Ruins -兄妹の旅日記-
琴乃葉 ことは
Is it water? ‐それは水ですか?‐
「にい…。準備、できた。」
腰まで伸びた長い銀髪を、少し邪魔そうに払いながら少女は立ち上がる。
「おう、ありがとう
その側で広げていた地図を小さくまるめながら、黒髪の青年が答えた。
「ここにも、無かった。」
「仕方ないさ。あれはそういうものだから。」
少女と青年は荷物を背負い歩き出す。
唸るような陽射しが照り付ける中、二人を映す陽炎がゆらゆらと揺れていた。
――そんな、ある日の昼下がり――――――
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「なぁ…なぁ、縡禰…。」
「うん。」
「流石に暑すぎないか…今日。」
「…うん。」
今は、8月頃だろうか。
木々に覆われている道路を歩いているせいなのかわからないが、異様に蒸し暑く感じる。
一応国道だというのに、長らく整備されてないせいか、ところどころ剥がれたコンクリートに足を取られて歩きにくい。
ただでさえ暑いのが嫌いだというのに…。どんどん体力がもっていかれる。
「水…まだある?」
「うん。」
「縡禰…さっきからお前「うん」しか言わないな…。」
「うん。」
「縡禰さん…いい加減お兄ちゃん悲しく…っておい!大丈夫か⁉」
心配そうな声とともに身体を支えられる。どうやら倒れかけていたらしい。
「とりあえず、そこの木影でいったん休もう!」
すぐさま異常に気付いたにいに連れられ木陰の傍に座らされる。
にいが慌てたように、自分の肩にかけていたショルダーバックを下ろし、バックの中を漁り始めた。
パンパンのバックから見つけるのに多少手間取ったようだが、目当てのもの見つけこちらに差し出してくる。
「ほら、水飲めって」
そう言って口へ押し付けられたのは500mlのペットボトルだった。しかし、これを飲むわけにはいかない。
「ほら、口開けろって。そのままじゃ死ぬぞ」
「にい…が飲んで…。」
水は貴重だ。この世界で生きてための最低条件とも言える。それに今まで飲んできた水の量は明らかに自分のほうが多いのだ
「大丈夫。あと1本あるから気にせずに飲め。」
「ん…、わかった。」
それならと自分を納得させ口を開ける。ここで倒れてしまう方がもっと迷惑をかけてしまうだろう。
よほど喉が渇いていたせいか、水を飲むたびに少し喉が痛い。それでもにいにこうして飲まされていると思うと、うれしさと恥ずかしさが相まってそんな感覚は忘れてしまった。
ぷふぁ―――。
心地よい余韻を響かせ暫しの至福に呆ける。
「ほら、無理しなくていいんだぞ。喉乾いてるなら、乾いてるって言ってくれればよかったのに。」
そうだ。ひとついいことを思いついた。私もあれをやってみたい。
下ろされたショルダーバックのもとへ行き、中をあさっていく。
「ど…どうした縡禰?もしかして、水…足りなかった?」
「違う。」
「え、じゃあどうして―――。」
しかし、しばらくバックの中を探し続けていたが目当てのものは見つからなかった。にいの思惑を察し、深いため息とあきれた視線を送る。
「にぃ…、嘘ついた。もう水無い。」
「いや、悪かったって。そう言わないと縡禰が水を飲まないと思ってさ。そんなに今すぐ必要だったか?たぶん、もう少しで目的地に着くと思うし、そこに行けば水飲み放題だと思うぞ。」
ちがう、そういうことじゃないと首をふる。
「にい…さっき水飲ませてくれた。」
「うん、それで?」
「今度は、私がにいに飲ませたい。」
「へ?」
にいから気の抜けた声があがる。
やはりダメなのだろうか?
でもいつか自分の手で飲ませてみせると、そんな決意のもとにいを見つめる。
「…わかったよ。ほら、着いたらいくらでも飲んでやるから。だからほら、今はとりあえず行こう。」
とりあえずではダメだ。この機会を逃すわけにはいかない。
「早くしないと日が暮れる可能性があるし。縡禰は真っ暗なのが苦手だろ。そろそろ夜が来ちゃうぞ。」
それなら…よし。
「ん…わかった。絶対、約束。」
「ゆびきり…して。」
にいに向けて小指を向けると「わかった」と応え、こちらに小指を近づけてくる。
ゆっくりと小指を絡ませて、今更ながらに恥ずかしくなってくるものの、うれしさにはあらがえず思わず笑みがこぼれてしまう。
「それじゃあ…行くか。そろそろ腹も減ってきただろ?早めに着いて夕飯の支度をしないとな。」
にいの言葉に頷き、気合を入れて立ち上がる。
少し日が沈みかけた夕暮れ。そろそろ暗い…暗い夜が訪れようとしている。
Ruins -兄妹の旅日記- 琴乃葉 ことは @kotonohakotoha
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