『2/救済』
その部屋には、二人の人間がいた。
そこそこ広い部屋の中央には木製のテーブルに、二脚の椅子。その椅子に二人は腰掛けている。テーブルの上の花瓶の中にはかつては美しかったであろう花があった。今は朽ち果て、醜くしおれてしまっている花々だ。水は茶色く濁り、苔が浮いてしまっている。
暖炉の中から薪が燃える小さな音がする。本来はあまり聞こえないはずの音だが、部屋が静寂に包まれているためよく聞こえているのだ。
部屋の空気はどこか重苦しかった。妙に空気が湿気ていて、黴臭いせいなのかもしれない。
壁に飾られている絵画の中で、柔らかく微笑む貴婦人の表情もどこか虚ろに見えてしまうから不思議だ。
「……それで、どうでした? 様子は」
椅子に腰掛けている一人の女が重い口を開いた。虚ろな目をした、赤毛の女だ。頬はこけ、目は窪んでしまっている。肌の色も青白く生気がない。
「普段と変わりありませんでした。エデは相変わらず――」
もう片側の椅子に座っているもじゃもじゃ頭の男の言葉を、女は鋭い声で遮った
「分かってます、それ以上は言わなくても」
「はい……」
男は力なくうな垂れた。
「……先生、私はどうしたら良いのでしょう」
女はぽつりと呟いた。それは今にも消えてしまいそうなほど小さく、かすかに震えていた。男は答えられない。
「私は、どうしたら救えるのでしょう……。私は、見ていられないんです。あんな風になってしまって……」
「奥さん……」
「やはり本当のことを話すべきなのでしょうか……。でも、きっとそれを聞いたら……」
女はもうそれ以上何も言えなかった。ただ両の手のひらで顔を覆って肩を震わせていることしかできない。泣いているように見えるが、女の目からは一滴も涙はこぼれてこない。泣くと言う行為を忘れてしまったのかもしれない。
「……先生」
女は短く男を呼んだ。男は神妙な面持ちで何でしょう? と問い返した。暖炉の中の火がぼうっと揺れた。
「貴方だけは……あの子を見捨てないでください。どうかお願いします」
男は無言で頷いた。
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