ロマンス諸曲 後編

 中編の普通なあらすじ


 部室に移動した白井と月無先輩。

 いつものごとくゲーム音楽の話で盛り上がると、新事実が発覚。

 自分で録音しているという月無先輩に、是非聴きたいとせがむ割とキモい白井。

 そしてスパロボの曲を聴く中で、白井は「曲と性別」という疑問を得る。




 曲と性別、少し気になったので先輩に見解を求めてみる。


「気付いた!? そう! スパロボの曲ってそれをちゃんと表現してるの!」

「大体曲聴いただけでキャラの性別わかりますよね。」

「ね! すごいよね! ロック基調なのにちゃんと意識して作れるって! ゲーム音楽って女性のテーマ曲いっぱいあるけど、戦闘シーンでありながらもちゃんとそれまで表現するの!」


 他には少ないかもしれないし、場面を考えれば、スパロボ以外には格ゲーくらいしかなさそうだ。

 とりあえずバラードにすればある程度そう聞こえるだろうが、戦闘シーンという軸を保ちながら女性らしさを表現するのは難しそうだ。


「あたし特に女の子キャラの曲の方が好きなの。すっごいカッコいいと思わない? もちろん男キャラの曲もアツくてカッコいいの多いし大好きだけど、より感情的っていうか、内面的な強さが出るっていうか、女の子キャラの曲にしかない魅力ってすごいの! とくに携帯ゲーム版のスパロボはそれの最高に出来がよくって!」


 具体性を伴うには難しい話だろうし、音楽的な分析は自分には不可能だが同意はできる。

 スパロボでしか聴けない曲、先輩はそれに強く魅力を感じるようだ。

 自分もどちらかと言えば女性キャラクターの曲の方が好きだったりする。


「自分もAではラミアばっか選んでましたね。アクセルの曲よりも好きでした。今聴いたのも女キャラの方が好きかも……」

「ほんと!? マジで!? わかってくれる!?」

「は、はい……。そんなに嬉しいんですか?」


 共感が得られたのがよっぽど嬉しいのか、先輩は目を輝かせ言葉を続けた。


「ラミアの曲も最高よね!コード進行すっごいわかりやすいけどそれが逆に音使いの綺麗さを際立たせてて!アドバンス版の音源の時点で最高にカッコいいじゃない?単音でメロディに深みを持たせるのってすっごい難しいのにちゃんとまとまりつつ複雑にもならないで完璧にこなしてるっていうのがやっぱり作曲家の腕だよね!」


 ……言葉を続けた。

 こちらも共感することがあったので返答をした。

 しかし気付けばこちらの返答に対しての応対はない。


 あ、フラグたったかもしれん……。


「それだけじゃなくてオリジェネでアレンジされたバージョンも素晴らしいの!Aメロがピアノの音になってるんだけどそれが安易に生音にしたものじゃなくて和音をメロに直接足すことによって最高に綺麗な響きを演出してるの!確かにこれはピアノじゃなきゃやりづらいし使うべくして使った納得のアレンジ!女性でありながらも戦士でもラ~中略~」


 おやおや、気付いたらハイパーモードに。

 これはアレだ、いつの間にかボス敵の気力が上がりまくってて、うっかり手痛い反撃をもらったりMAP兵器喰らったりするヤツ。

 やりとりの中でいつの間にか気力マックスになっていたのか、気付いた時にはもう遅い。ソフトリセットもありはしない。


「二作目のRも最高よほんとに!あたし主人公じゃRのフィオナが一番好きなんだけどこの曲は強い心と女の子らしさを併せ持ったフィオナに本当に合ってるの!AメロからBメロでD♭からモーダルインターチェンジでAM7に行くあたりとかまるで明るい世界に飛び出すような鮮やかさでしかもまたメロディの動きがまた綺麗過ぎて!D♭の音を足がかりにした転調の美しさは神よ神!ただの単音のメロディがここまで味を出すのかっていう!和音に安易に頼ってたらこんな曲は絶対に作れないね!この進行がまた女性らしさを強調しているっていうのも外せなくってAメロがB♭mから入ってここでメジャーセブンスの繊細な響きが使われることによってより魅力的に引き出されるっていうねがほんっと最高なの!性格的にも見た目的にも一番好きなキャラの曲がここまで素晴らしいと余計好きになっちゃうに決まってるでしょって!!元からめちゃくちゃ可愛いのにこんな曲付けられたりしたらもう……ってワケ!!エクサランスに込めた三人の思いまで曲の~以下略~」


 もう何度目かになるし先程曲を聴かせてもらった。

 言っていることがわかるかどうか試しに集中して聞いてみた。


 ……うん、やはりわからない。何言ってんだ状態。


 しかしまぁハイパーモードになった上に愛と覚醒を使って無限行動してくる先輩を止めることなどできるハズもない。

 耐えて撤退を待つのみだ。SP5000くらいありそうだが。


 §


 その後スパロボ女性キャラの曲をあますことなく語られ、ようやく先輩の猛攻は終わった。

 今回も迂闊であったが、ゲーム音楽がわかってくるほど引き金を引く返答をしやすくなっている気がしなくもない。


「……ゴメン」

「……いえ」


 普通に素直に落ちついたのが逆に面白い。

 互いに慣れてきているのが互いのツボにはまったのか、二人で笑ってしまった。


「なんでだろうね。女の子キャラって余計に感情移入しちゃうのか急に止まらなくなっちゃった」


 そういう理由もあるのか。

 それは男性ファンにはわからない部分なのかもしれない。

 曰くラージの態度には本当にもやもやしたという。……あぁ、あのメガネか。



「先輩そういうの全く無関心かと思っていました」

「あー失礼な! あたしだって女子ぞ!」

「ぞって……」


 女性キャラの視点を女性が見ると色々と違うのだろうか。

 スパロボは自分のやった限りでは色恋もストーリー中に含まれるので、ただロボット好きという理由以外でも好きなのかもしれない。


「戦場でのラブロマンス的なアレだよ! 多分! よくわからないけど! バンドでもあるんじゃない? うちの部活そういうのあんま聞かないけど」


 めっちゃ適当だし完全に他人事みたいに言うあたり、やはりそういうことには関心がなさそうだ。

 残念な気もしたが、そんな感想を得たタイミングで部室のドアが開いた。


「お疲れ~。あ、めぐると白井だ」

「あ、ヤッシー先輩だ!」


 八代先輩が部室に置いてある着替えを取りに来たようだ。

 気付けばそろそろバンド練習の時間になっていた。


「あんたらほんと仲いいね~。何してたの?」

「恋バナです!」

「え!? そんな話でした!?」


 何を言い始めるのかこの人は。 

 八代先輩が誤解するようなことはないだろうが、対応に困る。

 しかし反応を見る限り、月無先輩はやはり関心がないのだろうし、相手にされてもいないのだろう。

 まぁそんなものかと割り切り、スタジオに行く準備をした。


「めぐる恋バナとかするの?」

「……いやしませんね。あたし自分のしたいことで精一杯ですし。そんな時間ないってことです!」

「あはは……。あんた部活人間だしね~。ゲーマーじゃなければモテるだろうに」


 いや全くその通り。

 重大なデメリットを抱えていなかったら相当モテるだろうに。


「よし、じゃぁ練習行ってくるか。白井も行くよ、ほら」

「またね白井君! あたしはちょっとゲームしてく」


 そういえば今日は結局ゲームを全くやらなかった。

 時間を忘れて語る程、今日の曲達には思い入れがあるのだろう。

 それに、先輩のピアノソロをたくさん聞けたのは最高だった。

 今日の出来事に心の中で感謝を述べ、部室を後にしスタジオに向かった。


 スタジオへの道中、八代先輩が何やらニヤニヤしながら話しかけてきた。


「白井残念だったね」

「え? 何がです?」

「めぐる恋愛興味ないって」

「ま、まぁそういう人ですよね」


 またこの人は……でもまぁ月無先輩はそういう人だ。

 ゲーム音楽をあらゆる楽しみ方で謳歌する先輩には、いくら時間があっても足りないだろうし、それは自分が一番わかっている。

 自分も同じく余裕はないし、憧れではあるがそういう目で見るつもりはない。

 これは素直な気持ちだし残念に思うとは違うと、ともすれば言い訳のようにも聞こえる返答をした。


「……ふ~ん、そうなんだ、意外。てっきりベタ惚れかと」

「え……。なんでそう見えるんですか。先輩に迷惑かかるじゃないですか」


 完全にそうではないと言いきるには、少し割り切れない気持ちがあった。

 しかしそれが事実であるし周りが思うようなものではないと、自分にも念を押すようにそう伝えた。


「そっか。白井もほんっと真面目だね。でもめぐるのいい理解者になってると思うけどな。最近のめぐるほんとに楽しそうだよ。白井のお陰なんじゃないのかねぇ」


 そうであったら本当に嬉しいとは思うが……。


「まぁゲーム仲間としてでしょう」


 ごまかすための事実を並べることしかできなかった。

 周りに何も言われることもなく、月無先輩とゲームをしたり、ゲーム音楽について話すこの今が続けばいいと思っている。

 余計な考えには蓋をするように言葉を選ぶ癖がついてしまっていた。


「白井はもう少し自分のこと高く評価していいよ!」

「……そんなに練習熱心に見えますかね?」


 よく皆褒めてくれるが、高校まで漫然と過ごしていた感があるので褒められ慣れてないというか、わからないんだよなぁ……。


「……アハハ、まぁそういうことでいいか」

「……? ありがとうございます?」





 隠しトラック


 ――我こそは ~部室にて~


「先輩ってスパロボ結構やってるんですか?」

「……携帯版は全部かな。あとPS2から3時代のも。もっと昔の時はお兄ちゃんがやってたの見てただけの多い」

「へ~すごい。やっぱフィオナが一番好きなんです? エクサランスでしたっけ。あの換装するやつ」

「そうだね~。女の子キャラだったらフィオナだな~」

「男性キャラだとどんなんです?」

「バラン・ドバン」

「え、即答……。知らんキャラです」

「いや知らないとかダメだよ」

「え、ごめんなさい。でも名前からして濃そう」

「濃いよ。濃いなんてもんじゃない。ゼンガーとかも濃いけどその比じゃない。

 ……。……ほらこれ」

「うわ濃ゆッ」

「めちゃカッコいいじゃん」

「やっぱ筋肉系なんすね」

「曲聴いたら笑うよ」

「え、気になる」

「流すね!」


―――視聴中


「何これ……。フフ……。クッ……」

「最高でしょ。最初聴いた時何事かと思って口あけて黙っちゃった」

「絶対呆気にとられますわ。でもめっちゃカッコいいですねこの曲」

「でしょ? 白井君も筋肉の魅力がわかって……」

「こないですねそれは」



*作中で名前が出た曲は曲名とゲームタイトルを記載します。

 『OVER THE WORLD WALL』―― スーパーロボット対戦R

 『ASH TO ASH』―― スーパーロボット対戦A

 『我こそはバラン・ドバン』――第三次スーパーロボット対戦α

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