に違いない、そこまで思える出来だ。

 とりあえず生音でアレンジ、なんてのが愚かな行為にさえ思える。

 それほどまでにこの曲の『電子音から電子音』の現代アップデートは素晴らしい。


「これなら納得のアレンジです……」

「お、感動してる!」


 それだけ言って、先輩はニコニコと笑顔を作った。


 先輩は自分が曲に聴き入っている時は決して邪魔をしない。

 話したくてウズウズしていそうな感じもするが、それをしない。

 もしかしたら自身のことよりゲーム音楽の方が大事なのかもしれない。


 曲が終わるとすぐさま口を開いた。


「白井君に納得してもらえて嬉しいよ~」

「他の曲もこんな感じです? このアルバム」


 全部このクオリティだったらとんでもない名盤だし、ゲーム音楽らしさを尊重しながら完璧なまでにとして成立している。。


「二枚出てるけど、曲によるよ~。今の気に入ったなら、次はこれだな! 一枚目の曲!」


 二作出ている一作目の方。

 ロックマン2のフラッシュマンの曲。


 ……やはりカッコいい。

 スネークマンと違って、よりゲームっぽいというか、電子音らしい電子音。

 しかしまるで安っぽくない重厚な存在感。

 フレーズ自体のよさもあるが、ぶっちぎって音色がカッコいい。

 いくらでもトランスして聴いてられそうだ。


「え、スラップだ」

「これズルいよね。いきなりスラップ入れてくるとか」


 ベースのスラップ(弦を叩くようにして弾く奏法)が出てきた。

 いきなりの生音らしい生音に驚くが、それがまたカッコいい。 

 なるほど、こういう手法で曲にアクセントをつけるのも自在と……。

 極めてないと発想として、ましてそれを上手くミックスすることなど不可能だ。


「うわ、裏拍で鳴ってるだけなのにメチャカッコいい」

「おかしいよねここまで行くと」


 フレーズもくそもない、ただ裏拍の同音連続(同じ音階が連続すること)なのに、これまでない程カッコいい。

 音色そのものの良さだけで曲が成り立つなんて初めて聴いた。

 絶対に他の音では代替できない、そこまで完璧にハマっている。曲が終わるってもしばらく頭に残る、それほどまでに印象的な音色だった。


「ふふー、思い知ったかね。音色表現の真髄を!」

「正直ナメてました。音色一つでここまで曲が決まるなんて……」


 その後もアルバム『We are ROCK-MEN!』の1と2の両方を二人で聴いて楽しんだ。

 生音を使ったアレンジにしても、それどれもがフレーズと最高にマッチしていて、音色による曲の良さを十全に堪能できるようなものだった。


「やっぱバンドでも音作りってすごい重要なんですね」


 ライブを経て、少しは意識するようになった。

 部員の演奏を聴いている時に、この人の音カッコいいと思うような経験もあったし、新たに芽生えた意識でもある。

 月無先輩の弾く音色がどれも完成されたものなのはよくわかる。

 しかしそれがどれだけすごいものかは、今日のこの体験なしでは気付けなかった。


「そうだね~。上手い下手と同じくらい重要だよ。音ダサいの聴いてられないし、むしろあたしはそっちの方が気になる」


 ……結構ずばっとものを言う。

 しかし確かにそうだし、先輩は多少下手でも音がひたすらカッコよければそれもその人の実力だと言う。


「氷上さんとかほんとすごいよ。あたしの知ってる人では一番音作り上手いもん」


 そうだ、まさに氷上さんだ。

 代表バンドの曲ではギターが目立つ曲はほぼなかったが、とにかく音色がカッコよかった。


「この前やった曲なんてギターほとんどいないようなもんなのに、音作り一つであれだけカッコよくできるんだから。しかも出過ぎないで存在感出すからスゴいのよ」


 月無先輩が他の人をここまで褒めるのは中々ない。

 こだわる点が似ているからこそ、その実力のほどがよくわかるのかもしれない。


「ギタリストの人は音作りとにかくこだわるからね~。フュージョンなんて特にそうだし」

「大丈夫かな俺……。夏バンでめっちゃ言われそう」


 意識したことがあまりなかったから、ものすごい数のダメ出しくらいそうだ。

 しかし月無先輩の反応は意外なものだった。


「ん? 大丈夫だよ。だって白井くんのSV-1、音作りするまでもないもん。元からすごくいい音出るから」


 確かに買うときにそう言ってもらった記憶がある。

 ……ここまで見越していたのか。


「それに白井君、音の選び方上手いよ。センスだけであれだけ出来れば十分だよ」


 センスを褒められたのは初めてだ。

 才能のように思うのは自分では判断しかねるが、すごく嬉しい。


「ゲーム音楽ファンだからだね! ふふ!」


 ゲーム音楽で色んな音色のイメージが無意識についているとのこと。

 そんな都合のいいことあるかとも思うが、確かに種類は色々聴くわけだから、意外とそうなのかもしれない。


「もしSV-1で足らなくなったら、あたしがデジタルシンセの使い方教えてあげるね。音作りに興味持つのは大分先だと思ってたけど、結構早かったね!」


 おぉ嬉しい。でもそれも結局ゲーム音楽、そして月無先輩のおかげだ。

 ゲーム音楽から得たものがバンドに活きることを考えると、少し運命めいたものすら感じる。


 そして一つ、自分の中で具体的になったことを伝えた。


「エレピのソロも最高でしたけど、一回めぐる先輩が本気で作ったシンセのソロ見てみたいですね」


 これはただの願望で、本気でゲーム音楽好きなこの人が、それらしい音色を本気で作るとどれだけカッコいいか、今日の話でいつになく興味が湧いた。


「ふふ! 嬉しいなぁ。そう言ってくれるの。そういう曲やる機会が出来るといいね!」


 絶対に来るはずだ。

 夏合宿のお楽しみライブでゲーム音楽バンドが出来れば。

 仲間集めの目標もより鮮明になった気がする。


「あ……。でもちょっと難しいかなぁ、なんでもない」


 思いついたが言わない。何だろうか。

 すごく気になるが詮索するのもよくないし、多分ゲーム音楽バンドのことだろう。



 気づけば時間はかなり経っていた。

 月無先輩も練習前に一度家に帰らなければならないと、二人で部室をあとにした。


 演奏技術とはまた違う、音色という世界。

 それ一つでどれだけ曲が左右されるか、それを思い知った。

 追求するには果てしない道のりにも感じたが、これから先の軽音生活で確実に必要になっていくもの。

 夏バンドを前にしてそれを知れたのは僥倖、改めて、ゲーム音楽、そして月無先輩には感謝だ。


 ……それにしても鼻歌歌いながらゲームしてる月無先輩可愛かった。

 秋風先輩が、ゲームをしている月無先輩を見るのが好きと言っていた理由がよくわかった。


 §


 帰り道の川沿いを一緒に歩く中、先日部長と話した内容に触れた。


「あの……。夏掛け持ちってアリですかね。サポートみたいな形なんですけど」


 すると先輩は少し考えたあと、言った。


「それはあたしに聞くことじゃないよ」


 予想外、というか当然か。

 本気で考えろと言った部長の言葉が蘇った。


「決めるのは白井君だからね。巴さんとカナ先輩には言ったの?」

「いえ、まだです」

「じゃぁまずそっちに聞かないと」


 ……順序が違った。

 でも実際メールなどでは訊く勇気がなかったのもある。


「ちゃんと話し合って決めたほうがいいよ。あたしとじゃなく」


 月無先輩が言うことはもっともで、諌められるような思いがした。

 しかし同じパートだからこそ訊きたかったこともある。


「でも正直に、めぐる先輩から見て実力的に可能かどうか……」


 不安の大部分、キャパシティの問題。

 やってみてダメでした、は許されないし、自分がクリアできるかの客観的な判断が欲しかった。

 するとまた少し考えて意見を言ってくれた。


「そういうことね。それなら死ぬ気で頑張れば出来ると思うよ。でもね、一つだけ。白井君は今までも自分で頑張ったし、これからもそんなことしないって信じてるけど、自分でそう決めるならあたしを頼らないこと」


 それはわかっている。

 期待を裏切るわけにはいかないし、何より月無先輩を失望させたくはない。

 言葉にする時名前はぼかしたが、そう口にした。


「ふふ、それならいいんだ! ……巴さんが白井君を選んだってこと、ちゃんと考えてあげてね」


 月無先輩でなく自分。

 その理由は今も全然わからないが、少なくともそれに応えるために全力は尽くす。


「じゃぁまたね! 明日の部会で!」


 先輩はそう言って手を振って橋の向こうに渡っていった。

 いろいろ考えることが増えた日だったが、こうした日が続くためにも、より真剣に部活に取り組む必要がある。

 それが明確になった日だった。






 隠しトラック 


 ―― 大事な話 ~ライン上にて~


白井健 『お疲れ様です。明日部会の後って時間ありますか?』


 掛け持ちの話するだけだが……緊張する。お、返信早っ。


御門巴 『あるよ~。どったの?』

白井健 『ちょっと大事な話がありまして』

御門巴 『うわ~告られる~笑』

白井健 『いや夏バンのことです』


 なんだこのやりづらさ。

 ……返信来ないな。

 ……あ、来た。


御門巴 『オッケーわかったよ』

御門巴 『みんないた方がいい?』


 あ~……。

 いた方が……でもなぁ。


白井健 『それはちょっと怖い……』

御門巴 『じゃぁ奏と土橋だけ連れて行くね』


 巴先輩と冬川先輩のバンドだしな。

 土橋先輩とも話したことないし。


白井健 『お願いします』

御門巴 『ヒカミンは怖いもんね!』

白井健 『正直……笑』

御門巴 『オッケー伝えとくね』

白井健 『ちょっとそれはマジで』

御門巴 『時すでに遅し』


 なん……だと。


氷上弦 『楽しみにしていろ』


 ヒィ!


御門巴 『今バンド飯中でした~』


 くそぅ……ぬかった。


めぐる 『生きて帰ってね』

春原楓 『幸運を』

秋風吹 『楽しそうね~』

冬川奏 『タイミング悪かったね』

ヒビキ 『草www』 


 もうなんだよこれ……。

 ……あれ? これ誰だ。


土橋鳴 『覚悟しておけ』


 土橋先輩!?

 ってか何覚悟って怖……死ぬのか俺。


土橋鳴 『ブラジリアンジョークだ』


 ……夏バン不安だなぁ。



*作中で名前が出た曲は曲名と収録アルバムを記載します。

『SNAKEMAN STAGE』―― We are ROCK-MEN 2

『FLASHMAN STAGE』―― We are ROCK-MEN

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