幕間 禁忌 後編 ―『ゲーム音楽十選その①』
前編の禁じられたあらすじ
白井が触れた禁忌、それはマニアに好きなものランキングを訊くというもの。
とはいえ結局ゲーム音楽の話が出来て嬉しくてしょうがない月無先輩、「めぐる・ゲーム音楽十選」という企画に胸を躍らせ、揚々と選曲する。
はたしてどんな曲が選ばれるか、そして白井に迫る生命の危機とは。
翌日、昼休みが終わった時間にめぐるは白井を呼びつけた。
「もう選び終わったんですか? 仕事早……」
「うん、気付いたら3時過ぎてたよ。でも超楽しかった!」
そういって満面の笑みを見せ、めぐるは十選が書かれた紙を白井に渡す。
「これぞ! あたしの! ゲーム音楽十選! 知ってる曲ある?」
『蛇使いブラザー』―超兄貴
『Trap Factory』―ロックマンZX
『カイナシティ』―ポケットモンスター ルビー・サファイア
『予選後半戦2』―クイズマジックアカデミーⅧ
『いせきのなか』―星のカービィ64
『Working Together』―キングダムハーツ2
『ぷよぷよのうた ゲームバージョン』―ぷよぷよシリーズ
『Seeker Of Truth』―ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ
『火炎狐に氷の刃』―がんばれゴエモン ~ネオ桃山幕府のおどり~
『工房都市ツァイス』―空の軌跡FC
それはめぐるが色んな想いを込めて選んだ十曲。
自分の思い出と思い入れが詰まりに詰まった名曲達。
それだけでなく、できるだけ白井にも喜んでもらえるよう、考えに考えて選ばれたものでもある。
「おぉ……でも曲名では……。あ、でもやったことあるのは多いからいくらかわかるかも」
「やった! じゃぁ流そうぜ~」
そういってめぐるは曲を流し始める。
いつもより楽しげに、これから流す曲を鼻歌で歌いながら。
「え、これ目茶苦茶カッコいいですね。超兄貴ってサントラ有名ですよね確か。こんなよかったんだ」
「ふふー、いいでしょこれ! しかもこれ1面っていうね」
その場で語りだしたくなる気持ちを抑えつつ、しかし暴走することはなく、出来るだけ言葉数を抑えた。
「これ懐かしいなぁ。キングダムハーツ結構好きでした。曲ほんといいですよね」
「ほんとよね。あの曲も合わせた世界観の作り方、他の人じゃ出来ないよね。ピアコレ版もあるよ」
白井の感想に応えるように、今ばかりはゲーム音楽を主役に、その邪魔をすることなく。
「あ、これりんごのテーマだ。なんかこれそういえば歌ありますよね」
「あるね。なんかずっと聴いてると頭おかしくなってくる奴」
曲ごとのエピソードなども交えつつ。
「ペルソナってこれ、格ゲー版の奴ですか? こんなに曲いいんだ」
「全部カッコいいよ! ちなみに部室にあるよ」
「お、じゃぁ今度やりましょう!」
「……うん!」
聴きながら、話が広がる。
それはめぐるにとって至上の喜び。
「ツァイスいいですよね~。これ選ぶとかさすが先輩わかってる……」
「ほんとこれ最高よね。音数少なめで落ち着いて進んで行ってサビでサックスが全部持っていくっていうね」
得られる共感はどんな言葉よりも嬉しかったし、白井が感想を口にして気に入ってくれるたび、報われたような幸福感が胸に広がった。
「いやぁさすがですほんとに。全部いいですね選んでくれた曲」
「よかった! 喜んでもらえて!」
めぐるのこれにかけた時間からすれば、白井の反応は些細なものかもしれない。
それでも本当に嬉しかったし、それ以上を求めることはなかった。
「でも意外ですね、FFとかDQとか入れなかったの」
「あ~、もちろんそれも考えたんだけどね~」
ファイナルファンタジーやドラゴンクエスト、それらの曲がいかに素晴らしいかは明白だし、良いということ自体が周知の事実。
しかし、この十選にそれらを入れなかったのは理由があった。
「その辺だと白井君絶対知ってるだろうし、すぐにわかるじゃない?」
「まぁそうですね。大抵憶えてますし」
「だからね、知ってほしい曲と~、あ、これ! ってなるような曲を選んだんだ!」
有名すぎる曲を入れなかったのはそういう理由だった。
曲を選ぶときに最終的に決めた基準、それは新しく知ってほしい曲と、知っていたとしても改めてよさに気付いて欲しい曲。
おそらく他の人にであればもっと有名な曲や、よく名を挙げられる定番を選んだ。
順位でない以上、そういう選択もある。
つまりこの十選は、白井のための選曲でもあったのだ。
「そこまで考えてくれたんですね。……何か申し訳ないです」
「うん? 何でよ。あたしが好きでやってるんだし、それに全部気に入ってくれたんだから大満足だよ!」
めぐるは本心でそう言った。
なんとなく思惑や心情を察した白井も、それを素直に受け止めて感謝した。
「よし、じゃぁもう一回聴こうぜ~」
そういってめぐるはもう一度、白井のために選んだ十選を流し始めた。
一度しっかり聴いたこともあり、今度は遠慮なく語り始めるが、白井はそれを全く嫌がらなかったし、めぐるがどれだけ嬉しいかを理解したように笑った。
「でね、この時代からシームレスに曲が移り変わる技術が発達したのよ。ゴエモンは城の曲が全部そうなっててね、場面の変化に応じて曲も変化して、単調にならずにゲーム全体をしっかり盛り上げてくれるの!もちろん曲の素晴らしさも筆舌に尽くしがたいわ!打ち込みじゃ出しづらいファンクのグルーヴをフレージングと抑揚でしっかり醸しだして最後のキメは集大成かのようにそのファンク魂を炸裂~中略~」
終始上機嫌にめぐるが語る中、部室の扉が開く。
白井はそれにしまった、という反応をするが、姿が見えるとすぐに安堵した。
「あ、めぐちゃんにしろちゃん~。お疲れ様~」
部室に登場したのは秋風だった。
暴走については知られているし、めぐるに最も理解を示してくれる先輩の一人。
秋風が来たタイミングで、ちょうどよくめぐるの語りも収まった。
「あ! 吹先輩! お疲れ様です!」
「うふふ~、楽しそうね~」
いつも以上に楽しそうなめぐるに秋風も嬉しくなる。
「今白井君とゲーム音楽聴いてたんです! あたしの『めぐる・ゲーム音楽十選』!」
すると秋風は察したように昨日のことに触れた。
「あ、昨日嬉しそうにしてたのって、これ~?」
「ふふ、バレちゃいましたか。そうです! ゲーム音楽の話が出来るから、あたしも~嬉しくて嬉しくて」
「そっか~、そうだったんだね~。……でもなんだか妬けちゃうわね」
この秋風の発言に白井は凍りつく。
めぐるは嬉しさのあまり気付いていないが、
――伸ばし棒がないことに。
少しダウナーな含みのあるトーンで言い放たれたそれ。
白井はゲーム音楽に対してだと逃げるように解釈し、聞かなかったことにした。
「私も聴いてみたいわ~、それ」
「ほんとですか!? やった! 本当に嬉しい! じゃぁ一緒に聞きましょう!!」
蛇睨みのように固まる白井に気付かず、めぐるは心の底から喜んだ。
大好きな先輩も興味を持ってくれたことは、話が出来ることと同等に嬉しいし、めぐるにとって最高の出来事だった。
秋風もそれに喜ぶめぐるが愛おしくてしょうがなかった。
その後三人は静かに曲を聴いて楽しんだ。
十選以外にも秋風の趣味に合いそうな曲を選んだりして、それを流した。
めぐるにとって、そして秋風にとっても至福の時が流れた。
ちなみに異質な緊張を得た白井はその間、ちらっと秋風を見たところいつもの女神の微笑みを返され、非常に困惑した。
先程感じたものはなんだったのか。踏み込んではいけない禁忌を垣間見たような気がしたが、大人しく思考を停止してゲーム音楽鑑賞を楽しんだ。
「あ、あたしそろそろバイト行かなきゃ!」
時間を忘れて楽しんでいためぐるがはっとなる。
「あら~、じゃぁ私も帰ろうかしらね~」
秋風もそれに同調した。
一人になるのも、ということで白井も立ち上がり、三人は部室を出た。
§
「吹先輩にもゲーム音楽気に入ってもらえてあたし本当に幸せです!」
帰り際に今日の出来事を改めてめぐるが振り返る。
「私も可愛いめぐちゃん見れて幸せよ~。いい曲聴けたし~」
めぐるの選曲もあってか、秋風もそれなりにゲーム音楽を気に入ったようだ。
ゲーム音楽の話を思い切り出来ただけでなく、秋風にも聴いてもらえた。
それはめぐるにとって本当に最高の一日だったし、白井や秋風にしても同じはず。
一点を除いて。
「でも~、邪魔しちゃったんじゃないかしら~。しろちゃんごめんね~?」
「い、いえそんなことは。俺もゲーム音楽好きの輪が広がるのは嬉しいですし」
白井は何かを悟った。
秋風の登場は全くの偶然であったが、神の作為があったかのような感覚。
白井もゲーム音楽自体が好きだし、ゲーム音楽を通じてめぐると親密になれることは一番嬉しいこと。
しかし、具体的な関係性の発展を白井が望んでいるわけではないが、実際にそれ以上に増長して踏み込むと神の裁きに合うと、白井は悟った。
隠しトラック
――生存確認 ~ライン上にて~
春原楓 『生きてる?』
白井健 『? 意味が……』
春原楓 『あ、よかった。生きてる』
春原楓 『じゃ』
……え、何、今の。
春原楓 『あ、そうだ』
白井健 『なんですか?』
春原楓 『今日吹先輩に会わなかった?』
白井健 『会いましたけど……』
春原楓 『何もなかった?』
……あ~。わかった。ってか何で知ってるんだろ。
白井健 『大丈夫です。神の怒りに触れるようなことはしません』
春原楓 『笑』
春原楓 『白井君気にいられてるから、大丈夫だよ』
……いや別にそういう気もないんだけどね。ほんとに。
春原楓 『多分』
大丈夫じゃないし。
白井健 『でも吹先輩って本当に月無先輩溺愛してますよね』
春原楓 『異常なレベルでね』
白井健 『そこまでですか』
春原楓 『去年他大学の人が裁かれた』
……マジか。
春原楓 『過呼吸』
……?
春原楓 『になってた』
……マジか。何があったんだ……。
春原楓 『だからちょっと心配した』
白井健 『死にたくないです』
春原楓 『www』
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