何でもない一日 中編

 前編の何でもないあらすじ


 部室で行われるぷよぷよ大会。うらやましいことに春原、夏井、秋風と女子に囲まれ、場違い感に苛まれつつも楽しむ白井。

 途中で月無先輩も合流して更にうらやましい状況になると、今度は髪の話題へ。

 そしていざ語られる、めぐる兄のめぐるの髪をめぐるエピソード。

 大分ヤバい妹から大分ヤバいと言われる兄は一体どんなヤバい奴なのか。




 仲睦まじくゲームをする兄妹がいた。


「このキャラクター可愛いね!」

「あぁ……。男のロマンだよ」


 一人用のRPGだが、妹は兄がそれをするのを見るのが好きだったし、兄も妹が喜ぶので一緒にやるのが好きだった。


「ショートのキャラも可愛いけどロングの方がヒロインって感じするね!」

「あぁ……。よくわかってるじゃないか」


 兄は極度のゲーオタだった。


「めぐるはロングにしないのか」


 兄は妹を溺愛していた。


「え、やだよ。めんどくさいじゃん」

「似合うって。伸ばそうよ、髪」


 あわよくば今やっているゲームのヒロインのように。


「だって乾かすの時間かかるじゃん」

「手伝ってやるから」


 妹にもそうなってほしかった。


「いやそういうのいいって」

「絶対似合うって」


 本気だった。


「ゲーム音楽する時間減るじゃん」

「俺が乾かしてあげる間にすればいいじゃん!」


 切実だった。


「いや流石にキモいって」

「そんなこと言うなよ! 絶対似合うんだから!」


 どうしても見たかった。


「だからイヤだって。この長さが丁度いいの!」

「RPGヒロインみたいになりたいと思わないのか!」


 下心ではなく、ただ本当に、それだけ。


「思うけどイヤなの!」

「そ……。そこまで……」


 妹も頑なだった。


「そこまで、じゃないよ! もう! あたしに理想を押し付けないで!」

「め、めぐる……」


 本当にイヤだった。


「絶対伸ばさないから! 次言ったら嫌いになるから!」

「う……。う……。めぐるが……。俺を……。きら……。 

 …………ウワァァァァァッ!!!」


 妹からの初めての拒絶。


「え、何。何なの本当に」

 

 拒絶されたことに狂乱する兄、妹からすれば意味不明だった。


「うぅ……。ティ……ティファ……!」

「……?」


 おもむろに。


「雪子……。ガーネット……。フィーナ……。

 ナエさん……。アイリス……。ミレーユ……」

「うわキモッ」


 壊れた兄は繰り返した。


「ヤエちゃん……。ティア……。リン……。グラキエース……。

 ツェツィ……。ナツメ……。グートルーネ……。ミリア……」

「壊れちゃったよ」


 ただ、繰り返した。


「ヴァン・ホーテンさぁぁん!!!」


 ひたすらに繰り返した。


 憧れたロングヘアーヒロインの名を。

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