『7/化物』

「あんたさん、村はずれの森に行くって言うのかい? やめときなよ。あそこにはバケモノが住んでいるんだからさ」


 中年の女は親切心から、黒髪の少年にそう助言した。

 彼らがいるのは、とある小さな村である。小さな民家に、畑、整備されていない小道。穏やかに流れる雲。


「バケモノ、ですか」

「ああそうさ。あたしも実際に見たことないからわからないんだが、小さな子供の姿をしたバケモノだそうだ。見つかったら最後、食われちまうそうだよ」

「そうですか。僕はそのバケモノってやつに会いたいんです。その村はずれの森にはどうやって行ったら良いのですか?」


 女は少年の言葉に眉をひそめた。それから少しだけ声を低くして言った。


「あんた、あたしの話聞いていたのかい? よしなって。大方下手な好奇心だろうけど、好奇心は猫を殺すっていうじゃないか」

「僕は猫じゃありませんよ。……僕はそのバケモノと約束したんです。いつか必ず、また会いに行くって」


 女は哀れむような目で少年を見た。どうやら大分頭がいかれた人間だと思われてしまったようである。

 それから女はおかしそうに笑って、冗談めかしてこう言った。


「あんた、バケモノと友達なのかい?」

「ええ。彼女たちと僕は友達ですよ」


 女はその返答を聞いて、何がおかしいのか腹を抱えて笑った。

 数分後、女に森への行き方を教えてもらった少年は、礼を言うと去って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る