ロマンス諸曲 中編

 前編の不真面目なあらすじ


 つまらん講義に退屈していると、堂々とゲームをしている月無先輩を発見。

 ぶっちゃけドン引きしつつも話かけると、講義はガン無視でスパロボの話へ。

 そんなんでいいのか文系大学生……!




 部室に来て荷物を下ろすと、先輩が改めてのように言う。


「しかしさ~、あたしも大概だけど白井君も色んなゲームやってるよね」

「父が結構ゲームやる人だったので。スーファミからは結構家にありますね」

「へ~、じゃぁあたしと同じだね!」


 暗い青春だったわけでも引きこもりだったわけでもないが、小中高と熱心に取り組んでいたこともないので、ゲームをしている時間は長かった。

 休日に友達と集まってやることも多く、ゲームの貸し借りもあったため、確かにジャンル問わず幅は広いかもしれない。


「スパロボやってる人なんて周りにいなかったからすっごい嬉しい!」

「いや先輩女子高じゃないですか……。いるわけないですよ」


 ツッコみ待ちかよ。

 共通するのが本当に嬉しいようで、ゲームをするわけでもなく話を続けた。

 一緒にゲームをするだけでなく、話すだけの時間も先輩は好きなようだ。


 話題がゲームじゃなければそういうとこは女の子って感じなんだけどなぁ……。

 ゲームじゃなければ。

 しかし自分も先輩とただ話すだけのこの時間が落ちつくし、結構好きだ。


「AとOGやったことあるんだっけ。じゃあさ、アクセルの曲とかラミアの曲とかわかる!?」

「あ、覚えてますよ。OGの曲も結構わかるかな。不思議と記憶に残りますよね」


 先輩は待っていましたと言わんばかりに嬉々として食いついた。


「そう! そうなの! スパロボの曲ってさ、メロディめっちゃ強烈でしょ! だからすっごく耳に残るのよね~。特にGBAのは変にヒネたようなのもないからわかりやすくカッコよくて!」


 確かに、ゲーム音楽自体がメロディがはっきりしているのが多いとはいえ、その中でも際立っている気がしなくもない。少なくとも自分がやった限りではそうだ。


「スパロボの曲はテーマ曲だからね! その辺ちゃんとわかって作ってくれてるの」

「テーマ曲?」


 言ってしまえばゲーム音楽は全部テーマ曲ではないのだろうか。


「う~ん、ちょっと他とは性質が違う気もするんだよね。インスト曲っていうか、歌っていう感覚なんだよね。ほら、スパロボって機体によってそのOP曲が大抵流れるでしょ? だから歌なのよ。インストアレンジになってても」


 各作品のオープニング曲が大半だから、確かにゲーム中の曲のほとんどは歌だ。


「スパロボオリジナルの曲もそれに合わせてることもあってか、歌ものっぽいメロディが多いし、ほとんどがAメロBメロサビってわかりやすい構造してるのね」

「あ~なんとなく……。キャラ毎の主題歌、みたいな感じですかね」


 言われてみれば確かにそうだ。

 Aの主人公の曲ははっきりとそうなっていたし、OGで聴いた曲も大抵そうだったかもしれない。


「そうそう! キャラソン的なヤツね! しかも実際に歌入ってる曲あるよ、SRXの曲とか。やっぱそういう前提で作られてるのかなって思うよね」

「SRXってどんな曲でしたっけ。あの合体する奴ですよね」

「お、じゃぁ流そう! 今原曲版しかいれてないけど」


 そういうと先輩はいつもの如くその曲を流した。


「あ~、懐かしい、思い出しました。これ歌あるんですね」

「うん、めっちゃ古いヤツのサントラにボーナスで入ってた。SRX初めて出たスパロボだから最初から歌入れるの決まってたのかなって」


 先輩の話を踏まえて改めて聴くと確かに歌っぽいメロディ、歌が入ってても不自然ではない。

 主題歌として作られている印象がやはり強く感じられた。


「実はね、全部が全部そうってわけじゃないけど、歌ものっぽいメロディとそうでないものって特徴に違いがあるんだよ」

「全然気にしたことありませんでした。なんとなくはわかる気がするけど……」


 それは音楽の構造上の話だろうか。

 説明がつくものだとしても予想ができないし、想像もつかない。


「他のゲーム音楽とかインストってね、まずメロディにほとんど同音連続がないのよ。同じ音を連続で弾く時って普通音符つなげて一つにするか、音階上下するの」


 おぉ……。何やら真面目な分析が始まった。


「歌だと言葉を詰めるから、同じ音を連続するっていうのはよくあるの。見方によっては長い音符を分けてるっていうことなんだけど、スパロボの曲はそれがあったりするの。この曲もそうだよね」


 確かに先程から流れているこの曲はAメロはそうなっている。

 露骨に言葉が入りそうなフレーズだ。


「あとね、音符間の繋がりが強くて音高の極端な上下が少なかったりするのも特徴かな。やたら細かい音符が連続することもほとんどないし」

「あ~、歌いづらくなるってことですかね」

「そうそう、だからメロディが激しい動きもしないし憶えやすいってことね! やっぱり歌モノの基準に合わせてるんだよきっと」


 スパロボの曲に感じていたわかりやすさはこんなところにもあったのか。

 アニメの主題歌を自然に覚えてるのと同じ感覚ってわけだ。


「だからテーマ曲、っていうよりテーマソングっていう感覚なのかな。わかりやすメロディと素直でいいコード進行してるの多いから、コピーしやすいし、あたしスパロボの曲弾くの好きなんだ!」

「確かにピアノソロにアレンジしやすそうですね」

「うん! 自分で弾いて録音してそれ聴いたりもしてるよ」

「え? 録音?」


 今何と言ったか。

 聞き間違いじゃなければ録音と言ったはず。


「うん! 譜面に起こした曲は結構……」

「それ聴かせて下さい」

「お、おぉ? やけに食いつく」


 それはそうだ。月無先輩の演奏は全ての始まりであり、最も聴きたいもの。

 自分にとって最も価値のある音楽は間違いなくそれだ。

 ……本人には言えないけど。


「じゃぁ……。携帯版スパロボの主人公のは大体あるけど何がいい?」

「やったことあるAからでお願いします」


 本当に僥倖だ。

 月無先輩のピアノアレンジ版なら正直お金を出してでも欲しい。


「オッケー! じゃぁアクセルの曲から流そう」


 そうして早速と曲が流れ……素晴らしい。

 原曲からして好きな曲だったが、先輩の手による忠実ながらも完成されたアレンジは、鑑賞用の音楽としても素晴らしい出来。

 ゲーム音楽であるという前提からも解放された最高のピアノソロ曲だった。


「こんなもんかな! 自分の録音聴かせるのって初めてだから緊張しちゃうね」

「いや本当に最高です」


 ありのままに自分の感動を伝えると、先輩は照れながらも喜んでくれた。

 自分が聴くために作っているものを他人に聴かせる機会というのは、あまりないことだろうし先輩からすれば照れくさいことだろう。

 でもそれに終わるのがもったいないと感じたし、間違いなく人に聴かせていい水準のものだった。


「じゃ、じゃぁ折角だから他のも聴いてもらおうかな!」


 あざァァァッース!!!!


 §


 A、R、D、Jと、GBA版スパロボの主人公の曲は全て聴かせてもらえた。

 先輩の言うとおり原曲から素晴らしい曲であるのはもちろんだし、GBA版主人公はOGに出演していたので知っている曲も多かったが、見事なアレンジでピアノソロに昇華されたその名曲達は全く違う輝きを放っていた。


 先輩も最初は少し恥ずかしがっていたが、何曲か聴かせてくれているうちに慣れてきたのか、いつもの調子で曲が終わるごとに色々と語ってくれた。


「しかしよくこんなにたくさん曲コピーできますね。好きだからって言っても相当時間かかるんじゃないですか?」


 採譜し、弾けるようになるまでにはかなりの時間を要するのではないか。

 ゲーム音楽に関する先輩の仕事量の多さは改めて及びもつかない。


「う~ん、メロとコード取るだけならすぐ終わるし、そういうのも多いよ? あとはピアノで弾きながら和音足したりして弾けるようにするだけだし。鳴ってる音全部聴きとってたらそりゃ何倍も時間かかるけどね」


 確かに以前見せてもらっためぐるノートには、メロディとコードだけ記されたものが多くあった。

 ピアノソロでは全てのフレーズを弾ききれないのもあるだろうが、それにしても卓越した聴音の技術あってこそ出来ることなのだろう。

 最初自分が往生していた曲も一瞬で聴きとっていたし、先輩の音取り風景を覗いた時も異様な速さで終わらせていた。

 メロディとコードだけなら本当にすぐに取り終わってしまうのだろう。


「先輩でも手こずるのあるんですね」

「そりゃあるよ~。今聴いてもらったのは全部わかりやすいからまだいいけど、DS版のとかは音数も多いし。一曲だけ好きで好きでしょうがなかった曲があって、それは全部の音拾ってみたけどすごい時間かかったよ」


 DS版か……Wとかだっけか。

 二作目のKが色々ヤバいってのは知ってる。


 スパロボシリーズで好きでしょうがないという曲、自分も好きな曲が多い作品で、先輩が選ぶのはどんな曲なのだろうか。

 否応なしに興味が湧いた。


「一応ピアノ版もあるけど、これはシンセで録音した奴の方がいいかな」

「ソロ版じゃないってことですか?」

「うん! 頑張って全部の音再現したよ。ギターは完璧には無理だけど。行くよ~」

「そんなことまで出来るのか……」


 流された曲にイントロから思い切り引きこまれる。


 曲を聞くとすぐにわかった。

 なるほど確かに、いやそんな納得の仕方ではない。

 その曲は今まで聴いたどの曲にも劣らず、メロディの綺麗さもフレーズの精巧さも際立っていた。

 元から知っていれば自分はこれが一番好きだと挙げたかもしれない。


 原曲は知らないが恐らく本当に忠実に再現したのであろうし、前情報なしで聴かされれば素人が趣味で作った音源とは思えない。

 とくにシンセ特有のものなのだろうか、知識の満たない自分には、全くもってどうやって演奏しているかわからないすごく特殊なフレーズもあり、いかに苦労したかが窺えるようだった。


 筆舌に尽くしがたいとはまさにこのことだろう。

 いつも以上に感心したし、曲のよさにも感動してしまった。


「これカッコいいでしょ! 『Soul stranger』って曲なんだけど、またこの曲のキャラが可愛いのよ~。主人公じゃないんだけどね、キャラのストーリー上での位置づけとか性格もあってか、曲の良さが強調されてるのよね」

「あ、やっぱり女キャラの曲なんですか?」


 可愛いと言ったし、自分も曲から女性らしい印象を得ていた。

 ここまで聴かせてもらった数曲からも感じていたが、男性キャラクターと女性キャラクターでは曲からしてその差がある。

 それはいったいどういうことなんだろうか、少し気になった。



*作中で名前が出た曲は曲名とゲームタイトルを記載します。

 『Soul stranger』 ―― スーパーロボット対戦W

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