恋人を失った彼女は、復讐と言う名目で、助けて貰った彼を追い掛けて行く。

秀典

恋人を失った彼女は、復讐と言う名目で、助けて貰った彼を追い掛けて行く。

 ダリアム―ンと言われる大陸には、遥か昔から魔物達からの進行があった。 周りの国々は、その進行により一つ、また一つと滅ぼされ、大陸の中で一つだけ生き残っていた国があった。


 その名を、神聖ストロベリアと言う。


 その国の戦士達は、聖痕術ブラッディスキルを使い、魔物の進行を何とか抑えられていた。 


 聖痕術ブラッディスキルとは、血に受け継がれた神々の力である。 ある者には剣を、ある者には炎の力を、ある者には退魔の力を、人によって様々な恩恵が与えられ、奇跡と呼ばれる程の戦果を挙げていた。


 国土を取り返すまでには至らずとも、この国の中だけは平和な暮らしが約束されていた。


 そんな世界に、一人の少女が暮らしている。


 レイシアと呼ばれる少女は、今まさに運命の時を迎えようとしていた。


「ごめん、俺、他に好きな子が出来ちゃって・・・・・だからその、別れて・・・くれないか?」


「そんなあああああああああああああ!」


 今泣き崩れているのがレイシアである。 長い黒髪は背中まで届き、よく見ればそこそこ美人である。 そんな彼女を振ったのが、今まさに元恋人となったタイラットという男である。 レイシアは彼を愛していた、しかし彼の心がもう離れたというのならどうにもならないだろう。


「分かってくれレイシア、俺はもう君を愛せないんだ。 もう別に彼女が出来てしまったから! じゃあ俺もう行くから、ほんとごめん!」


「待ってええええええええええええええええ!」


 去って行くタイラットを、涙ながらに止めるレイシア。 しかし彼は止まらない、少し遠くで見ていた女の元へと手を振って向かって行く。


 そんな彼女に、一つの幸運が訪れた。 大空から何か彼に落ちて来たのだ。 それはみた事もない巨大な魔物だった。 虫の様に六本の脚でドガンと着地するのだが、彼と彼女は踏み潰され、正直さまぁみろと思ったレイシアだが、自分がピンチだと言う事をハッと気づいた。


「やめろおおおおおおおおお、来るなああああああああああああ!」


 そんな彼女の元に、颯爽と現れたのが、全身を黒に覆い尽くされた男だった。 黒髪にバンドでもしているかのような黒い皮の服、上から下まで真っ黒だった。


「チッ、間に合わなかったか。 ・・・・・おいお前、邪魔だから消えろ。 此処に居たらプチっと潰されてケチャップみたいになるぞ。 いや待て、その胸の輝きは?」


 自分の胸から七色の光が放たれている。 まさかこれは、聖痕の輝きだろうか。 そんな力が自分にあると分かったレイシアは、こんな所で巻き込まれたくないと、さっさとその場から逃げだして行った。


「待てこらああああああああああああああ!」


 ズザザザと勢いで滑るレイシア。 逃げるレイシアの足を払ったのは、先ほど逃げろと言っていた黒い服の男だった。


「ちょっと、今逃げろって言ったじゃない! なんで邪魔するのよ!」 


「アホかぁ! テメェに力があるんなら一緒に戦うんだよ! 戦士が逃げんじゃねぇ、ぶっとばすぞ!」 


「いや、待って、私は戦士じゃないんです! ほんのさっき目覚めたばっかりで、戦える力があるかも分からないんです! 私の事は見逃してください!」


「うるせぇ、死にたく無きゃ戦うんだな。 こっちだって今日が初戦闘なんだ! 俺はお前の事なんて護れないんだよ、どうだ分かったか! 俺だって死にたくないんだ、お前の力があったら助かるかも知れない。 だから、一緒に戦いやがれ!」


「ええええええええええええええええええええええええ!」


 空から落ちて来ていた魔物は、落ちた衝撃で脚が殆ど壊れている。 前脚二つが残され、それを前に此方を見続けている。 動けないなら勝てるかもと思ったレイシアは、勇気を出してそれに立ち向かった。


「分かったわ、じゃあ頑張って力を出してみるから、その間に前で押さえてて!」


「・・・・・テメェ、もし逃げたら後で殺すからな・・・・・。」


 本当は逃げる気だったレイシアだが、言われてしまったので一度戦ってみる事になった。 しかし彼女には力を出す方法が分からない。 だからとりあえず叫んでみた。


「私の力よ、現れよ! はああああああああああああ!」


 その叫びが功を奏したのか、レイシアの力が覚醒した。 青い持ち手に、赤く染まったハンマー、これは、ピコタンハンマーだ! ハンマーの部分をぎゅっと押すと、プギューっと可愛い音を出す。 だがきっと何か力があると感じたレイシアは、それを持って戦いに加わった。


「貴方、名前は?」


「ああん、ブラッグだよ! 良いかお前、俺は右に行くから、お前は左に回れ。 二手に分かれて攻撃するぞ。」


「お前って呼ばないで、私はレイシアだから。」


「じゃあレイシア、左は任せたぜ!」


「いいわ、行ってやるわよ! どうせ彼氏に振られてムカついてたの、この怒りはあの魔物にぶつけてやるわ!」


「んじゃ行くぞ!」


「「とりゃああああああああああああああああああ!!」」


 レイシアは左に回り込み、一本の脚を躱しながらそのハンマーをブチ当てた。 そのハンマーが当たった瞬間、その魔物は空の彼方へと飛んで行った。


「案外凄いわこのハンマー。 もしかして、私最強だったり?」


「ふん、やるじゃねぇか。 じゃあ俺は行くから、お前はもう帰れ。 この手柄は俺の物にしとくから。」


「ふざけんな、私が倒したんだから私の物よ! 金一封でもよこしなさい!」 


「あぁぁぁぁ、めんどくせぇ、じゃあもう付いて来いよ、俺の組織に案内してやらぁ。」


「あっそ、じゃあこんごともよろしく。 一応アンタに助けられたみたいだし、彼氏の復讐でもしないとだしね・・・・・。」


「うし、じゃあ行くぞレイシア、先輩として徹底的にしごき倒してやるからな!」


「うええええええええ・・・・・。」



 レイシアは組織に登録され、晴れて二人はパートナーとなった。 そしてこれからも何か適当に頑張っていくのだろう。


                  END

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恋人を失った彼女は、復讐と言う名目で、助けて貰った彼を追い掛けて行く。 秀典 @kurokoge

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