5
ありすは死んだ。
ありすは死んだ。
ありすは死んだ。
親に殺されたのかもしれない。
自殺したのかもしれない。
事故によって死んだのかもしれない。
どれかはわからない。けれど、結果はすべて同じ。
ありすは死んだのだ。
時計を持ったうさぎを追いかけて不思議の国へ行ったのではない。
彼女が死んでから僕は、学校はもちろん、図書館にも行かず、自分の部屋から一歩も出なくなった。そして毎日布団の中で過ごしている。
しかし、ずっと眠りにつくことはできないでいた。当初は学校に行けとうるさかった両親も、精神的にも肉体的にも衰弱していく僕を心配したのか、今は何も言わないでいる。
眠れない僕は床に座り込んで、ありすのことばかり考えるようになった。
ねえ、ありす。
僕は今でも君の名前が、嘘じゃないかと思っているんだ。
君は両親が嫌いだったよね。その両親から与えられたもの全てが嫌悪の対象だと言う君が、名前を偽らないはずがないと思うんだ。その真偽を今更確かめることはできないけれど、どうせなら名前だけでなく、存在さえも偽りだったら良かったのに。
そうすれば僕は、こんなにも悲しい思いをすることはなかったんだ。
こんなことばかり考えている自分は、本当に弱い人間だと思う。
僕の部屋には、彼女がこの世を去ってから色々なものが増えた。ロープ、ナイフ、睡眠薬など死に直結するものばかり。
しかし、彼女ならこう言うだろう。
「弱い人間が自分を殺せるはずがないでしょ」
その通りだよ、ありす。
僕は死ぬ勇気もない弱い人間だ。死にたいと言っても、部屋の中のものを使って死ぬことはないだろう。けれど、僕のような弱い人間でもできることはあるんだよ。
それは、人の死を受け入れること。
僕は君の死を受け入れ、これからも図書館に通うよ。
たくさんの本を読み、君が忘れてしまったことを僕が代わりに記憶していく。
そして僕がこの世とお別れしたら、たくさんの知識を持って君に会いに行くから。
勝手なことばかり言うけれど、僕は君のことが本当に――。
考え事をしているうちにいつの間にか眠っていた。久しぶりの睡眠だ。
深い眠りにつこうとしている時、僕は夢を見た。
夢の中では、ありすが図書館の玄関前に立っている。
気まずそうに近づいていくと、彼女は笑顔で迎えてくれた。
「会いに行かなくてごめんなさい。デートは……また今度ね」
「そうだね……」
ありすの死を受け入れたはずなのに。また悲しみが押し寄せてくる。
「簡単に受け入れられるわけないよね」
「うん……」
「少しずつでいいよ。私の死を受け入れてね」
「うん……」
いつの間にか僕は涙を流していた。だけど、止めようとは思わない。
「でも、私のことを……忘れないでね」
ありすも泣いている。彼女も涙を止めようとしない。
「一つ聞いていい?」
「なに?」
「君の本当の名前は?」
「新聞で調べればいいでしょ。死亡記事に載ってるんじゃない?」
ありすは、いつものように笑う。
僕もつられて笑う。
目が覚めたら図書館に行こう。
だけど今はもう少しだけ――彼女と一緒にいたい。
了
短編小説『明日も彼女は嘘をつく』 川住河住 @lalala-lucy
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