嗚呼、我ら自宅警備隊
筆
第1話 罰を受けた
窓もカーテンも閉め切った暗い部屋に、ディスプレイからの人工光と効果音がはじけでる。ディスプレイに映し出されているのは戦場。キャラクターが手にしているのはSCAR-H、
この部屋の住人の名は
突然、部屋に電話の呼び出し音が響いた。
「誰だよ...ババアからか」
『もしもし母さん?』
『宅ちゃん...仕事は?』
『あぁ、仕事...仕事か...仕事はそのうち適当なとこで働くよ』
『そのセリフ、去年も聞いたわよ。仕送りはもう送りませんからね』
『いやちょっと待っ『プツ...プー...プー...プー』』
「クソッ切りやがった!」
俺は俗にいうニートだ。ネットスラングだと自宅警備員だ。みんなが行くからという理由であまり興味もない大学に入学し、何となく卒業してそのまま会社に就職できると思っていた。しかし、俺を待ち受けていたのは厳しい現実だった。面接を受けた企業はすべて不合格だった。「人生そんなに甘くない」と社会に宣告された気がした。それからがむしゃらにいろいろな企業の面接を受けていった。しかし全て落ちた。最悪だ。こんなことになるんだったらもっと大学時代に何かしらのスキルを身に着けるべきだった。そう後悔するのが遅すぎた。これまで一緒に面接を受けていた仲間たちがだんだんと減っていった。彼らが就職をあきらめた訳ではない。合格していったのだ。結局残ったのは俺だけだった。この時点で俺はもう働くことをあきらめた。
就活に失敗した俺を母親は慰めてくれたがその程度では完全に折れてしまった俺の心は修復されることはなかった。母親は「来年があるから」と仕送りをしてくれた。「来年があるから」という言葉の裏には「就職をしろ」という意思がこもっていた。
仕送りが届くごとに心臓を握り潰されたような感覚に襲われ、息苦しくなってしまう。社会から「お前は不要だ」といわれたのがトラウマなってしまった。そのトラウマから逃げ続けて一年経ち二年経った。この二年の間に母親の態度は激変した。まさに母親というまなざしからぶんぶんと鬱陶しく飛び回る羽虫をみるようなものへと変わっていった。母親にとって働かないものは道端にへばりついている吐き捨てられたガムと等しいかそれ以下の存在なのだろう。
ついに、仕送りが絶たれた。仕送りはトラウマを思い出す要因でもあったが、生命線でもあった。その生命線が絶たれたら俺はどうやって生きればいいんだ...
気づいたら鯖からタイムアウトしていた。タイムアウトは一定時間放置していると勝手に鯖からはじき出されることだ。ちなみに鯖とはネットスラングでサーバーの事だ。タイムアウトするほどの時間がたっていた。もしかしたらそれ以上に時間がたっていたのかもしれない。まるで時が止まっていたのではないかと錯覚するほど仕送りが絶たれることがショックであり、まさに絶望という二文字がピッタリと合う状況だった。
絶望に打ちひしがれ、日々の生きがいでもあったゲームをしなくなってしまった。俺の頭の中には「死」という言葉で埋め尽くされていた。そして俺は首を吊った。この絶望的な状況から逃れるためには死ぬしかないと思ってしまった。
『ねえ君、自殺したよね?』
まあ、首吊ったから自殺だよな。
『君には罰を受けてもらうよ』
なんだか意味の解らないことを目の前の妙に神々しいショタが言ってやがる。
『一応言っておくけど君の思考は読めるからね?ショタって悪口でしょ?みんなには神様らしくないってよく言われるけど、これでも神なんだからね。あんまり悪口言ってると不死のカエルに転生させるよ?』
おっと失礼、流石に不死蛙は勘弁してほしいな
『さて、君の罪状だけどさっきも言った通り自殺だよ。僕たちはね、自分で命を絶つことは禁忌としているんだ。だから君には罰として転生して生き直してもらうからね』
ちょっと待て、お前らの価値観を押し付けるなよ。俺が首を吊った理由とかも考慮して考えたんだろうな。
『そんなこと知らない』
は?
『自殺は禁忌なんだもん』
「だもん」じゃねえよ
『とにかく、君には寿命が尽きるまで生きてもらうから』
話が通じねえな
『監視役として使者をつけるから。あ、一応言っておくけど本当の事だからね。実は夢でしたとかそんな落ちはないからね』
はいはい、そうですか
『あ、その態度は信じてないね。ほんとに本当の事だからね。』
死んでまで罰を受けるなんて、思いもしなかったな。まあ、本当の事かどうかわからんが
嗚呼、我ら自宅警備隊 筆 @hude
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