幕間 眠り姫と氷の世話役 後編
前編の嫉妬まみれのあらすじ
部室にてメガネのダラダラお姉さん、三年生の
そして巴を迎えに来たクールビューティー、三年生の
授業は自主休講と自堕落な巴、説得を諦めた冬川も結局部室にとどまることに。
しかし何で白井はこんなに美女に囲まれる機会に恵まれてるんですかねぇ!!
書いてるの自分なのに段々ムカついてきまし……白井の運命やいかに。
「私達は気にしなくていいから大丈夫よ。めぐるとゲームしてたんでしょ?」
冬川先輩がそう言うので、とりあえずTVに視線を戻した。
しかし後ろから感じる視線や話している内容が気になってしょうがない。
いちいち気にし過ぎなのも悪い癖な気がするが、この状況で平然とゲームをしていられるほど神経は太くない。
微妙な居心地の悪さを感じつつ、二つ目のステージをクリアしたところで一呼吸置くと、冬川先輩が話かけてきた。
「白井君、ちゃんと授業出てる?」
なんだろう、学生として当然の話題なのに大学生らしくない質問に感じる。
周囲に毒されたか……。
「は、はい一応」
「そう。よく練習してるって聞いてるから。その上めぐるとゲームしてたら授業出てないんじゃないかと思って」
……もしかしてこれ、心配してくれてるのか?
「単位はちゃんと取っておかないと三年になった時に後悔するから」
「わ、わかりました。一応今のとこはちゃんと出てる……ハズです」
「そう、それならいいわ」
えぇ……、めちゃめちゃいい人じゃん。
部内で学生生活の心配なんてされたの初めてだよ。
「うわ、
「あなた自分の一年の時の単位数言ってごらんなさい」
「あ、すいません、26ッス……」
うわ怖……。
あんなマイペースな人が声のトーンだけで黙らされた。
ってか26って少なっ。卒業までに126必要なのに。
「白井君は授業出てますよ! あたしが保証します!」
「めぐるが保証しても安心できないわよ。あなたもスーとかに比べてあんまり取ってないでしょ」
「す、すいません。38ッス……」
あぁ、月無先輩まで……。
マイペースな二人が見事に粉砕されてるよ。
「……あぁごめんね、脅かすつもりはないのよ。でもちゃんと取れる時に取っておかないとね」
「い、いえ、実際本当にそのとおりだと」
多分こういうこと言うのは巴先輩のせいなんだろうな……。
でも世話焼きというか、いい人なのはよくわかったぞ。
「この子みたいなダメ人間基準にしちゃダメってことね。軽音は単位ギリギリの人多いから」
「またまたそんなこと言って~。私のこと大好きなくせに~」
本当に仲良いんだろうけど結構ギリギリ攻めるなこの人……。
「それとこれとは話は別でしょ。あなた、私に見限られたらおしまいよ?」
「あ、はいわかってますすいません。奏さんマジ愛してるッス」
……いつまで続くんだこの感じ。
居心地の悪さはなくなったが反応に困る。
しかも月無先輩もゲームに集中しちゃってるし。ステージ結構進んでるっぽいのに交代してくれないし。……逃げたな。
§
その後もしばし冗談交じりに色々な話が続いた。
初対面の先輩二人と話せるいい機会だったし、色々と有用な話(主に単位)について聞けた。成績優秀者とその逆を対比しつつだったのでよりためになった。
二人は高校から一緒で昔からこんな感じだとか、巴先輩を更生するために部活に入っただとか、巴先輩の苗字は
「あ、俺四限あるので失礼します」
「あ、あたしも。いこ、白井君」
月無先輩は自分と先輩方の邪魔をしないよう遠慮したのか、珍しくいつものようにゲームに巻き込むようなことをしなかった。
無視するようで少し悪いことをしたかもしれない。
今日はもう少しダラダラするとソファーから動かない巴先輩と、それに呆れる冬川先輩に挨拶をし、部室を後にした。
「すいませんなんか、カービィ一人でやらせちゃって」
後者へ向かって歩く途中、いつもより少しダウナーに見えた。
怒ってはいないだろうがやはり申し訳なく感じて、言っておくべきな気がした。
「ん? いいよいいよ、巴さんに巻き込まれちゃったら仕方ないって。いちいち気にしちゃダメだぞ!」
あの二人を知っている人からすればそれもそうか。
すると先輩は少し考えるような仕草をして切り出した。
「よし、じゃぁ穴埋めに今日は白井君の奢りね!」
「え!?」
奢り? どういうこと? まさか……。
「今日ヤッシー先輩とお夕飯食べるから、白井君も来よう。白井君の奢り!」
あ、あぁ、やっぱ二人ってわけじゃないよね。
でも正直結構嬉しい誘いだ。今日はバイトもないし。
「わ、わかりました……。あんまり高いのじゃなければ」
「ふふー、よし! じゃぁ四限終わったらまた部室ね!」
機嫌が戻ったか、いつもの笑顔で手を振りながら、自分とは別の校舎に向かった。
……でも後輩に奢らせる? 普通。
でも穴埋めと言った限り、淋しいところがあったのだろうし、食事に自分が同行して穴埋めになれるのはむしろ嬉しいことか。
―― 一方その頃
「白井君、いい子だったね」
「……あなたわざとでしょ」
冬川と巴の二人が白井について話している。
「え~、何が?」
「めぐるの反応見てたでしょ? 白井君にずっと話かけて」
先程の部室でのやりとりの話。
冬川が巴の意図を問いただした。
「うん、途中からはわざと。でもさ、あの二人可愛いくない? ヤッシーにこの前ちょっとだけ聞いたんだ~。めぐるが最近楽しそうって」
「あんまり詮索しちゃダメよ? 白井君すごい真面目なんだから」
実際のところ、三年生の間で白井のことは特に筒抜けである。
めぐるが三年生全体から可愛がられているとなれば、それと仲が良く、しかも練習熱心で期待の一年生となれば上級生の話題に上がりやすいのも当然である。
巴は白井と話を続けることで、ゲームの相手をしてもらえないめぐるがどういう反応をするか見ていたのだ。
「最後さ、めぐるちょっとヤキモチ妬いてなかった?」
「……どうかしら。そういうのじゃないんじゃない? 何もないって言ってるんでしょ?」
「そうかな~。でもヤキモチ妬くめぐるって超可愛くない~?」
「それはわかるけど……悪趣味よ」
巴の行動はめぐるのことを気に入っているからであり、決して意地悪というわけではない。
愛されているからこそ、色んな反応を見られるということである。
「だいじょぶだいじょぶ、余計なことはしないから~。私はやりとり見てるだけで満足だから」
「それならいいけど」
「でも奏も白井君の反応見てたでしょ?」
「……どんな子かは知っておきたかったからね。いい子なんじゃない?」
冬川も同じく、白井のことを見ていた。
試すとは少し違うが、白井の人となりは冬川も気になるところだったようだ。
「ちょっと真面目すぎ?」
「あれくらいでいいのよ。ともが自堕落すぎなの」
少なくとも部室でのやりとりは白井にとって幸運だったのだろう、図らずも初対面の二人に気に入られる結果となった。
運の強さはあれど、白井の性格やスタンスが軽音楽部にとって適したものであることはおおよそ間違いない。
本人のあずかり知らぬところでも、関わりあいは広がり続けている。
隠しトラック
――白井スペクタクルズ ~駅前某和食チェーン店にて~
「へ~、ともにあったんだ。あいつほんっとマイペースでしょ」
「なんかもうグダグダというか掴みどころないというか……。すごい人でした。八代先輩とでもあんな感じなんですか?」
「そうだね~。でも悪い奴じゃないよ。練習とかはちゃんとやるし」
「巴さんは誰とでもあんな感じだよ!」
「すごいな……。唯我独尊ってかんじですかね」
「アハハ、眠り姫だからね~。でもライブじゃすごいカッコいいから」
「一回見たきりであんまり覚えてないんですよね」
「巴さん、他大学からも大人気だよ! メガネ外すと別人みたいに美人になるし!」
「……今なんと」
「え? 他大からも大人気って」
「それじゃなくて、その後です」
「メガネ外すと別人……」
「それは間違いです」
「何……。白井どうしたん」
「メガネをまるで邪魔のように扱ってはいけません」
「え……。まぁ巴さんメガネ似合うけど」
「そう、だから外してはいけないんです」
「そ、そうか。白井はメガネ好きか」
「メガネは最強装備の一つです」
「そ、そうか。……めぐるもたまにメガネしてるよね」
「は、はい。たまにですけど」
「どうなん? 白井的には」
「……メガネは最強装備の一つです」
「そ、そうか。……だってさ、めぐる」
「……きも」
「いやすいませんほんと冗談です。そんな目で見ないで」
「ふふ、冗談だよ」
「でも軽音メガネの奴少ないね。ともくらいかも」
「はい、だから貴重なんです」
「だからきもいって」
「ひどい」
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